それぞれが気に掛けていた後輩の卒業を祝い、そのまま流れで現職の生徒会役員+雫、エリカ、香澄、を加えた大所帯で一高近くの飲食店へ向かった。
「幹比古たちはよかったのか?」
「いいのいいの、二人っきりの時間を邪魔しちゃ悪いでしょ?」
「エリカ、随分と楽しそうね」
「美月とミキはからかうと面白いからね」
「エリカ、それって酷くないかしら?」
セリフだけならエリカを責めているようにも思える深雪だが、その表情は実に楽しそうだ。
「卒業生が今日の主役だし、ここは桐原先輩に奢ってもらいましょう」
「テメェ、千葉! 何で俺なんだよ! 主役だって分かってるならお前らが奢れや!」
「えー! 女の子に奢ってもらうんですか? 桐原先輩はプライドとかないんですか? 巴先輩、こんな人と別れて他の人に乗り換えた方が良いかもしれませんよ」
「それもそうね……」
「お、おい!」
慌てふためく桐原を見て、エリカと巴はしてやったりの顔を見せた。
「冗談ですよ、桐原先輩。誰もがみんな達也くんみたいにお金持ちじゃないですもんね」
「大丈夫よ、桐原君。貴方一人を養うくらい、三十野家なら容易いから」
「お前ら、俺をからかって楽しんでやがるだろ!」
「だって服部先輩はからかえないし、啓先輩はからかおうにもこっちがダメージを負う惚気が返ってきそうですしね」
「それに、私も桐原君が狼狽える姿を見たかったし」
「お前ら……」
盛大に脱力する桐原を見て、エリカと巴は再び楽しそうに笑ったのだった。
「桐原のヤツ、だいぶからかわれてるな」
「はんぞー君はお相手いないの?」
「は、はい……」
「あーちゃんは? 仲よさそうだけど」
「ぶっ!?」
「真由美さん!? 私と服部君はそんな関係じゃありませんって何度も言ってるじゃないですか!」
「でも、あーちゃんと親しい同級生の男子って、はんぞー君くらいじゃない? 五十里君はもう決まった相手がいるし」
先輩の前だろうが自重しない花音に手を焼きながらも幸せそうな表情を浮かべている五十里をちらりと見て、真由美は視線を再びあずさと服部に戻した。
「はんぞー君も魔法技能においては何の問題もないし、あーちゃんだってはんぞー君相手なら自然体でいられるでしょ?」
「真由美さん、人の関係に首を突っ込むのはおやめになった方が。後程しっぺ返しを食らう事は摩利さんの件で身に染みているはずですが」
「でもさ、リンちゃん……可愛い後輩同士が付き合ってくれた嬉しいじゃない? あーちゃんもはんぞー君も生徒会で一緒だったんだし、お似合いだと思うんだけど」
「確かに中条さんが委縮することなく付き合える異性となれば限られてきますが、それは真由美さんが決める事ではなく中条さん本人が決める事です」
「そうだけどさー……あーちゃんに任せてたら絶対に進展しないと思うからお姉さんが背中を押してあげてるんじゃない」
「そう言うのをお節介と言うんですよ」
「リンちゃん、最近私に対してますます強気になってない?」
「気のせいです」
エリカと巴は桐原を、真由美は服部とあずさをからかっている中、それ以外の人間もそれぞれの話題で盛り上がっている。
「やっぱり吉田くんと美月は付き合うのかな?」
「お似合いだと思うけど、中条先輩や服部先輩のように、周りが背中を押さないとなかなか付き合わないと思う」
「先輩たちだって、付き合ってるわけじゃないと思うけどね」
「でも、深雪だってあの二人はお似合いだと思うでしょ?」
「そうね。中条先輩を怖がらせない人となると、それなりに親しくないと駄目でしょうし、服部先輩なら実力的にも申し分ないと思うけどね」
「それに、お互い少なからず意識してるっぽいし」
「雫、服部先輩が凄い顔でこっちを睨んでるけど?」
「あれは照れ隠し」
雫のからかいにあずさの顔は今までにないくらい真っ赤になり、服部は真由美からだけでなく雫にまでからかいの対象にされ対応に困っていた。
「何故俺なんですか! 十文字先輩だっているじゃないですか」
「じゃあはんぞー君は、十文字くんをからかえるのね?」
「それは……」
服部に視られている事に気付いた克人が、ゆっくりと服部に近づいていく。一歩近づくにつれ、服部の表情が引き攣っていくのを真由美は面白そうに眺めていた。
「どうした服部、俺の顔に何かついてるか?」
「い、いえ……何でもありません」
「そうか」
人をからかって楽しむという概念を持ち合わせていない克人は、それだけで服部の前から元の席へと戻っていった。
「相変わらず十文字は良識人だな」
「そうね。摩利よりはよっぽど良識のある人よね」
「真由美だってあたしと大して変わらないだろ。現に中条と服部をからかって遊んでるんだし」
「私は遊んでるんじゃなくって、あーちゃんとはんぞー君の恋路を応援してるだけよ」
「市原にも言われたんだろ? 余計なお世話だって」
「私はお節介としか言ってませんが」
「どっちも大して変わらないだろ」
もはや見慣れた真由美と摩利の言い争いが始まった中、香澄と泉美は水波と遊びに行く計画を立てていた。
「それじゃあ、この日はどう?」
「確かその日は達也さまも深雪様もお出かけのご予定はありませんので、大丈夫だと思いますよ」
「じゃあ決まりですね。水波さん、忘れないでくださいね」
「もちろんです。香澄さんと泉美さんこそ、忘れないでくださいね」
楽しそうな空間はここだけだなと、達也は横で惚気話を続けている花音を無視してそんなことを思っていた。
水波が何だか楽しそうですね