美月も立ち直り、次は何処に行こうかと話し合っていた四人だが、エリカが駅の近くでふと足を止めてとある店の中を覗き込んだ。
「どうかしたの?」
「いや、今ミキとレオがいたような気がして……」
「でも、西城君も吉田君も用事があるって言ってたんだよね?」
「アイツらの事だから、奢らされるのを察知して断ってきたのかもしれないじゃない」
そう言ってエリカはゲームセンターの中へ入り、レオと幹比古の捜索を始める。ほのかたち三人は店の雰囲気に圧されあまり奥まで入っていけないが、達也は特に気にすることなく、三人を守るように立っていた。
「達也さんはあまりこういうところには来ないですよね?」
「一回だけレオに誘われたことがあったが、忙しかったからな。エリカとかレオは頻繁に来てる様子だがな」
店内を隈なく探しているエリカを見ながら、達也はそんなことを思っていた。
「結構うるさいんですね……」
「大丈夫か?」
「はい……私も一回だけエリカちゃんに誘われてきたことがあるんですけど、その時もうるさくて大変でした」
美月の性格上、エリカが楽しんでるところに帰りたいとは言い出せず、結果具合が悪くなるまで付き合ったのだろうと、ほのかと雫はその時の光景を容易に想像する事が出来た。
「あれー、おかしいわね……絶対にいたと思ったんだけど」
「見間違いじゃないの?」
「いや、目が合って隠れたのは間違いないと思ったんだけど……」
「気のせいだったんじゃない?」
「そうなのかな……」
少し考えた後、エリカはふと達也を見上げ何かに気が付いた。
「達也君なら店の中からアイツらの気配を探し出せるんじゃない?」
「出来ないことは無いが、美月が居辛そうだからここから出ないか?」
「えっ、そうなの?」
エリカが心配そうに美月の顔色を覗き込み、確かに少し表情が暗い事に気が付いた。
「ごっめーん。前もそう言えば気分が悪くなってたのよね」
「ううん、エリカちゃんが悪いわけじゃないから……」
「とりあえず、何処か静かな場所に移動しましょう」
エリカが美月を連れて出ていき、それにほのかと雫が続いたのを見送ってから、達也は店内の一角に視線を向け、そのまま四人の後に続いたのだった。
「行ったようだな……」
「だから僕は来たくなかったんだ」
「用事があったのは確かだろ? 俺は部活、幹比古は風紀委員の見回り」
「そうだけどさ……」
「てか、さすがのエリカもこの一角の事は知らなかったようだな、助かったぜ」
「僕も気分が悪くなってきたから、そろそろ帰ってもいいかい?」
「まだ勝負は終わってないだろ? 負けた方がジュース奢りだからな」
「もう僕の負けでいいよ……」
美月同様、こういった騒がしいところが苦手な幹比古はふらふらになりながらレオの相手をさせられたのだった。
「(こんな事なら素直に見つかっておくんだった……)」
見つかったら何をされるか分からないと思ったから隠れたのだが、ここから解放されるなら見つかった方が良かったと後悔した幹比古だった。
美月を落ち着かせるため、路地裏にあった喫茶店に入った五人は、とりあえず注文してから美月の心配をした。
「大丈夫、美月? さっきは食べ過ぎで、今度は騒音で調子が悪くなるなんて」
「どっちもエリカが原因」
「ケーキの時は雫だってプレッシャーかけてたじゃない」
「二人とも、少し騒がしいみたいだよ」
ほのかに注意され、エリカと雫は自分たちの声が大きかったことを自覚し、慌てて口を押さえる。
「他にお客さんはいないけど、店の雰囲気を壊すのは止めておいた方が良いわね」
「確かに、このお店に大きな声は似合わない」
「というか、絶対にいたと思ったんだけどな……」
「まだ言ってる」
美月の顔色が良くなってきたので、エリカはさっきの店でレオと幹比古を見たと事を主張する。
「本当に見たの? 吉田君もレオ君も嘘を吐いて誘いを断るような人じゃないと思うんだけど」
「用事があったのは本当かもしれないけど、それが済んであそこで遊んでたのかもしれないじゃない? ミキは兎も角、レオならありえる話でしょ」
「確かに、吉田君は今日巡回当番だから、確実に用事はあったはず」
「レオも部活かなんかだと思うけど、春休みで人もあまり集まらないでしょうからすぐに終わったんだと思うわよ。それに、レオはあそこに入り浸ってるって噂を聞いたし、最近は対戦形式のゲームにはまってるって言ってたから、ミキを捕まえて一緒にやってるんだと思って探したんだけどな……」
「別に良いんじゃない? 西條君も吉田君も、自分たちの時間があっても」
「ほのかの言う通りだな。エリカに付きまとわれたらレオも幹比古も気が休まらないだろうし」
「達也君までそんなこと言うの!? てか、あたしは別にあいつらが遊んでようが別にいいのよ。ただ、絶対にいたと思ったんだけどな」
今更レオと幹比古を捕まえて奢らせようなんて考えはエリカにもない。ただ剣士として、間違いなく見たと思った相手がいなくてショックを受けているのだ。
「達也さん、本当は知ってるんでしょ?」
「何をだ?」
「二人がいたかどうか」
小声で話しかけて来る雫に、達也は口の端を上げて答える。
「やっぱり」
「まぁ、あそこまで落ち込んでるエリカも珍しいものだし、もう少し見てから答えを教えてやることにするか」
「達也さん、人が悪い」
「今更だな」
元々人が悪いと言われ慣れている達也としては、雫にそう言われたからといって心変わりするようなことは無い。一通り落ち込んだエリカを眺めた後、あの場所に二人がいたことを教えたのだった。
存在を探れる達也に、かくれんぼで勝てるわけがない