劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この口調はやりにくい……


IF血縁ルート その1

 せっかく婚約者となったのに、あまり会えないと不満を募らせていたリーナは、前に訪れたことがある司波家を目指していた。

 

「事前に連絡を入れておかなくてよろしいのでしょうか?」

 

「大丈夫よ、ミア。ワタシはタツヤの婚約者なんだから、愛しい人に会いに行くだけなんだから」

 

「あの家には達也様以外にも深雪さんと水波さんがいますので、下手に波風立てない方が良いと思うのですが」

 

「大丈夫よ。ミユキだけズルいって散々クレームを入れてきたんだから、急な訪問くらいで魔法大戦にはならないと思うわよ。もちろん、万が一が起きても負けるつもりは無いけど」

 

「他の方にもご迷惑が掛かります、出来る限り魔法大戦は避ける方向でお願いします」

 

 

 物騒な事を考えているリーナに、ミアは一抹の不安を抱きながらも大人しくリーナについて行く。司波家に到着してすぐ、リーナはチャイムを押さずに中に入ろうとしたので、さすがにそこはミアが引き留めてチャイムを鳴らした。

 

『はい、どちら様でしょうか』

 

「アンジェリーナ・クドウ・シールズよ。まぁ、すぐに四葉になる予定だけど」

 

『……少々お待ちください』

 

 

 明らかに呆れた様子の返事にも、リーナはへこたれる事無く扉が開くのを待った。

 

「こんにちは、リーナ。今日は何の用かしら?」

 

「ハイ、ミユキ。愛しのダーリンに会いに来たのよ」

 

「お生憎様ね。達也様は今外出中よ」

 

「なら、帰ってくるまで待たせてもらおうかしら」

 

「それは構わないけど、ミアさんが震えてるわよ? 何かあったの?」

 

「別に何もないわよ。強いてあげるとすれば、ミユキの殺気に中てられたんじゃないかしら」

 

「私はそんなもの出してないわよ。とりあえず上がってちょうだい。他にもお客様がいらしてるけど、特に気にしなくていいわよ」

 

 

 深雪に案内され、リーナとミアはリビングへと向かう。二人がリビングに入ると、先に来ていた客が立ち上がり一礼してくた。

 

「こんにちは、リーナさん。藤林響子です」

 

「アナタが……」

 

 

 同じ九島の血を引く響子が先に司波家を訪ねていたのはリーナにとって驚き以外の何物でもなかったが、響子の方は落ち着いた様子で腰を下ろした。

 

「リーナ様とミアさんも紅茶でよろしかったでしょうか」

 

「えぇ、ありがとう」

 

 

 動揺を隠し、水波に華麗に返事して見せたつもりのリーナだったが、誰一人としてその芝居には引っ掛からなかった。深雪と水波はリーナの脚の震えを見逃さず、響子はリーナの声のトーンで動揺している事を見抜いていた。また、付き合いが長くなってきたミアには、雰囲気でバレていた。

 

「それで、タツヤは何処に行ってるのかしら?」

 

「達也くんなら、今は四葉家の呼び出しで魔法協会関東支部に行ってるはずよ」

 

「何故、アナタが答えるのかしら?」

 

「誰が答えても同じだと思うけど」

 

 

 リーナの態度は決して友好的ではなかったが、その程度で動揺する響子ではない。とげとげしい態度のリーナに対して大人の余裕を見せつけるような返答をし、水波が淹れてくれた紅茶を一口啜った。

 

「美味しいわね」

 

「ありがとうございます、藤林様」

 

「響子でいいわよ」

 

「では、響子様と」

 

「こんなに可愛い子にお世話してもらってるなんて、深雪さんが羨ましいわね」

 

「響子さんのご自宅には、使用人はいないのですか?」

 

「いる事はいるけど、水波ちゃんのように可愛らしい女の子はいないわね」

 

 

 深雪の態度も、友好的とは言い難いモノではあるが、リーナよりかは大人な対応をしている。この空気に耐えられなくなりそうになったミアは、水波の手伝いをするという名目でリビングからキッチンへと逃亡を図った。

 

「そろそろ達也様もお戻りになられるでしょうから、リーナもお茶でも飲んで待っててちょうだい」

 

「そうさせてもらうわ。ミユキもゆっくりしたら? ミアを連れてきたのも、ミユキにゆっくりしてもらうためだから」

 

「そう? ならお言葉に甘えようかしら」

 

 

 リーナの企みは、深雪に達也の世話をさせないようにミアを連れてきて、深雪の目の前で達也とイチャイチャするつもりだったのだが、その目論見は始める前から頓挫し、しかも思いがけない相手まで司波家にいたのだ。リーナは急ぎ計画の練り直しをするが、目の前から放たれる無言のプレッシャーに考えが纏められずにいた。

 

「何かしら? ミユキ」

 

「アポなしで訪れるなんて、随分と急ぎの用事でもあるのかと思っただけよ」

 

「それだったら、キョウコだってそうじゃないの?」

 

「私は達也君にここで待つように言われたのよ。深雪さんにも連絡が行っているし、貴女みたいに突撃しに来たわけでも、用事もなく遊びに来たわけじゃないのよ」

 

「じゃあ、アナタの用事とはいったい何かしら? 差し支えなければ教えてもらいたいのだけど」

 

 

 リーナの言葉に、深雪も興味を示した。達也から響子が来ると知らされて、あまり気分が良くなかったのだが、その用件を聞いていなかったので、純粋に気になったのもあるが、もしかしたら追い返せるかもしれないと心の何処かで思っていたのかもしれない。

 

「あまり詳しい事は言えないけど、貴女の事で達也君に報告する事があったのよ、アンジェリーナ・クドウ・シールズさん」

 

「ワタシの? いったい何かしら」

 

「USNA軍がしつこく貴女の身柄を返せと抗議しているのだけど、正式な取り決めで貴女は既に日本国籍を取得しているのだから、日本にいても何も問題はないのよ。だからその事をUSNA軍側に伝え、これ以上抗議してくるのなら身の安全は保障出来ないと警告したという事を報告するのと、これから先の予定を伝えるためにここに来たの」

 

「何時ものようにメールでは駄目なのですか?」

 

「詳しい内容を暗号化して伝えるより、こうして直接会って伝えた方が楽だし、今後の予定は直接会って話し合わなければいけなかったしね。沖縄の件もある事だし」

 

 

 リーナはピンとこなかったが、深雪は何のことだかすぐに合点がいき、リーナの援護射撃を止めた。いきなり深雪に見放されたリーナは、大人しく紅茶を啜りながら達也の帰りを待つことにしたのだった。




深雪とリーナの殺気に中てられたら、ミアは震えますよ……

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