劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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やっと此処まで来ましたね


発足式

 月曜、達也が教室に入るなり、クラスメイトから「おめでとう」と言われた。一瞬何の事か理解出来なかった達也だったが、すぐにエンジニアとして九校戦メンバーに選ばれた事だと理解した。

 

「情報が早いな……まだ発表されてないのに」

 

「ホントですね。何処から情報が漏れてるんでしょう」

 

「今日が正式発表じゃなかったっけ?」

 

 

 美月もエリカも達也が選ばれた事を誰かから聞いたようで、如何やら彼女たちが率先して噂を流してる訳では無さそうだった。恐らく部活の先輩に聞いたのだろうと、達也は自分の中で納得をして、エリカの質問に冴えない表情で頷いた。

 

「達也さんも出るんですよね?」

 

「うん、まぁ……」

 

 

 歯切れの悪い返事をし、達也は廊下から来る嫉妬の視線を受け流した。

 

「一年じゃ達也だけなんだろ?」

 

 

 レオが言ったように、エンジニアとしてメンバーに選出された一年は達也のみだ。CADの調整は経験が不可欠であり、上級生から選出されるのが当然なのであって、達也のスキルが異常なのだ。

 達也がCADソフト開発の分野で第一線のプロとして活躍してる事を考えると、高校生レベルの大会など彼にとっては役不足なのだが……もちろんその事を同級生も上級生も知らない。知っているのは妹の深雪だけだ。

 

「一科の連中、か~な~り口惜しがってたよ」

 

「……選手は一科生だけなんだがな」

 

 

 達也の言うように、選手として選出されたのは一科生のみ、と言うか二科生で選ばれたのは達也だけなのだから、他は全員一科生なのだ。

 

「しょうがないですよ。嫉妬は理屈ではありませんから」

 

「大丈夫よ。今回は石も魔法も飛んでこないから」

 

 

 美月の指摘に絶句して、エリカの極端すぎる慰めに苦笑いを浮かべながらも、まだ此方を睨みつけてきている一科生を如何したものかと、内心でため息を吐いた達也だったのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして午後、発足式と言う名のお披露目会が開かれる事となり、達也は舞台裏で真由美が持って来たものをマジマジと見た。

 

「これは?」

 

「技術スタッフのユニフォームよ。発足式では制服の代わりにそれを着てね」

 

 

 見たまんまの答えを貰い、そのユニフォームを嬉しそうに持っている深雪を見て、一瞬天邪鬼の衝動が意識を過ぎったが、抵抗は何の意味も無いと諦めていた。

 達也はブレザーを脱いで用意してあったハンガーに掛け、深雪が広げたブルゾンに膝を少し屈めて袖を通した。後ろから伸び上がるようにして兄の肩にブルゾンを合わせ、前に回りこんで襟と裾を整え一歩半下がって、深雪は満足そうな笑みを浮かべた。

 達也にも深雪が何を見て満足げな笑みを浮かべたのかには検討がついている。彼の左胸に刺繍されているエンブレム、補欠では無い、第一科生の象徴。

 

「良くお似合いです、お兄様」

 

 深雪からしてみれば、本来あるべき場所にあるべきものが収まった気持ちなのだろうが、達也は実際何も感じていない。何も感じていないからこそ、ブレザーだろうがブルゾンだろうが、彼には関係無いのだ。

 

「そう言えば深雪、お前は着替えないのか?」

 

 

 制服のままの妹を見て、達也はそんな事を思った。

 

「私は進行役ですので」

 

「そうか、大役だな」

 

「プレッシャーを掛けないでください……」

 

 

 何時までも達也の左胸を見続ける勢いだった深雪を現実に復帰させ、達也は苦笑い気味ながらも深雪に笑みを向け、軽く頭を撫でた。

 

「達也君、私も進行役なんだけど?」

 

「そうですか。でも、会長なら平気ですよね?」

 

「そうなんだけどさ……」

 

 

 真由美が何を望んでいるのかある程度の予想はついているのだが、それを深雪の前でするなんて愚かなまねを、達也がするはずも無かった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間になり、発足式と言う名のお披露目会は始まり、恙なく進行していった。エリカが言っていたように石も魔法も飛んでこなかった。

 真由美が一人一人紹介していき、競技エリアへ入場する為に必要なICチップを襟元につける作業を任されたのは深雪だ。理由はたんに舞台栄えするからだが……

 選手だけでも四十人、真由美と深雪を除いても三十八人居るので、技術スタッフの紹介までにはかなり時間が掛かるのだが、淑女としてのたしなみを叩き込まれている深雪は不満を全く感じさせない笑顔で一人一人に徽章をつけていく。

 そして漸く技術スタッフの紹介に入ったところで、達也は隣の男子生徒から声を掛けられた。

 

「何だか緊張するね」

 

 

 軽く目線をズラすと、同じように目線をズラしていた男子生徒と目が合った。視線は達也の方が少し上、つまり達也の方が背が高いのだ。

 

「そうですね」

 

 

 あまり長く話していては変に目立ってしまうので、達也はそれだけ返事して目線を元に戻した。話しかけてきた男子生徒もすぐに目線を戻したので周りには気付かれずにすんだ。中性的な顔立ちで、スラックスをスカートに穿きかえれば背の高い女子生徒で通じるかもしれない彼の事を、達也は知っていた。

 

「(五十里啓、百家「五十里家」の人間で魔法理論分野では二年トップ、実技でも成績上位の猛者、人は見かけによらないんだろうな)」

 

 

 最後の一人である達也の名前が呼ばれ、達也は一歩前に出て一礼する。襟に徽章とつける妹の笑顔が、他の人につける時より蕩けてるように感じるのは自分の気のせいだろうかと思っていたら、大きな拍手が響き渡った。目を向けるまでもなく、エリカとレオに煽られたクラスメイトが一斉に手を打ち鳴らしたのだった。一科生の一角に紛れ込んだ異分子たちに一科生からブーイングが起こりかけたのを察したのか、真由美と深雪が手を打ち鳴らした。それに先導され講堂全体から拍手が鳴り響き、達也に向けての拍手は選ばれたメンバー全員に向けての拍手に摩り替わった。

 

「これで九校戦発足式を終わります。我々一同、力の限りをつくしますので、応援お願いします」

 

 

 真由美が式を閉める挨拶をし、メンバー一同がもう一度一礼して脇に捌けていく。その間も講堂全体から鳴り響く拍手は止む事が無かった。

 そして捌け終えた達也の許に摩利と真由美が面白がっている顔を隠そうともしないでやって来た。

 

「相変わらず君の周りは面白いな」

 

「随分と無茶してるわね、達也君のお友達は」

 

「そうですね。後々問題にならなければ良いんですが」

 

 

 冗談とも取れる達也の心配事を、案の定二人は冗談と受け取った。

 

「あたしたちも君には期待してる。頼むぞ」

 

「達也君なら大丈夫でしょうけど、無茶は駄目だからね」

 

 

 心配してくれてるのかからかいに来ただけなのか分からない二人は、言いたい事だけ言って去ってしまった。

 

「やれやれ、すでに結構面倒なんですがね……」

 

 

 掛けていたブレザーが見当たらず、達也はため息を吐いてそのままの格好で深雪を探し始める。彼女が少しでも長くエンブレムのついたブルゾンを着ている達也を見ていたいと言う気持ちは、達也にはバレバレだったのだ……




五十里が初登場、飛ばしすぎてエリカたちが一科生の陣地に割り込んでる事を書けなかった……

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