劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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真由美より達也の方が良いだろ……


IF先輩後輩ルート その2

 香澄は達也と水波と話し、泉美は深雪に話しかける構図が何時ものこのメンバーなのだが、今日は何故か泉美も達也に話しかける事が多い。

 

「なるほど、そう言う事だったのですね。教師の説明ではイマイチ納得が出来ませんでしたが、司波先輩の説明のお陰で納得出来ました」

 

「別にこれくらいなら俺に聞かなくても七草先輩に聞けば分かったんじゃないか?」

 

「お姉さまはご自身が理解するのには問題ないのですが、他人に説明するとなると若干の不安がありますので」

 

「そうなんだよね。ボクも前にお姉ちゃんに教わったんだけど、何言ってるんだかさっぱりだった」

 

「それは香澄ちゃんの理解力が低いのではなくて?」

 

「何だよ! テストの結果はボクと泉美にそんなに差は無かっただろ」

 

「テストの結果と理解力はまた別物ですよ」

 

「二人とも、達也様がお困りになっていますからそれくらいにした方が良いわよ」

 

「はい、深雪先輩!」

 

 

 やんわりと、だが確実にプレッシャーを与えて来る深雪に、香澄は戦慄を覚えたが、泉美の方は特に気にした様子もなく、何時も通り深雪に心酔している。

 

「それにしても、泉美が司波先輩に質問するなんて珍しいね。そんなに難しいところあったっけ?」

 

「熱核融合炉の問題点について、今まで定義されている内容ではイマイチ納得が出来ませんでした。昨年司波先輩が行った恒星炉実験のように、今までの問題点をクリアした新しいアプローチの方法が行われなかったのも疑問だったのですが、司波先輩の説明で納得が出来ました」

 

「最初から不可能だと思われてたら、誰だって新しい何かに挑戦しようと思わないんじゃないの?」

 

「そうかもしれませんが、同じ三大難問だと言われていた飛行魔法はトーラス・シルバーの手によって実現されたのですから、熱核融合炉の問題だって新しい方法が――実現出来る方法があるかもしれないと思うのが普通だと思いますが」

 

「そりゃシルバーのような技術力があれば可能かもしれないけど、今まで研究し続けてきて不可能だったんだから、今更新しいやり方なんて思いつかなかったんじゃないの」

 

 

 香澄の言っている事ももっともだが、達也が泉美に行った説明は今のようなものではない。恒星炉実験が実現したのは様々なコネと大勢の協力者がいたからで、同じような実験を研究施設が行おうとしたら、莫大な予算と新たな技術者、魔法師を雇い入れなければならない。当然コストもかかる上に、成功するか定かではない実験にそれほどの予算が下りるとも限らないのだ。さらに決定的な問題点として、達也だからこそあのようなアプローチが思いついたのであって、一介の研究者にあのような方法が思いつくとは到底思えないのだ。

 

「司波先輩が発表した恒星炉実験も、他の研究機関では再現不可能とされていますので、一概に思いつかなかったでは片付かないと思いますがね」

 

「それはそうだね……お姉ちゃんも司波先輩がマスコミをあっと言わせた時は嬉しそうだったけど、その後の事を心配してたけど杞憂で済んだってはしゃいでたし」

 

「司波先輩がどこかの研究施設に引き抜かれるのではないかと気にしてましたね、そう言えば。気楽に会えなくなってしまうのではとハラハラしていましたが、司波先輩が四葉の人間だと分かった今なら、気にすることは無かったのでしょうね」

 

「そもそも達也さまは――」

 

 

 水波が達也はFLTで働いていると言いかけて、深雪が視線で制している事に気付き口を噤んだ。婚約者である香澄はある程度の事情を知らされているが、泉美の耳にはその事が入っていないのだ。

 

「どうかしました、水波さん」

 

「いえ……達也さまをどこぞの研究施設の人間が扱えるとは思えませんし」

 

「まぁ、水波ちゃんったら」

 

 

 確かに達也を引き入れたとして、そこの研究者たちが達也を上手く扱えるわけもないし、そもそも達也が言っている事を理解出来るとも思えない。深雪は本気でそう思っているために、水波の発言に笑みを浮かべたのだが、水波は別の意味で受け取っていた。

 

「ところでさ、司波先輩はお姉ちゃんの事を名前で呼ばないの?」

 

「いきなりなんだ」

 

「いや、ボクや泉美の事は名前で呼んでるのに、お姉ちゃんの事は苗字のままだからって、前にお姉ちゃんが愚痴を言っていたのを思い出して」

 

「そう言われれば、先ほども『七草先輩』と仰られていましたし、何か理由でもあるのですか?」

 

 

 双子に問われ、達也は少し困ったような表情を浮かべた。特に意味はないし、真由美が強く、本気で頼めば達也だって呼び名を変えることくらいするつもりなのだ。だが何故変えていないかと問われれば、反応が面白いからというしかないのである。

 

「香澄や泉美は出会った時から名前で呼んでいるが、七草先輩の場合はずっと苗字だったからな。いざ変えるとなると難しいんだ」

 

「その気持ち、凄く分かります。私も未だに『お兄様』と呼びそうになってしまいますもの」

 

「一年……いや二年か。ずっと七草先輩と呼んでいたから、なんとなくそのままなんだ」

 

「そうだったんですか……ですが、市原さんの事は名前で呼んでいますよね?」

 

「鈴音さんとは、七草先輩ほど親しくしていたわけじゃなかったから、変えるのは簡単だったんだ」

 

「確かに、ボクたちが調べた時も、司波先輩と市原さんは普通の先輩後輩の関係だって結果だったし」

 

 

 何時調べたのかと、深雪は二人を問い詰めたい衝動に駆られたが、達也に視線で止められて自重したのであった。




はんぞー君も調べられてたし……

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