劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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空気で酔っぱらうなんて……


IF四葉ルート その3

 弘一は早々に帰宅してしまったが、真由美は一緒に帰りたくないという気持ちと、もう少し達也といたいという気持ちから魔法協会に残ったのだが、非常に気まずい空気の中お茶を飲む事しか出来なかった。

 

「ザマァみなさいっての、あのクソオヤジ」

 

「穂波さん、七草先輩のお茶に酒でも入れたんですか?」

 

「そんなもの入れてないんだけどな……多分、空気に酔ったんでしょうね」

 

 

 父娘間の仲は良くないと聞いていたが、ここまでとは達也も思っていなかった。同じ十師族の長相手に一方的に頭を下げるしかない父を見て、真由美は愉悦に浸っているのだ。

 

「随分と面白いお嬢さんね。自分の父親相手にクソオヤジなんて」

 

「父娘間の関係は、深雪も近いものがありますがね」

 

「でも、深雪さんはクソオヤジなんて言わないわよ?」

 

「まぁ、深雪の場合は父親と認めていない節が見られますけどね」

 

「深夜様が亡くなられてすぐでしたものね。中学生には重すぎる出来事だったのでしょう」

 

 

 真由美の乱れっぷりから深雪の過去の話に移行したのは、特に意味があったわけではない。だが、その事情を知らない真由美は、空気に酔った勢いでその事を言及していく。

 

「深雪さんとお父さんの関係ってどんななの? ウチより酷いの?」

 

「少し落ち着いてください」

 

「私は落ち着いてるわよー!」

 

「……穂波さん、水を持ってきてください」

 

「分かったわ」

 

 

 真由美を席に押し戻し穂波に水を用意させる間に、達也は真夜とアイコンタクトで真由美をどう処理するかを決めた。

 

「とりあえず落ち着いてください。話は落ち着いてからです」

 

「らから、落ちついへるっへいっへる……あれ? 何だか気持ち悪い……」

 

「外の空気でも吸ってきたらどうですか?」

 

「そうしゅりゅ……」

 

 

 疑似的とはいえ酔っぱらっているのに暴れた所為で、真由美は本格的に気分が悪くなってしまったのだ。そう仕向けたのは達也たちとは言え、何の罪悪感も覚えずに真由美を退室させるのはさすがだと言えよう。

 

「さてと、七草のお嬢さんって悪酔いするのね」

 

「一度京都で大変な目に遭いました」

 

「報告は受けてるわ、大変だったようね」

 

「まぁ、特に問題は無かったので忘れてましたが」

 

 

 あの時は頭の痛い思いをしたと思い出し、達也はなんだか頭が痛くなってきたような錯覚に陥り、すぐに頭を振って視線を真夜に戻した。

 

「それで、何故七草先輩を追い出したのですか? 別に話しても問題は無かったでしょうに。そもそも先輩には、親父は母親の死後即再婚して後妻の家に入り浸ってるという事を伝えてあります。隠す必要は無かったとも思いますが」

 

「姉さんの事を話すのはちょっとね……精神干渉魔法は非人道的と捉える集団が昔有ったのよ。あのタヌキオヤジの事だからそこに情報を流して四葉の戦力を削ごうとか考えるかもしれないし」

 

「まだそんな団体が残ってるものなのですか? 母さん――司波深夜が亡くなってもう三年弱が経っていますし、残っていたとしてもさほど脅威になるとも思えないのですが」

 

「七草家の事でこれ以上手間をかけられるのが嫌なの。別に姉さんの事を悪く言われても私にはあまり関係ないもの」

 

「姉妹仲は相当悪いんですね」

 

「当然でしょ? 私は子供を産めない身体に、姉さんは自分の胎を私に奪われた錯覚にと、それぞれ強い恨みを抱いてたんだから」

 

 

 細かい事情は、達也でも詳しくは知らないのだが、四葉家内ではその事は禁句になっている。他家にも「アンタッチャブル」と恐れられる事情なので、達也は話題を変えて真夜を落ち着かせることにした。

 

「母上は、引退されたら何をするおつもりなのですか?」

 

「まずはたっくんと一週間くらいのんびりと旅行して、それから姑としてたっくんのお嫁さんに嫌がられる存在として君臨しようかしら」

 

「いくら母上とはいえ、戦略級魔法師もいる中で戦うおつもりではありませんよね?」

 

「大丈夫よ、アンジェリーナさんはポンコツだって報告を受けてるから」

 

「それは諜報活動や家事全般についてというだけで、戦闘力はかなりのモノを持っていますよ。あの若さでUSNA軍スターズ総隊長を務めたのですから」

 

「その時は、深雪さんと亜夜子さんと夕歌さんを仲間に引き入れ、数で潰すから問題ないわよ」

 

「問題はあると思いますが」

 

 

 楽しそうに語る真夜に、達也は本当にやらないだろうなという不安が一瞬よぎったが、即死でもない限りどうとでも出来ると考える事にしてこの話題を打ち止めにした。

 

「お待たせしまし――あら? 七草さんはどちらに?」

 

「完全に悪酔いして気分がすぐれないという事で、そのままお帰りいただきました」

 

「そうなの? まぁ、これで奥様と私と達也君の三人だけになったものね。奥様、もう我慢しなくても大丈夫ですよ」

 

「そう? じゃあ遠慮なく」

 

 

 達也の横から膝の上に移動し、真夜は思う存分達也に甘え始める。何時もなら葉山に助けを求めるが拒否されるという流れなのだが、今日はその葉山はこの場にいない。

 

「母上、今日は葉山さんを連れてこなかったのですね」

 

「葉山さんは、反乱分子かどうかの見定めをしてくれてるの。たっくんに逆らおうと考えている人は、制裁を加えて改心させてからたっくんの従者として認めるつもり」

 

「別に腹に何を隠そうともいいと思うんですが。本当に何かしようとしたら、その瞬間に氷漬けか夜に襲われるでしょうし」

 

「それもいいわね」

 

「はい?」

 

 

 真夜が何か思いついたかのように手を叩くと、達也は膝の上で丸くなっている真夜へと視線を落とした。

 

「たっくんに当主の座を譲ったら、たっくんのガーディアンをやるのも悪くないかなって」

 

「それは単純に、四六時中一緒にいたいという事ですか?」

 

「それも当然だけど、たっくんを守れるなんて親として最高の気分じゃない? 普通なら幼い時に出来るはずだったのに、私とたっくんの関係は秘密だったから。今からでも遅くないし、たっくんと普通の母子の体験をしていきましょう」

 

「ならまず、普通の母子はこんなふれあいはしないと思うのですが」

 

「これは別に普通じゃなくてもいいんだもん」

 

 

 母子のスキンシップにしては異常だという達也の抗議は当然の如く黙殺され、ますます甘える真夜に、達也は苦笑いを浮かべながらその頭を撫でるのだった。




摩利みたいに気流操作でもしたのでしょうかね……

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