劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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やはりポンコツか……


IF血縁ルート その3

 話し合いと調整を済ませた達也と響子は、何食わぬ顔でリビングに戻ってきたが、そこではいまだに深雪とリーナが言い争っていた。

 

「水波、止めなかったのか?」

 

「止めようとはしましたが、残念ながら私では力及ばず……申し訳ありません」

 

 

 本気で申し訳なさそうにしている水波に、達也は気にするなという意味で手を振り、水波の奥でさらに申し訳なさそうにしているミアにも、同じような動作で落ち着きを取り戻させた。

 

「ところでリーナ」

 

「っ! な、なにダーリン?」

 

「まだその呼び名なのか……まぁいい。君の得意魔法、ヘヴィ・メタル・バーストを最大限に発揮させる特殊武装であるブリオネイクは誰が調整するんだ? まぁ、軍を抜けた今、それを使う機会は無いと思うが」

 

「あれを弄れるのはUSNAでも指折りの技術者じゃなきゃ無理だったから、日本には弄れる人はいないと思うのよね。そもそも、調整すると言っても、ワタシには何をしてたのかさっぱりだから」

 

「あらリーナ。自分のモノを調整してもらってたというのに、自分では何も分からないのかしら?」

 

「そういうミユキだって、CADの調整がどんなものか分からないんじゃない? 普段自分でしてるとは思えないもの」

 

「それはそうね。お兄様――いえ、達也様にずっと調整していただいていたのですから、私にはCADを調整する技術はないもの」

 

 

 達也は苦笑いを浮かべたが、リーナは達也が色々と反則じみた技術力を持っている事を知らない。元々達也を精神干渉魔法の使い手だと勘違いしていたほど、リーナは達也の情報を集められていないのだから仕方ないだろう。

 

「タツヤアナタ……かなりの技術者なの? 何だったらワタシのブリオネイクを調整してみない?」

 

「それは止めておいた方が良いわよ、アンジェリーナさん」

 

「キョウコ、何故そんなことを言うのかしら?」

 

「達也君にお願いしたら、せっかくの技術を吸収され、更にUSNA軍が不利になっちゃうもの」

 

「そんなことは無いですがね」

 

 

 響子のセリフに、達也は一応のツッコミを入れた。既にUSNA軍の切り札たるリーナと、ベンジャミン・カノープスとは対戦し、勝利した実績もある事だし、四葉の魔法師をある程度自由に動かせる権利も得ているので、今の達也にとってUSNA軍も敵にならないぐらいなのだ。今更技術を吸収したところで、USNA軍が更に不利になるという事はない。

 

「そもそも、キョウコは達也が調整士としても優秀だって知っていたのかしら?」

 

「当然でしょ? 私は貴女と違って達也君と深い仲なのだし、付き合いだってそれなりに長いのだから」

 

「ふ、深い仲……タツヤアナタ、キョウコとそういう関係だったの!?」

 

「何を勘違いしているのかは知らんが、響子さんとは軍で同じ部隊に所属していて、その秘密を共有しているという間柄だからな。世間には言えない事を共有しているという事を、響子さんは『深い仲』だと表現しただけだ。お前はどう受け取ったのかは知らんがな」

 

 

 顔真っ赤にして響子を睨みつけたリーナだったが、響子の方は一切動じていない様子で、リーナは羞恥から怒りで再び顔を真っ赤に染め上げた。

 

「その余裕、なんだか腹が立つわね」

 

「そう? 仮にもUSNA最強の戦力と謳われた貴女がこの程度で激昂するなんて、USNA軍も大したこと無かったのかしらね」

 

「わ、ワタシの事は兎も角、軍の事を悪く言わないで! あれでもワタシの家族だったんだから」

 

「でも、貴女はその家族を裏切り達也君の婚約者になることを選んだ。それはどうしてかしら? そんなに同胞殺しが嫌だったのかしら?」

 

「ふ、普通はそうでしょ! いくら裏切り者とはいえ、家族同然だった相手を殺めるのは、誰だって嫌なはずよ! それはキョウコ、アナタだってそうでしょ!」

 

「どうかしらね。私って意外と冷たい人間だから、裏切り者だって割り切っているなら、躊躇なく殺せそうだけど」

 

「なっ!? な、ならミユキ、アナタはどう?」

 

「達也様以外の人間など、私にとってどうでも良いので」

 

「く、狂ってるわ……」

 

 

 達也がそういった感情に無縁だという事はリーナも知っているので、達也に尋ねる事はしなかった。だがこの場において自分が少数派であることを認めたくなかったリーナは、奥に控える水波とミアにも同意を求めた。二人が自分と同じ気持ちであるなら、イーブンで事を済ませる事が出来るという淡い気持ちを抱いていたのだが、残念な事に水波は四葉の人間、そういったことも当然出来るように教育されているのだ。

 

「私も躊躇いなく殺めますかね。四葉家に仇成すものなど、生きている価値などありませんので」

 

「わ、私は無理です……」

 

「まぁミアさんは心優しいですからね。だからパラサイトに寄生されてしまったのでしょうが」

 

「も、申し訳ありません……」

 

「いえ、気にしてはいませんよ」

 

 

 深雪の鉄壁のスマイルに、ミアはますます恐縮してしまった。感情をうかがい知れないというのも恐怖の対象だが、深雪が本気で怒ったらどうなるか、ミアは水波から聞かされて知っているのだ。

 

「やっぱりリーナがおかしいのよ。裏切り者に情けを掛けるなんて」

 

「ワタシは普通よ! アナタたちが狂ってるのよ! きょ、今日の所は帰るけど、絶対に狂ってるのはワタシじゃなくてアナタたちだからね! ミア、行くわよ」

 

「ま、待ってください」

 

 

 良く分からない捨て台詞を残して去っていったリーナを見送り、深雪たちは同時に噴き出したのだった。




同胞とか気にしない人が多い空間だ……

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