劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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彼女は従者だったか微妙ですがね


IF従者ルート その1

 週に一度の休みを満喫する為、吉見はぶらぶらと街を歩いていた。触った物の情報を読み取る能力を持っているため、手袋は外せないし、極度の人見知りなので目深に被ったキャスケットやサングラスも外すわけにはいかず、普通に歩いているだけでも大分不審者に見えるので、吉見の周りは自然とスペースが出来るのだった。

 

「あっ、吉見さんでしたよね」

 

「……桜井水波」

 

「お久しぶりです。といっても、直接お話しした事はないですけどね」

 

「……何故こんなところに」

 

「お友達と遊んだ帰りです。吉見さんこそ、何故こんなところに?」

 

 

 二人が出会ったのは普通の繁華街だ。水波も吉見も、別にこのような場所にいてもおかしくない年頃だが、吉見の格好は何処にいても目立つので水波が不審がっても仕方ないだろう。

 

「休日をこのような場所で過ごしたらおかしい?」

 

「いえ、その事自体はおかしくないですが、その恰好は目立ちますよ」

 

「能力上この格好は仕方ない。それに、人見知りもあるのでこの格好じゃなきゃまともに話せない」

 

「その恰好で来られたら相手が話せませんって……」

 

 

 水波は事情を知っているし、一度吉見の正装を見たことがあったので驚かなかったが、街を歩く人々は吉見の格好に驚き、そして距離を取っていたのだ。

 

「とにかく、吉見さんも年頃の女性なのですから、少しくらいおしゃれした方が良いと思いますけど」

 

「亜夜子にも言われた……でも、私みたいな女がおしゃれしても誰も見てくれない」

 

「そんなことないと思いますけど」

 

「文弥は私の事姉みたいに思ってるから、特にこの格好でも問題ない」

 

「文弥様は兎も角、他の異性の事は気にした方がよろしいですよ。吉見さんにだって、気になる異性くらいいるでしょうに」

 

 

 水波に指摘され、真っ先に思い浮かんだのは黒羽家当主の貢だが、彼は自分の事を道具としか思っていないので除外し、次に思い浮かんだ異性の顔に、吉見は赤面した――ように水波には見えた。

 

「いるんじゃないですか。誰です?」

 

「だ、誰でもない。そもそも、おしゃれなんてしても意味がない。彼は私の事を気にしてないのだから」

 

「そんなことないと思いますけど。もしかして、特定の相手がいるお方なのですか?」

 

「……そうとも言える」

 

 

 歯切れの悪い答えに、水波は首を傾げた。特定の相手がいるのは間違いなさそうだが、それならそうと断言すればいいものをと思いながら、更に探りを入れる事にした。

 

「私も知ってる人ですか?」

 

「知っている。というか、四葉家に関わっている人間なら誰もが知っている」

 

「四葉家に関わってる人なら知っていて、特定の相手がいる人物……」

 

 

 少し思案しただけで、水波は吉見の思い人が誰なのか理解した。確かに彼ならば、歯切れの悪い返事になっても仕方ないだろう。

 

「あっ、達也さま」

 

「っ!?」

 

 

 慌てて振り返るも、当然そこには達也の姿はない。水波にハメられたと理解した吉見は、無言で水波の肩を叩き抗議する。

 

「ごめんなさい。ですが、やはり達也さまでしたか」

 

「亜夜子からずっと彼の事は聞かされてきた。凄い能力を持っていながらも、普通の――四葉家の魔法師として認められる能力をを持ってなかっただけで冷遇された彼の事を」

 

「本当は封じられていただけのようですがね」

 

「何故彼を冷遇したのか、私には分からない。でも、彼はその境遇に押しつぶされる事なく成長し、立派に次期当主の座に就いた」

 

「真夜様は達也さまを溺愛しておりましたし、深雪様も達也さまを敬愛しておりました。例え深雪様が次期当主の座に就かれても、達也さまの境遇は改善されていたでしょうね」

 

「でも、未だに四葉家内に彼を憎々しく思う人はいる」

 

「序列四位の青木さん辺りでしょうね。あの人は達也さまを見下し、亡き者にしようとした過去があるようですし」

 

 

 まだ達也が幼かったころ、青木は分家筋の当主たちの命で達也を暗殺しようとしたことがある。もちろん、青木程度の実力では達也を殺す事など出来ず、当時の当主であった英作にこっ酷く叱られた過去を持っていると、真夜から聞いたことがあったのだと、水波は吉見に説明した。

 

「ご当主が一番、彼の事を始末したがっていたらしい」

 

「ですが、今の黒羽様は達也さまに助けられてしまい、娘である亜夜子様は達也さまの婚約者、慶春会前の妨害工作には加われなかったとお聞きしました」

 

「文弥と亜夜子が強く反対して、ご当主自身も静観すると決めたから仕方ない」

 

「そのせいで分家のパワーバランスも大分変りましたけどね」

 

 

 妨害工作に最初から参加しなかった津久葉家がより本家に近い地位を手にし、渋々ながらも参加しなかった黒羽家を抜いて一番親密な関係へと変化したのだ。

 

「まぁ、黒羽からは亜夜子が本家へと嫁入りするので、元の地位に戻るのはすぐ」

 

「そこだけ聞くと、亜夜子様が政略結婚で達也さまの許へ嫁ぐように聞こえますね」

 

「本人の気持ちは兎も角として、大人はそう見ている」

 

 

 吉見の言い分は水波にも理解出来たので、特に反論はしなかった。

 

「とりあえず、今度の休みの日には達也さまをお呼びしますので、おしゃれしてくださいね」

 

「無理……この系統しか持っていない」

 

「なら、今から買いに行きましょうよ」

 

「……頼む」

 

 

 達也と会えると思い、覚悟を決めて水波にコーディネートを頼んだ吉見ではあったが、店の前まで来て固まってしまったのだった。




亜夜子たちの従姉だから、従者じゃないのか? まぁ、似たような扱いなのには変わらないからいいですかね

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