劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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800話で200万字到達らしいです


IF敗者復活ルート その3

 八雲から貰った情報を頼りに、遥と怜美は魔法協会関東支部の前に立ち、自分たちがどうやったら中に入れるかを考える。

 

「普通に考えて、一高校職員でしかない私たちが中に入れるとは思えないのよね」

 

「小野先生が何か考えているのかと思ってましたが、無策だったのですね」

 

「だって、あの時は四葉真夜さんに会えるかもしれないって気持ちでいっぱいだったけど、いざここに来たら、どうやって中に入ればいいのか分からない事に気が付いたのよ……」

 

 

 機密情報が多く保管されているこの建物に忍び込むなど、ミズ・ファントムの異名を持つ遥でも不可能に近い。そもそも忍び込んだとしても、不審者として捕まってしまえばすべてが終わりであるので、最初から忍び込むつもりもないのだが。

 

「いっそのこと、受付で聞いてみませんか? この建物に四葉真夜さんはいますかって」

 

「聞いたところで正直に答えてくれるとは思えないんですけど……」

 

 

 怜美の案を却下した遥は、見覚えのある人物を見たような気がして周りを見回した。

 

「どうかしました?」

 

「今、司波君がいたような気がしたのだけど……」

 

「司波君ですか? 私は気づきませんでしたけど」

 

「一瞬だけ、確かに視界に捉えたのよ! ……でも、気のせいだったのかな」

 

「どの辺りですか? とりあえず行ってみましょうよ」

 

 

 怜美に促され、遥は達也を見かけた場所に向かう事にした。近づくにつれて、何やら話し声が聞こえてきた。

 

「達也殿、何故このような場所で? 普通に中に入られればよろしいではありませんか」

 

「いえ、入り口付近に見知った二人組がいまして、ちょっと入り辛い空気がありましてね」

 

「そうでしたか。しかしながら、盗み聞きとはよろしくありませんな」

 

 

 正面から聞こえていた声が、背後から聞こえ、遥と怜美は飛び上がる思いを何とか押し殺して振り返った。そこには達也と、見覚えのない壮年の紳士が立っていた。

 

「小野先生に安宿先生、何故このような場所に?」

 

「司波君から言われた通り、四葉真夜さんを探してここまで来たんだけど、どうやって中に入ろうか悩んでたら君が視界に入ったから」

 

「達也殿、このお二方は?」

 

「婚約者にしてほしいと仰られているお二人です。仕事の関係上締め切りまでに申し込めなかった人と、一度は諦めかけたのですが、その人につられ再熱した人です」

 

「さすがは達也殿、教職員からもおモテになられるとは」

 

「楽しんでますよね、葉山さん」

 

 

 達也が葉山の名を呼んだことで、遥と怜美の壮年の紳士の名前を知った。

 

「これはこれはご挨拶が遅れまして。私、四葉家に仕えております葉山と申します。お見知りおきを」

 

「第一高校カウンセリング部所属、小野遥です」

 

「同じく保険医の安宿怜美です」

 

「それで、お二方は奥様へお目通りしたいという事ですかな?」

 

「可能ならお願いしたいのですが」

 

 

 葉山は遥の願いを聞いて、懐からクラシックタイプの端末を取り出しどこかへ連絡を入れる。

 

「――かしこまりました。達也殿もおられますので、すぐにそちらへ向かいます」

 

 

 電話越しなのに恭しく頭を下げる葉山を見て、遥と怜美は首を傾げたが、達也は電話の相手が誰だか分かっているので苦笑いを浮かべる。

 

「お待たせしました。奥様がお会いしたいそうですので」

 

「奥様って……四葉真夜さん?」

 

「その通りでございます。ささ、達也殿もご一緒にとの事ですので」

 

「俺は既に用件を済ませたのですが」

 

「私にではなく、奥様に直接ご報告して差し上げた方が喜びます故」

 

「やはり面白がってますね、葉山さん」

 

「滅相もございません」

 

 

 口では否定しているが、葉山の顔には楽しんでいる事が見て取れた。もちろん、普通の相手には識別出来ない程度の差だが、達也相手では少しの差でも命取りであることは葉山の重々承知している。それでも表情を隠せていないという事は、意図的に隠していないという事なのだ。

 

「えっと、司波君と葉山さんはどういう関係なのかしら? さっき『四葉家に仕えてる』って聞いたけど、とても主従には見えないんだけど」

 

「当たり前ですよ。葉山さんは母上に仕えてるのであって、俺に仕えてるわけじゃないんですから」

 

「本来ならこのような話し方など許されるものではないのですが、達也殿が気にしなくて良いと言ってくださったので」

 

「急に堅苦しい話し方をされてもやりにくいですから。深雪にはともかく、俺に礼儀は必要ないです」

 

「真夜様のご子息なのですから、最低限の礼儀は欠くべきではないと私は思うのですが、達也殿が堅苦しいのを嫌いましたので、主従に見えないのはそのせいでしょうな」

 

「な、なるほど……そう言えば司波君は十文字君に『自分は十師族ではない』って答えてたわよね? あの十文字君相手に嘘を吐くなんて、凄い度胸ね」

 

「何処で聞いてたかは追及しませんが、あの時は十師族の一員として認められてなかったですし、俺自身も十師族の人間だと思っていませんでしたので、嘘というわけではないんですけどね」

 

「達也殿の出自は、四葉家内でも重大な秘密でした故、本当のお立場を知らない従者たちが達也殿を目の仇にしておりましたし、生みの親である深夜様も、頑として達也殿を四葉家の人間だとお認めになりませんでしたゆえに、そのような事になっておられたのです」

 

 

 達也と葉山に事情を説明されている間に、エレベーターは最上階へと到着した。遥と怜美は、いよいよ真夜と対面出来るという気持ちでいっぱいになり、表情が強張っていたのだった。




葉山さん、楽しんでるな……

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