劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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珍しく彼女が中心……


IF先輩後輩ルート その1

 水波と遊ぶ約束をしていた香澄と泉美は、待ち合わせ場所に少し早く到着した。普段なら水波が先に来て待っているのだが、今日はどうやら七草姉妹の方が早くついてしまったらしい。

 

「珍しいね、水波が僕たちより後に来るなんて」

 

「何時もは香澄ちゃんがギリギリまで出かけようとしないからです。普通は待ち合わせの五分前には到着してなきゃいけないんですから」

 

「泉美は相変わらず細かいな……別に時間ピッタリだって問題ないだろ」

 

 

 普段から真面目な泉美と、どことなくずぼらな香澄、双子でもあまり似ていない二人であるが、共通して言えるのは二人とも美少女であるという事だ。

 

「お二人さん、これから俺たちと遊ばない?」

 

「おいおい、随分とガキっぽいやつに声かけてるな、ロリコンか?」

 

「まぁ若干ガキ臭いが、相手にするにはこれくらいでも問題ないだろ」

 

 

 二人に聞こえているにもかかわらず、声を掛けてきた下種たちは堂々と泉美たちをガキだと言い放つ。

 

「悪いけど、僕たちはアンタたちみたいなブサ男相手になんてしたくないんだよ」

 

「鏡を見て出直してきた方がよろしいですわよ」

 

「駄目だよ泉美、きっとこのブサ男たちの家には鏡もないんだから」

 

 

 自分たちを子供扱いしてきたお返しとばかりに、泉美と香澄は声を掛けてきた男たちを不細工と切り捨てる。

 

「このガキどもが! 黙って聞いてりゃいい気になりやがって!」

 

「激昂するという事は、図星を突かれたと自覚しているのですね」

 

「だいたい、僕たちを子供扱いするなんて、感性を疑っちゃうよ」

 

「いや、香澄ちゃんは子供っぽいですわよ、お姉さまに似て」

 

「ごちゃごちゃぬかすんじゃねぇ!」

 

 

 男が拳を振り上げ、香澄目掛けて振り下ろそうとして――

 

「人の連れに何してるんだ」

 

 

――予想外の声が双子の耳に届いた。

 

「し、司波先輩?」

 

「お待たせして申し訳ありません、香澄さん。泉美さん」

 

「水波さん、何かあったのですか?」

 

 

 達也たちに懲らしめられている男どもには目もくれず、泉美は水波が遅れてきた理由を尋ねた。

 

「出かける前にご当主様からご連絡がありまして、その対応をしていたら時間ギリギリになってしまったのです。途中で深雪様がお戻りになられたので代わっていただいたのですが、普通に移動しては間に合わないと判断して達也さまがここまでお送りしてくださったのです」

 

「あっ、それで司波先輩がここにいるのか」

 

 

 男どもを片付け、特に疲れた様子もなく男どもを見下している達也を見て、香澄がようやく納得出来たという感じで頷く。

 

「それじゃあ水波、俺はこれで帰るぞ」

 

「待ってください」

 

「何だ、泉美」

 

 

 用事が済んだので帰ろうとした達也に、珍しく泉美が声を掛け呼び止める。

 

「助けていただいたのにお礼もしないだなんて、私の流儀に反します」

 

「別に大したことはしていないだろ。そもそもあんな連中何人相手にしようが問題ではない」

 

「司波先輩がお強いのは知っていますが、そういう問題ではなく私の気持ち的な問題ですので」

 

「せっかくだし司波先輩も一緒に遊ぼうよ。何なら司波会長も一緒にさ」

 

「深雪先輩がいらっしゃってくださるなら、私も歓迎いたしますわ!」

 

 

 お礼はどうしたと言いたげな目を双子の妹に向けた香澄ではあったが、泉美は深雪に心酔してしまっているのを思い出しやれやれと首を振って誤魔化した。

 

「でしたら、深雪様には私からご連絡いたします」

 

 

 端末を取り出して深雪に連絡する水波を見て、達也は拒否権は無くなったと諦めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水波の連絡から数分後、達也たちの許に深雪がやってきた。先ほどの達也の戦闘とは違った意味で注目を集めたが、誰一人そんなことを気にすることは無かった。

 

「お待たせいたしました、達也様。水波ちゃんや泉美ちゃんたちもお待たせ」

 

「いえ! 深雪先輩とご一緒出来るなんて、何時間待ってでも感激です!」

 

「精々数分だろ……こんにちは、司波会長」

 

 

 興奮する泉美とは違い、香澄は最低限の挨拶だけ済ませて水波とお喋りを始めた。

 

「私、香澄ちゃんに何かしたのかしら?」

 

「深雪先輩は何もしていませんよ。ただ香澄ちゃんは深雪先輩と同じく司波先輩の婚約者ですから、どうしても自分と深雪先輩を比べてしまうのかもしれませんね」

 

「そんなに気にすることないと思うんだけどね。香澄ちゃんだって十分可愛らしいんだし」

 

 

 二人の姉である真由美とはなんとなくライバル関係だと思っている深雪であるが、香澄や泉美に対しては普通に可愛い後輩だと思っているし、変なライバル心は抱いていない。

 

「泉美、早く行こうよ」

 

「分かりました。深雪先輩、行きましょう」

 

「そうね。二人とも水波ちゃんと仲良くしてくれてありがとうね」

 

「お礼を言われることじゃないので。僕たちと水波は友達ですから」

 

「深雪先輩にお礼を言われるなんて感激です! 私たちこそ水波さんには仲良くしていただいていますので」

 

 

 そっ気のない香澄とまさに感激している泉美との差に、深雪は内心苦笑いを浮かべたが、もちろんそれを表に出す事はない。だが付き合いが長く、深雪の事ならある程度お見通しである達也には、深雪が若干のやりにくさを感じている事はバレていた。

 

「達也さま、深雪様の雰囲気ですが、若干いつもより揺らいでいませんか?」

 

「香澄の態度と泉美の態度の差にやりにくさを感じているのだろう。まぁ、普通の人間には分からない程度だから気にする必要は無いと思うが」

 

「念の為に気を付けておきます」

 

「そうだな。俺も一応は気を付けておくが、万が一の時は頼む」

 

「お任せください」

 

 

 双子と深雪の関係を案じながらも、達也と水波はとりあえず静観する事にしたのだった。




泉美中心は難しいな……

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