劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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空気だけは甘々に……


IF四葉ルート その4

 達也の膝の上で丸くなっている真夜を眺めながら、穂波は達也の隣に腰を下ろした。普段なら当主と次期当主がいる時に腰を下ろすなどという事はしないのだが、この二人は穂波に対して甘いところがあるので、他に人間がいない時は穂波にある程度の自由を認めているのだ。

 

「穂波さんもたっくんに甘えたいのでしょう?」

 

「真夜様が甘えていらっしゃるのですから、私は一緒にいるだけで十分ですよ」

 

「そうなの? でも、さっきからそわそわしてるけど」

 

 

 真夜に指摘され、自分がそわそわしてる事に気付いた穂波は、真夜相手に取り繕っても意味がないと理解して本音を吐露した。

 

「私も達也君の膝の上で丸くなってみたいですけど、真夜様は血縁だから何とでも理由はつきますが、私は無理ですし」

 

「そんな事ないと思うわよ? たっくん、穂波さんも膝に乗りたいってさ」

 

「別に構いませんが、母上がどかないと乗れないと思いますけど」

 

「たっくんなら二人くらい大丈夫でしょ?」

 

 

 膝の上で丸くなりながらも、しっかりと達也の事を見つめ言い放つ真夜に、達也はため息を吐いて穂波に視線を向けた。

 

「母上はどくつもりが無さそうですが、それでも構わないならどうぞ」

 

「えっと……お邪魔します」

 

 

 真夜に許可を貰い、達也も認めてくれたので漸く決心したのか、穂波は恐る恐る達也の膝の上に乗り幸せそうな笑みを浮かべた。

 

「母上、穂波さんにももう少しスペースを明け渡したらどうですか?」

 

「これでも十分明け渡してるつもりなんだけど? 本当ならたっくんの膝の上は私だけのモノなのに、穂波さんにだからこれだけ明け渡したのだけど?」

 

「猫じゃないんですから、もう少し譲歩したらどうですか?」

 

「大丈夫よ達也君。これだけでも十分幸せだから」

 

 

 本当に少しだけのスペースなのだが、穂波はかなり幸せな気分を味わっている。真夜が譲りたくないと思う気持ちを十分理解出来るくらいの気分になっているので、穂波はこれ以上の幸せを望まなかった。

 

「ところで達也君」

 

「何でしょうか?」

 

「七草さんの事は何時まで苗字で呼ぶの? 七草さんも言っていたけど、名前で呼んであげたら?」

 

「今更変えるのも面倒なので、結婚するまでは今のままで行こうかなと思っています。まぁ、あまりにもしつこかったら変えるかもしれませんが、あまり会う事も無くなってきましたし、あの人はあの人でだいぶ優遇されているとクレームが来そうなので」

 

「まぁ確かに、達也君に壁ドンされたり、二人きりで密室にいたりと」

 

「何処で視てたんですか、そんなこと……」

 

 

 二年前の九校戦時に、真由美は達也に壁ドンされたり、吸血鬼騒動の際には密室で二人きりになり相談したりと他の人から見れば羨ましいと思われる事が多々あるのだ。名前で呼ばれてないくらい問題ないのではないかと思われるくらいの優遇っぷりなのだ。

 

「まぁあの人は京都で食事したり、酔っぱらったあの人を介抱したりと色々しましたが」

 

「谷間にカードキーを隠そうとしたりしてたものね」

 

「……何で知ってるんですか」

 

「女の勘かな」

 

 

 不敵に笑う穂波に、達也は困ったような表情を浮かべた。そんな達也の表情を見て真夜と穂波は楽しそうに笑う。

 

「たっくんもそんな顔するのね」

 

「四葉家の監視と独立魔装大隊の監視だけは、正体を明かされていないので識別出来ないですからね」

 

「毎回変えないと、たっくんにはバレちゃうもの」

 

「一度認識したら、次には疑って、三回目には気づいちゃうですもんね」

 

「そんなに気にしてないですがね、深雪に仇を成す相手なら警戒してましたが、普通の監視くらいならスルーしてました」

 

「そんなことが簡単に出来るのも、たっくんの凄さよね。普通なら視線に含まれる害意を一瞬たりとも見逃さないようにしてたら使えちゃうわよ」

 

「子供の頃からやっていましたし、深雪の方も視線に含まれる意思を無視しなければ外出出来ないレベルになってましたから」

 

「年々深雪さんも美しくなっていきましたからね。見惚れちゃうのも仕方ないわよね」

 

「たっくんが隣にいるのに、しかも自分では釣り合わないと分かってるでしょうにね。深雪さんに見惚れるなんておバカな人が多いのね。そう言えば一条さんも深雪さんに一目惚れしたとか言ってたわね」

 

 

 不意に将輝の事を思い出した真夜は、馬鹿にしたようにクスクスと笑い、分不相応な恋心を抱く男子を哀れんだような表情を浮かべた。

 

「叶わないって分かってるでしょうに、恋い焦がれるなんてかわいそうよね。まぁ、七草家のお嬢さんにも恋い焦がれてた子がいたわね、確か」

 

「服部刑部少丞範蔵さんですね」

 

「本人はフルネームで呼ばれる事を嫌ってましたけどね」

 

「まぁ、一般家庭の出身にしては高いレベルの魔法師みたいだけど、十師族の娘さんに恋するなんてね。分不相応にもほどがあるわ」

 

「最近では中条先輩と噂されてますが」

 

「あの子なら釣り合うんじゃないかしらね。まぁ、たっくんも技術者として認めてる子だし、魔法師としても優秀な部類なのでしょう?」

 

「本人は戦闘を嫌っていますので、九校戦で選手として参加しませんでしたが、そちらでも十分活躍出来たと思いますよ」

 

「達也君にそう言われるという事は、かなり凄いんじゃないですかね」

 

「まぁ、気が弱いので実戦となると使い物にならないと思いますけどね」

 

 

 達也の辛辣な評価に、真夜も穂波も同意したように頷いた。二人が調べた限りでも、あずさは実戦では使えないと判断されているのだった。

 

「とにかく、一条さんにはさっさと諦めてもらわなければならないわね。いい加減ストーカーっぽいもの」

 

「こちらで対処しておきます」

 

「真面目な会話ですが、俺の膝の上でするような会話じゃないと思いますがね」

 

 

 繰り広げられる会話に苦笑いを浮かべながら、達也は真夜と穂波の頭を撫でるのだった。




色々と知られてるって怖いな……

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