劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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口を開くとネタキャラに……


沢木の性格

 旅行の準備といってもまだ春先の沖縄なので、水着などは必要ない。だがなんとなく立ち寄った水着売り場で、あずさは自分の胸と紗耶香の胸を見比べてため息を吐いた。

 

「どうかしたの、中条さん」

 

「いえ、どうして私は成長しないんだろうと思っただけですから」

 

「成長?」

 

「身長とか、あとはその……胸とか」

 

「中条さんには中条さんの魅力があるんだから、気にしなくてもいいと思うけど」

 

「そう言ってもらえると嬉しいですけど、もう少し成長してくれても良かったなとは思うんですよ、やっぱり」

 

 

 真由美みたいに背は低くても胸は平均的にある、くらいがあずさの理想だったのだが、高校三年間で殆ど成長しなかったのを考えると、これから先も成長は見込めないだろう。

 

「こんな体型だから私、昔から男の子に馬鹿にされて、それで男の子と上手く話せなくなって……」

 

「でも今は、服部君とか五十里くんとか、話せる異性は増えたじゃない? 司波君とだって、ちゃんと話せてたんだしさ」

 

「あれは、司波君が気を遣ってくれて距離を取ってくれてるからだよ。前に至近距離で声を掛けられた時は、足が竦んでまともに喋れなかったんだから」

 

 

 あずさが話しているのは、生徒会長選前にあずさに出馬を求めるために二年の教室に達也が訪れた時の話であるが、紗耶香はその事を詳しくは知らなかった。

 

「そう言えばそんな噂もあったわね。一科生の教室に二科生の一年生がやってきたって。あれって司波君が中条さんに会いに来てたんだ」

 

「会長選に出馬してほしいって、真由美さんに頼まれたらしいの」

 

「まぁ、司波君なら交渉術にも長けてるでしょうし、結果的に中条さんが出馬して平和な選挙になったわけだしね」

 

「いろいろとありましたけどね」

 

 

 観客からのヤジに深雪が怒り、魔法を発動させそうになったのを達也が抑え込む、そんな事があったために、投票された内の殆どが無効票となる残念な結果になったのだった。

 

「深雪さん、司波君の方が私より投票数が多かったんですけどね」

 

「あんなの見せられたらね……入れたくなる気持ちも分からないでもないけど……」

 

「でも、深雪さんも司波君も私の補佐としてしっかり働いてくれましたし、私も会長として頑張りました」

 

「うん、それはみんな知ってるよ」

 

 

 投票の際にはいろいろと問題はあったが、いざ就任してしまえばあずさは立派に生徒会長としての職務を全うした。たまに深雪や達也の方が会長らしいと言われることもあったが、大まかな評価は真由美とさほど変わらない支持率をたたき出していたのだ。

 

「本当は服部君の方が会長に相応しいと思ったんだけどね」

 

「仕方ないよ。服部君は十文字先輩の推薦で部活連の会頭に内定してたんだし、本人もやる気になってたんだもん」

 

「真由美さんにも渡辺先輩にもそう言われてた。でも、私なんかが会長なんてって思うと、どうしても出馬する気になれなかったんだよね」

 

「何で出馬したの? 司波君に説得されたからってのは分かったけど、何かあったの?」

 

 

 たんに説得するだけなら真由美と摩利でも十分だったと思う。そこに鈴音が加われば間違いないとさえ紗耶香は思っている。だが達也が説得したからには何かあったに違いないと思ってもいるのだ。

 

「過去の惨事を繰り返すのかと脅され、深雪さんに背中を押され、就任のお祝いにって当時発売前の飛行デバイスをプレゼントするって言われてつい……」

 

「つまり、物につられたのね……」

 

「だって、飛行デバイスですよ! しかもモニター品でシリアルコードも入ってない非売品! 欲しいに決まってるじゃないですか!」

 

「分かったから、大声出すのは止めてくれる? 変に注目を集めてるから」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

 とりあえず場所を移そうと、紗耶香とあずさは待ち合わせ場所である店の前に移動した。そこにはすでに服部と沢木が待っていたので、二人は一応頭を下げて謝罪した。

 

「ゴメン、待たせたかな?」

 

「いや、せいぜい十分くらいだ。気にしなくても大丈夫だ」

 

 

 正直に待った時間を告げる沢木に、服部は苦笑いを浮かべる。紗耶香も少し苦めの笑みを浮かべていたが、沢木は何故二人が苦笑いをしているのかが分からず首を傾げた。

 

「ところで、中条さんは何故顔を真っ赤にしてるんだ?」

 

「話に夢中になって、周りに人がいるのを忘れて大声を出しちゃったのが恥ずかしいのよ、きっと」

 

「なるほど。だがそれだけ夢中になれる者があるのは良い事だと俺は思うけどな」

 

「沢木はそうかもしれないが、中条はそうじゃないかもしれないだろ」

 

「そんなものか?」

 

「ほんと、お前は黙ってれば男前なんだがな……」

 

「なんだいきなり」

 

 

 それなりに女子から人気があってもおかしくない見た目の沢木だが、同学年には沢木の本性――というか、口を開けば残念な部分が浮き彫りになる事を知られているので、浮いた話の一つもないのだ。その事を周りは知っているのだが、沢木自身はまったく気にしていないというか、色恋沙汰に興味が薄いので関心を示さないのだ。

 

「とりあえず、必要なものは買えましたし、後は当日を待つだけね」

 

「北山たちも同時期に沖縄に行くみたいだから、もしかした向こうで会うかもしれないな」

 

「北山さんたちが行く、という事は当然司波君も来るのだろう。彼はいろいろな意味で楽しいから好きだ」

 

「お前は……また美術部にネタにされるぞ」

 

「何のことだ?」

 

「いや、知らないならそれでいい」

 

 

 前に達也と沢木をネタに同人誌を作ろうとした集団を摘発した服部は、その内容を見て吐きそうになったのだ。本人に伝えるべきか悩み、結局伝えなかったのだが、こいつなら気にしなかっただろうなと今更ながらに後悔したのだった。




本当にそういうネタで盛り上がる人っているんですかね……

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