劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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遊びに来たのか、邪魔しに来たのか……


卒業生たちの来訪

 大学生は高校生よりも春休みが早く、真由美たちは久しぶりに一高を訪れることにした。

 

「なんでここなんだ? 別の所でも会えるだろ」

 

「達也くんはまだ生徒会の業務とかあるし、仕事っぷりを見たいってのもあるのよ」

 

「ですが、例え卒業生とはいえ今は部外者です。簡単に入れるとは思えないのですが」

 

「その点は問題ないわよ」

 

 

 真由美が鈴音の疑問に対して答えようとしたタイミングで、出迎えの人影が現れた。

 

「お姉さま、急用とはいったい何事ですか?」

 

「もう大丈夫よ。さぁ、生徒会室に行きましょう」

 

「? あっ、十文字様、お久しぶりです」

 

「ああ、妹の方か」

 

 

 泉美と面識のある克人は、軽く会釈を返して真由美へ向き直った。

 

「生徒会役員である妹を使って中に入るとは」

 

「少し仕事っぷりを見たら大人しく応接室で待つわよ。それに、摩利だって久しぶりに千代田さんたちに会いたいんじゃない?」

 

「まぁ、会えるなら会いたいがな」

 

 

 まだ状況が呑み込めていない泉美に、鈴音が説明をした。

 

「真由美さんは司波君の仕事っぷりや、貴女たちの仕事っぷりを見たいようです」

 

「はぁ……我が姉ながら、なんとも暇な事を……」

 

「暇じゃないわよ! 可愛い妹の働きっぷりを見たいのは、姉として当然の事よ!」

 

「いや、当然ではないと思うが……」

 

 

 克人のツッコミに、摩利も鈴音も同意したが、昔からツッコまれれば余計に貫き通す節が見られる真由美が、こんなことで行動を変えるとも思っていなかった。

 

「と、とにかく! まずは深雪さんや達也くんに挨拶しなきゃ」

 

「あたしは風紀委員会本部に顔を出すから、途中まで一緒に行くか」

 

「生徒会室から行けばいいじゃない。多分千代田さんもそっちにいると思うわよ」

 

「花音はもう引退してるだろ。五十里も一緒だ」

 

「五十里君は達也くんと仲良しだし、いてもおかしくないと思うわよ」

 

「確かに、五十里先輩と千代田先輩は良く生徒会室や風紀委員会本部にいます」

 

「ほら」

 

 

 現職の泉美からの情報に胸を張り、真由美は得意満面の表情を浮かべた。

 

「とにかく、生徒会長である司波さんに挨拶するのは礼儀ですね。生徒会役員の泉美さんをこのような事に使った事への詫びもしなくてはいけませんし」

 

「使ってないわよ!」

 

「まぁ、お姉さまのこういう行動は今に始まった事ではありませんので」

 

「そうだな」

 

「摩利まで!」

 

 

 泉美を先頭に生徒会室へ向かう間も、真由美は不貞腐れていた。自分が悪い事をしたわけではないと思っているのか、その言動は実に子供じみていた。

 

「あれ、本当にお前の姉か? お前の方がしっかりしてるように思えるんだが」

 

「渡辺さんこそ、恋人の妹さんに怯え、司波先輩に仲介を頼んでたそうですね。どちらが年上か分かりませんよ、それじゃあ」

 

「なっ!? 何故その事を……」

 

 

 ふと思い当たって真由美の方に振り向くと、真由美は吹けもしない口笛を吹いて何かを誤魔化そうとしていた。

 

「やっぱりお前か!」

 

「摩利がエリカちゃんに対して苦手意識を持ってるのも、達也くんに仲介してもらったのも事実でしょ!」

 

「真由美だって苦手な事くらいあるだろ!」

 

 

 騒ぎ出した二人を、克人と鈴音が抑えるために口を開く。

 

「渡辺、お前まで騒ぐとはな」

 

「真由美さんの相手をまともにしていたら身が持ちませんよ」

 

「そうだな……すまん、十文字、市原」

 

「ちょっと! リンちゃん、今のどういう意味よ!」

 

「どういうって、聞いた通りだと思いますが。真由美さんの言動行動に最後まで付き合っていたら、こちらの身が持たないという意味です」

 

「市原、あまり七草を刺激するな。余計騒がしくなる」

 

「そうでしたね。ごめんなさい、十文字くん」

 

 

 再び真由美が口を開こうとしたタイミングで、廊下の向こうから見覚えのある男子生徒が現れ、真由美は急におとなしくなった。

 

「お久しぶりです、十文字先輩」

 

「師族会議襲撃事件の捜査以来だな、司波」

 

「あの時はお世話になりました」

 

「いや、俺の方こそ世話になった」

 

 

 現十師族当主と、次期当主という立場だが、二人ともそんな感じではなく、普通に高校の先輩と後輩の間柄で挨拶を交わした。

 

「渡辺先輩と市原先輩も。ご無沙汰しております」

 

「あたしはちょくちょく会ってたが、市原はいつ以来だ?」

 

「バレンタインにチョコを渡して以来ですかね」

 

「やっぱりお前も渡していたのか。さすが達也くん、モテモテだな」

 

「達也くーん、お姉さんの事無視してない?」

 

 

 いつまでも自分に声を掛けてこない達也にしびれを切らした真由美が、甘えるような声で達也の腕を取った。

 

「無視はしていませんが、七草先輩は割と頻繁に会っていますから、他の先輩方を優先しただけです」

 

「だいたいお前は、あたしと会うたびに『達也くん、達也くん』と言ってるじゃないか」

 

「ちょっと! それは達也くんには内緒だって言ったでしょ!」

 

「いくら初恋でそれが実ったからと言って、その惚気話に付き合わされるあたしの身にもなれって言ってるんだ」

 

「なによ! 摩利が修次さんとの事でエリカちゃんとギスギスしてるって愚痴に付き合ってあげたの忘れたの?」

 

「惚気と愚痴は別物だ!」

 

「だいたい一緒よ! 聞いてる方は嫌気がさすってところがとくに!」

 

「分かってるなら少しは控えろ!」

 

「お二方、一応作業中ですのでお静かに」

 

 

 達也が注意すると、真由美も摩利も気恥ずかしそうに視線を逸らし、そして同時に頭を下げた。その行動がおかしかったのか、鈴音がクスクスと笑い声を漏らし、克人は何故か情けないという表情を浮かべていたのだった。




真由美と摩利が揃うと騒がしいな……

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