劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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警戒するのは深雪だけ……


IF従者ルート その4

 達也に外食に誘われた深雪は、不自然に思われない程度におしゃれをして、スキップするのを抑えながら待ち合わせ場所にやってきた。

 

「深雪先輩!」

 

「あら、泉美ちゃん。何故ここに?」

 

「水波さんと遊んでいましたら、司波先輩に会いまして。そうしたら深雪先輩も来られるとの事でしたので」

 

「そうだったの。それで、達也様はどちらに?」

 

「あちらで香澄ちゃんとお喋りしてますわ。といっても、香澄ちゃんが一方的に話して、司波先輩はたまに相槌を打っているだけですが」

 

 

 泉美が指さす方を向いた深雪は、達也に楽しそうに話しかける香澄を見て嫉妬を覚えたが、それを表に出す前に自分の中で凍り付かせた。

 

「それで、泉美ちゃんたちも一緒に食事するって事でいいのかしら?」

 

「司波先輩が奢ってくださるらしいので。本当は婚約者でもない私が奢っていただく理由などないのですが、せっかくのご厚意ですので」

 

「お待ちしておりました、深雪様」

 

「あら、水波ちゃん。えっと、そちらの方は?」

 

 

 水波の隣にいる女性に見覚えが無かった深雪は、不躾だと思いながらもその女性を上から下まで眺め水波に問う。

 

「深雪様はお会いしたことが無かったのでしたか。こちら、黒羽家で諜報などを担当されておられます、東雲吉見さんです」

 

「貴女が亜夜子ちゃんの従姉の」

 

「そちらは再従姉だと聞いている」

 

 

 吉見と深雪が互いに頭を下げ、それで挨拶は完了したようだった。同じ血縁と言っても、深雪は完全なる四葉の血縁で現当主に近い血筋だが、吉見はそうではないため、立場的には深雪の方が大分上である。

 

「それで、何故その東雲さんがここにいらっしゃるのかしら?」

 

「私たちと一緒に遊んでいたのですわ、深雪先輩。吉見さんは同年代の友人がいないと仰られましたので、僭越ながら私たち姉妹が吉見さんのお友達としてご一緒させていただいたのです」

 

「そうだったの。ありがとうね、泉美ちゃん」

 

「いえ! 深雪先輩にお礼を言われるような事ではありませんが、ありがとうございます!」

 

 

 深雪にお礼を言われ感激している泉美を脇目に、深雪は吉見に鋭い視線を向ける。

 

「その服装、それが普段着というわけではありませんよね?」

 

「これは水波に見繕ってもらった服。これ以外は任務用の服しか持っていない」

 

「前に文弥君から聞いたことがありますが、東雲さんは随分な能力をお持ちのようですし、その恰好はつらいのではありませんか?」

 

「大丈夫。バレないように結界を張っているし、司波達也が側にいてくれれば私の能力の加減がしやすいから」

 

「どういう事でしょうか?」

 

「ご当主様は私の事を道具としか見てないが、彼は私を一人の人間として見てくれる。だから私も人間としての意識を保つことが出来る」

 

「そう言うことにしておきます」

 

 

 バチバチと火花を散らす深雪と吉見を見て、達也は軽くため息を吐いたが、全員そろったという事で水波が予約しておいた店へと向かう事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男子一人に美少女五人という構図が周りからどのように見られたかはともかくとして、特に問題なく食事を済ませた六人は、お喋りをしながら帰路についた。

 

「今日はご馳走様でした、達也様」

 

「気にするな。何時も美味しい食事を作ってもらってるお礼だ」

 

「深雪先輩や水波さんはそうかもしれませんが、私や香澄ちゃん、吉見さんはその理由ではご馳走になれませんわ」

 

「香澄や泉美は水波と仲良くしてくれてるお礼だと思ってくれ。吉見さんは、まぁ水波と遊んでくれたお礼だと思ってください」

 

「僕たちが遊んでもらった感じだけどね。司波先輩、ご馳走様でした」

 

「この事、お姉さまに知られたら大変かもしれませんね」

 

 

 香澄と同じく達也の婚約者で、二人の姉である真由美は、まだ達也とちゃんとした食事に出かけたことは無い。京都でホテルのディナーを共にしたことはあるが、あれは楽しめるような状況ではなかったし、その後真由美は大失態を演じているので、出来る事なら消したい過去なのだ。

 

「それにしても、いきなり達也様から食事に誘われた時は驚きましたが、水波ちゃんが裏で糸を引いていたのね」

 

「申し訳ありません、深雪様。ですが、吉見さんの夢を叶えてさしあげたかったのです」

 

「吉見さんの夢?」

 

「達也さまとお話しし、お友達と遊んでみたいという、普通なら叶えられて当然の事も、彼女は難しかったようですので」

 

「まぁ、詳しい事情は知らないけど、彼女の境遇は特殊らしいものね……でも、何で達也様とお話ししたいと思ってるのかしら。文弥君でもよさそうだけど」

 

「それは、深雪様が一番お分かりなのではありませんか?」

 

 

 つまりそう言う事なのだと暗に主張した水波に、深雪はライバルがまた増えたと盛大にため息を吐いた。

 

「どうかなさったのですか、深雪先輩」

 

「何でもないわ。それにしても、一日で随分と吉見さんと打ち解けてるわね」

 

「香澄ちゃんはああいう性格ですから」

 

「私も最初は戸惑いましたが、香澄さんのお陰で普通の高校生活を送れている気がします」

 

「せっかくだし、泉美ちゃんも一緒に暮らせばいいじゃない。香澄ちゃんもだけど、七草先輩も一緒に生活するんだし、泉美ちゃん一人くらい増えても問題ないわよ」

 

「で、ですが。私は司波先輩の婚約者ではありませんし、増やすなら私より吉見さんを加えてあげた方が喜びますよ」

 

「それは出来ないわ! 彼女、危険な臭いがするもの」

 

 

 深雪が何を危険視しているのか分からない泉美は、首を傾げたが、深雪の事だからきっと高尚な事を想っているのだろうと考える事にした。そして別れ際、吉見が少し寂しそうにしているのを見て、また遊ぼうと心に決めたのだった。




仲良し三人組に吉見さんが加わりました

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