劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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年相応には見えないんですよね……


IF敗者復活ルート その4

 葉山に案内されている間、遥と怜美は重苦しい空気になっていた。理由は葉山の隣から不機嫌なオーラをまき散らしている達也だ。

 

「し、司波君、何でそんなに不機嫌なのかしら?」

 

「別に理由はありませんが、明日の稽古で師匠に少し聞かなければいけない事が出来たなと思っただけです」

 

 

 封印されていた状態で魔法無しでは勝てなかった八雲が、最近ようやく本来の能力をコントロール出来るようになってきた達也に勝てなくなってきた、という噂は遥も聞いていた。つまり、明日の稽古では八雲が痛めつけられる可能性があるわけで、遥は心の中で八雲に謝る事にしたのだった。

 

「(師匠、ごめんなさい。でも、これで私も漸く四葉家当主に面会出来ましたので)」

 

「こちらでお待ちください」

 

「くれぐれもおかしな行動はしないでくださいよ」

 

 

 葉山と達也は別室に向かう為、遥と怜美は応接室へと通された。魔法協会の応接室なので、こじんまりとしたものではなく、会議室としても使えるのではないかと思えるくらいの広さに、遥も怜美も驚きを隠せないでいた。

 

「外からしか見た事無かったけど、やっぱり広いのね……」

 

「ここを当たり前のように使えるとは、さすが四葉家なのでしょうね」

 

「それにしても、四葉真夜ってどんな人なのかしら?」

 

「あまり人前には出ないらしいですし『極東の魔女』とまで言われている人ですからね……司波さんの血縁だと考えれば、かなりお綺麗な人なのでしょうね」

 

「でも司波君のお母さんでしょ? 性格がひねくれてるとか、そんな感じかもしれないわよ?」

 

「それは失礼ですよ。あったことも無い人を悪く言うのは」

 

「安宿先生は綺麗な心を持ってるわね。職業柄人の裏側ばっかり見てきた私にはない考えだわ」

 

「カウンセリングってそんなに大変なの?」

 

 

 公安の調査員であることを知らない怜美は、遥の職業をカウンセラーだと思っている。自分が余計な事を言ったと自覚した遥は、曖昧に頷いて誤魔化したのだった。

 

「それにしても、司波君は何の用事でここに来てたのかしら」

 

「確かに、今日も生徒会の仕事があるはずですものね」

 

「書記長ですからね。いなきゃ駄目だと思うんだけど」

 

 

 深雪が作り出した、達也の為だけの役職だが、今では当たり前のように浸透している呼び名となっている。深雪の前で達也にぞんざいな態度で接すればどうなるかは、同級生たちは二年前の生徒会選挙で痛い程知らしめられたので魔工科生の達也に対しても割とまともに接するし、後輩たちは達也の高い技術レベルを九校戦で知ったのでそれほど見下したような態度は取らなくなった。教師陣は最初から達也の知識は認めているので、呼ぶときもしっかりと書記長の役職を付けて呼ぶことになったのだ。

 

「どっかのお偉いさんかとも思ったけど、普通に浸透したわよね」

 

「司波さんが司波君と対等、もしくは自分の方が上だと思いたくない、想われたくないという思いから作り出したらしいですけどね」

 

「お待たせしました、ご当主様がお目見えです」

 

 

 葉山が恭しく一礼して扉を開き、一人の女性が達也と腕を組んで現れた。

 

「はじめまして、小野遥さん。そして安宿怜美さん。私が四葉家当主、四葉真夜でございます」

 

「お、お若いですね……」

 

「いえいえ、これでももう47になりました」

 

「見えないですね。司波君の隣にいても違和感ありません」

 

「ですって、たっくん」

 

「「たっくん?」」

 

 

 真夜が発した名前に遥と怜美が同時に首を傾げる。真夜の隣では、達也が苦々しげな表情を浮かべていた。

 

「……母上、その呼び名は勘弁してくださいとあれほど申し上げましたのに」

 

「でも、これが普段の私なんだし、お二人に緊張感を解いてもらう為にも、こっちの方が良いでしょ?」

 

「はぁ……」

 

「それで、お二人が私を訪ねてきた用件ですが、やはり特例は認められません。ですが、ここまで来た執念に免じて、愛人までならお許しします」

 

「それは……どういう意味でしょうか」

 

 

 あまりいいイメージの無い単語に、遥はどう受け止めればいいのか悩み、真夜に尋ねる。真夜はニッコリとした表情を崩さず、落ちついた声で遥の問いに答えた。

 

「そのまんまの意味ですよ。結婚は認められませんが、たっくんと『そう言う関係』になっても咎めない、そう言っています」

 

「ですが、他の婚約者さんたちが文句を言ってくるのではありませんか?」

 

「言わせるとお思いですか? 文句があるのならたっくんは諦めてもらいますので、貴女方が心配する事はありませんので」

 

 

 そう言って真夜がちらりと葉山に視線を向けると、心得ていると言わんばかりに恭しく頭を下げた。

 

「そう言うわけですので、後は貴女たちのアピール次第で、たっくんと懇ろな関係になれるかもしれませんわね」

 

「ね、懇ろ……」

 

「母上……完全に楽しんでますね」

 

「そんな事ないわよ。私のたっくんがいろいろな女性に想われているから嬉しくなってる、なんてことはないわよ」

 

「あるんですね……」

 

 

 少女のように笑う真夜に、達也は頭を押さえながら葉山に視線を向ける。だが、今度は葉山も首を捻り達也の事は助けようとはしなかった。

 

「そう言うわけで、後は好きにしてください。もちろん、たっくんに危害を加えようとするなら、我が四葉家全勢力が貴女たちを消すので、そのつもりで」

 

 

 最後に五寸釘並の巨大な釘を刺して、真夜はこの部屋から去っていったのだった。




達也が年上にみられることを差し引いても、凄く若く見える真夜さん……

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