劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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これからもちょこちょこ出していきたいですね


IF技術者ルート その3

 五十里と昇降口で別れたあずさは、ホクホク顔で校門までの道を進んでいく。すると横合いから懐かしい声が聞こえた。

 

「あーちゃん」

 

「真由美さん? 何かご用だったのですか?」

 

「ちょっとね。それにしても、何か良い事でもあったのかしら?」

 

「な、何にもありませんよ」

 

「誤魔化しても無駄よ。普段そんなに嬉しそうな顔しないし、思いっきり挙動不審になってるもの」

 

 

 真由美に声を掛けられたこと自体には反応しなかったが、何かあったと聞かれて明らかに挙動がおかしくなっているのを、あずさ自身も感じていたので、素直に白状する。

 

「実は、司波君にCADを調整してもらえたのです」

 

「達也くんに? 頼めば割かしやってくれると思うんだけど」

 

「それは真由美さんが婚約者だからですよ。私はただの先輩と後輩って間柄でしたし、何回か頼んでみたのですが、調整してくれたのは今日が初めてです」

 

「そうなんだ。達也くんって深雪さんのはもちろん。光井さん、北山さん、桜井さんといった近しい人のCADは調整してるからてっきり頼まれれば誰のでも調整してるのかと思ってた」

 

「千葉さんのはあまりしてないみたいですし、私の『梓弓』用のCADはやらないって言われました」

 

「達也くんなら出来ると思うのよね。何せ天下の……っと、これは秘密だったっけ」

 

 

 ついつい口を滑らしそうになった真由美は、危ない危ないと呟きがなら口を押さえた。その仕草があからさまだったので、あずさは余程の事を言いそうになったのだろうと、余計に気になって仕方なくなっていた。

 

「何を言おうとしたのですか?」

 

「こればっかりはたとえ私とあーちゃんの仲でも言えないわね。達也くんに怒られちゃうかもしれないから」

 

「秘密は守ります。こう見えても口は堅いんですから」

 

 

 胸を張り安心してくれと言わんばかりにその旨を叩き、反動が強すぎて思わずむせてしまったあずさ。その姿を見て真由美はクスクスと笑い、そしていつもの小悪魔的な笑みを浮かべた。

 

「もし怒られるときはあーちゃんも一緒だからね?」

 

「分かってます」

 

「実はね――」

 

 

 そこから先の事を、あずさはよく覚えていない。真由美から聞かされた達也の秘密は、昔あずさが思い至った通りの事であり、達也本人から聞かされたという真由美の言う事を信じるに足る実力を目の当たりにしているのだから当然だろう。

 

「あーちゃん? ちょっとあーちゃん!」

 

「は、はひぃ!?」

 

「聞いてるのあーちゃん?」

 

「え、えぇ……あっ、私ちょっと忘れ物したみたいなので、これで失礼します」

 

「えっ、ちょっと――」

 

 

 ちょこんと頭を下げ、猛スピードで校内に戻っていくあずさを、真由美は呼び止める間もなく見送るしか出来なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あずさ史上最速ではないかと思えるくらいの速度で先ほどの部屋に戻ったあずさは、まだ鍵が掛けられていない事を確認して、扉の前で深呼吸をした。

 

「し、失礼します」

 

「中条先輩? 何か忘れものですか?」

 

 

 測定器や端末の掃除をしていた達也は、特に驚いた様子も見せずにあずさを迎え入れる。

 

「司波君に聞きたい事があります」

 

「なんでしょうか」

 

 

 いざ質問しようと決意しても、躊躇ってしまっているあずさを眺めながらも、達也は作業の手を止めない。何を聞きたいのか、その事を誰から聞いたのかも知っているかのような雰囲気を醸し出しながらも、自分から促すような事はしなかった。

 

「その……司波君は技術者として高校生レベルをはるかに超えていますよね」

 

「どう答えればいいのか分かりかねますが、一般的な高校生の技術レベルでは無いと思いますよ」

 

「……それどころか、世界中を見回してもかなりの凄腕だと私は思っていました」

 

「中条先輩にそう言ってもらえるとは、恐縮です」

 

 

 特に恐縮しているようには見えない達也の態度だったが、あずさはそんなことにツッコミを入れる余裕はなかった。この後の質問に集中しているのか、達也の細かいボケには一切の反応を見せられなかったのだ。

 

「……さっき真由美さんから聞いたのですが、司波君はFLTで働いているのですよね?」

 

「まぁ、特に隠してはいないので答えますが、それが何でしょうか」

 

「……シルバー、なんですよね?」

 

 

 ついに決心したあずさが、恐る恐る達也に尋ねると、達也は少し考えを巡らせてから口を開いた。

 

「それがどうかしましたか?」

 

「えっ……」

 

「俺がシルバーであるとして、中条先輩は何がしたいのですか? 秘密をバラすと脅すつもりなら、ご自身の身の安全を気にした方が良いですよ」

 

「……? ち、違いますよ!?」

 

 

 あまりにも自然に脅されたので、あずさは反応するのに少し時間を要してしまった。

 

「憧れのシルバー様が本当に高校の後輩だったなんて……」

 

「本当に?」

 

 

 あずさの言葉に引っ掛かりを覚えた達也は、思わずあずさの顔を正面から覗き込んだ。

 

「えっと……一昨年の九校戦で、もしかしたそうなんじゃないかなって思ってたんですけど……」

 

「なるほど、さすがの観察眼ですね」

 

「真由美さんから他言無用と言われているので、この事は私の中にしまっておきます。ですが、就職に困った時はお願いするかもしれませんので」

 

「それくらいなら別にいいですよ。中条先輩の技術ならいつでも歓迎しますので」

 

 

 あっさりと色よい返事をもらって、少し肩透かし気味な気分を味わったが、あずさは先ほど以上のホクホク顔で帰路についたのだった。




ナチュラルに脅す達也……

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