劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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忙しいですからね、彼は……


IF従者ルート その2

 出かけた時と違う恰好で帰ってきた吉見を、亜夜子は不審に思いながらも年頃の女性として正しい姿になったと感心していた。

 

「吉見さんも漸くおしゃれしようと思ったのですわね」

 

「そう言うわけではない……桜井水波とあって、なし崩し的にこの格好に」

 

「水波さんに? それにしては随分と気合の入った服装ですが、もしかして達也さんに見てもらいたいとか思ってたりして」

 

 

 亜夜子としては冗談のつもりだったのだが、その言葉に吉見の様子が見るからにおかしくなったのを受けて、冗談では済ませられなくなってしまった。

 

「もしかして本気で達也さんに見てもらいたくて?」

 

「……亜夜子には関係ない」

 

「関係ありますわ。私は達也さんの婚約者で、吉見さんとは付き合いが長いんですから」

 

「だから何? 私はただ司波達也に見てもらうだけ。決して婚約とかそう言う事は関係ないから、亜夜子にも関係ない」

 

「吉見さんが私たち以外に興味を持った事が嬉しいのですわ。ですから、私たちも吉見さんの気持ちを大事にしたいと思ってますの」

 

「私、たち?」

 

 

 ここには亜夜子しかいないはずだと吉見が首を傾げながら問いかけると、物陰から文弥が姿を現し、バツの悪そうな笑みを浮かべていた。

 

「亜夜子、魔法を使ってたな」

 

「練習中に吉見さんが帰ってきただけで、決して盗み聞きさせるつもりで使ってたわけではありませんわ。そもそも文弥だって吉見さんが達也さんに興味を持ったことくらい知ってましたわよ」

 

「だってあからさまに達也兄さまに対する態度だけ違ったし、吉見さんも女性だから仕方ないのかなとは思ってました」

 

「亜夜子も文弥も悪趣味。人が誰を気にしようが私の自由」

 

「そうですわね。だから、応援すると言っているのですわよ」

 

 

 亜夜子は何処からか取り出したメイク道具を持って吉見との距離を詰めていく。自分が何をされるか理解した吉見は、この場から逃げ出そうとしたが時すでに遅し、亜夜子にがっちりと肩を掴まれ、鏡の前まで連れていかれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吉見が亜夜子に捕まった頃、司波家では水波が達也に相談していた。

 

「――というわけでして、次回の吉見さんのお休みの日に、偶然を装って会っていただけないでしょうか?」

 

「偶然である理由はあるのか?」

 

「いえ、その方が吉見さんも喜ぶかなと思いまして」

 

「だが、会わせると約束したのなら、偶然じゃないと思うのだが」

 

「……その辺りはうまくやりますので」

 

 

 色よい返事はもらえそうにないなと思いながらも、水波はなんとか交渉を続ける。

 

「ほんの少しだけでいいのです。ただ会うだけでも十分ですので」

 

「別に会う事自体に問題はないが、その日はいろいろと予定が入っているから会えるかどうか分からないぞ」

 

「最悪テレビ電話でも構わないと仰っていましたので、最終手段としては電話していただければ」

 

「電話でいいなら、何もその日じゃなくてもいいだろ」

 

「生で会えるならもちろんそっちの方が良いので、何とかならないかとお願いしているのです」

 

 

 水波の頼みに、達也は難しい顔をし続ける。その日はちょうど第三課で新商品の開発会議が入っており、どれだけ時間がかかるか達也にも分からないのだ。吉見に無駄に期待感を持たせるのも悪いので、断った方が良いのだろうと思いながらも、水波の必死さに無碍に断るのもと思わなくはない気持ちが少しばかりあるのだった。

 

「とりあえず時間を作れないか努力はするが、たぶん無理だと思うが」

 

「努力していただけるだけでありがたいです。吉見さんにもそのように伝えておきますので」

 

 

 結局断定は出来ないが、努力はしてみるという返事を貰い、水波は吉見にそのような旨を伝えるメールを送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 亜夜子に散々遊ばれた後、吉見は水波から結果を知らせるメールが届いている事に気が付き、緊張しながらもメールを確認した。

 

「……やはり忙しいのか」

 

「そりゃ、達也兄さんはいろいろと立場のある人ですからね」

 

「会おうとしてくれただけでもありがたいと思わなければ駄目ですわよ」

 

「人のメールを勝手に見ないで」

 

「吉見さんが私たちの前でメールを開いたのですわ。それがたまたま目に入っただけですので、私たちは悪くありませんわよ」

 

 

 亜夜子の開き直りともとれる発言に、吉見は何か反論しようとしたが、反論の言葉が思い浮かばず無言で睨むだけにとどまった。

 

「それにしても、達也さんが時間がかかると仰るほどの会議というのは、どのようなものなのかしら」

 

「聞いたところで僕たちには分からないよ。それに、僕や姉さんは魔工技師の知識は無いんだから、気にするだけ無駄だと思うけどね」

 

「文弥は達也さんが何を考えているか知りたいと思わないの?」

 

「そりゃ、理解出来るなら知りたいけど、慶春会で見せてくれた新魔法だって、結局はどういった原理で発動されたのか分からなかったじゃないか」

 

「あれは、私たちがただ勉強不足なだけで、大人の方たちは理解しておられましたわ」

 

「だから、僕たちは聞くだけ無駄なんだよ。吉見さんだって、理解出来なかったでしょ?」

 

「私は、その場にいなかったから」

 

 

 文弥に同意を求められたが、吉見はそう答えるしか出来なかった。その後は文弥と亜夜子のいつも通りの言い争いになったので、吉見はこっそりとその場から逃げ出し部屋で達也に会えるかもという期待でドキドキしていたのだった。




亜夜子は兎も角、文弥は久しぶりな気がしました

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