劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この姉妹は仲が良いなぁ……


IF先輩後輩ルート その3

 一通り遊んだ後、自分たちが一切お金を払っていないことに気が付いた泉美は、慌てて財布を取り出し達也に駆け寄った。

 

「司波先輩、私たちの分はいくらだったでしょうか?」

 

「気にするな」

 

「いえ、香澄ちゃんは婚約者ですからまだしも、私は司波先輩とは先輩後輩の間柄でしかないのですから」

 

「後輩なんだから、たまには奢ってもらっても悪くはないだろ」

 

「そうだよ、泉美。司波先輩、ご馳走様」

 

 

 あまり悪びれた様子もなく達也にお礼を言う香澄に、泉美は鋭い視線を向ける。

 

「なに?」

 

「香澄ちゃんはもう少し遠慮というものを覚えた方が良いですわ」

 

「じゃあ泉美はもう少し柔軟性を身につけた方が良いと思うよ」

 

「私の何処が堅物だっていうのですか!」

 

「そう言うところだよ!」

 

 

 目の前で双子が言い争いを始めたのを見て、水波は困ったように達也を見上げる。

 

「香澄も泉美も落ち着け。姉妹喧嘩に口を挿むべきではないかもしれないが、ここは公共の場だ」

 

 

 達也に指摘されて、自分たちが注目されている事に気付いた双子は、そろってバツの悪そうな表情で互いから視線を逸らした。

 

「二人は仲がよろしいのね」

 

「そんな事ないよ。今だってこうして些細な事で喧嘩しちゃいましたし」

 

「お互いの欠点が見えてしまうから、ストレートに伝えてしまうのです……そしてそれが自覚している事だからこそ、自分に見た目が似ている相手に言われると冷静さを欠いてしまうのですわ」

 

「自覚しているなら、次からは気を付ければいいじゃない。私だって達也様に指摘されて反省した事は一つや二つじゃないもの」

 

 

 深雪の慰めに、泉美は前向きになろうと切り替えられたが、香澄の方はまだ引き摺っている様子だ。

 

「香澄さん、今度は何時遊びましょうか」

 

「水波の都合がいい日で大丈夫だよ。ボクたちは七草家の人間だと言っても特に家の用事があるわけじゃないし」

 

「そうですか。では、またご連絡差し上げます」

 

「うん。それじゃあ司波先輩、司波会長も、また」

 

 

 足早に一礼して帰路につく姉を追いかけ、自分も一礼だけ済ませて香澄を追いかける泉美。その後姿を見て深雪が楽しそうに口元を押さえた。

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ、やっぱり双子なんだなと思いまして」

 

 

 深雪が何を思ったのか分からなかった達也は、視線で先を促す。深雪も心得ているのか、すぐに理由を話す。

 

「本当に仲が悪かったら、一緒に帰ろうとしませんもの。お母様と叔母様は特別な事情があって仲がよろしくありませんでしたが、世間一般の双子はやはり仲が良いのですね」

 

「それぞれ仲が悪いのにも、仲が良いのにも理由はあるだろうが、仲違いしてるよりは仲が良い方が見ていて気持ちがいいのは確かだな」

 

「では、私たちも仲良く帰りましょうか」

 

「俺はバイクがあるから、水波と先に帰っててくれ。少し第三課に寄ってから戻る」

 

「かしこまりました。水波ちゃん、帰りましょう」

 

 

 本音では達也について行きたい深雪ではあるが、自分が邪魔だと思われたくない一心で自分の気持ちに蓋をして水波と帰路についたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰宅した双子を出迎えたのは、何時ものお手伝いさんではなく姉の真由美だった。

 

「お帰りなさい」

 

「ただいま」

 

「お姉さま、今日はどうかしたのですか?」

 

「どうもしないわよ。どうして?」

 

「いえ、何時もなら出迎えはお手伝いさんがしていたので」

 

「たまたまよ。私もついさっき帰ってきたの」

 

 

 確かに良く見れば、真由美は外出用の服装をしており、出かけるか帰ってきたかのどちらかだという事が窺えた。

 

「ところで、何かあったの二人とも?」

 

「何にもないよ」

 

「あっ、ちょっと香澄ちゃん?」

 

 

 真由美の横をすり抜けてさっさと部屋へ戻る香澄を不審に思い、真由美は泉美へと視線を向けた。

 

「何があったの?」

 

「大したことではないのですが――」

 

 

 泉美は今日あった事を詳細に真由美に伝え、最後に互いの痛いところを突いて気まずい空気になっている事も伝えた。

 

「まぁ、達也くんは私にも奢ってくれたりするから仕方ないでしょうが、彼の言う通り後輩なんだからたまには甘えても良いんじゃない?」

 

「ですが」

 

「泉美ちゃんがけじめをしっかりつけたいって思うのも分かるけど、同じ生徒会の後輩なんだから、あまり距離を取ってるのもね。いずれ義理の兄になるんだから、少しくらい苦手意識を取り除いておかないと」

 

「別に苦手ではありません。ただ、全てを見透かされているような気がしてならないのです」

 

 

 泉美の言い分に、真由美は覚えがあった。一昨年の九校戦、クラウド・ボールの試合中、真由美は達也に『全てを』見透かされているような錯覚に陥った事がある。胸元や太腿など、そういった部位を見られるのは慣れていたが、そんな感じではない視線に曝され不気味に思ったのだが、それは一瞬の事で自分の勘違いだったのだろうと思い込んでいたが、その後も何度か同じような感じを味わったことがあり、妹もそう感じているという事は勘違いではなかったのだ。

 

「達也くんも私とは違った眼を持ってるみたいだから、見透かされてると感じるのはそう言う事なのでしょうね。でも、危害を加えるとか、そう言う事はないから安心しなさい」

 

「それは、理解してるつもりです」

 

「ならそれでいじゃない。泉美ちゃんたちが奢ってもらった分は、何時か私が達也くんに返しておくから」

 

「お姉さまも奢ってもらっているなら、何時お返し出来るか分かりませんね」

 

「ちょっと泉美ちゃん!?」

 

 

 最後に真由美をからかって、泉美も部屋へと戻る事にした。そして部屋で鉢合わせた香澄と同じタイミングで頭を下げ、互いの頭が激突するハプニングが起きたのだが、二人は笑ってその事を済ませるのだった。




姉妹仲はいろいろありそうですからね……兄弟よりか複雑そうなイメージ……

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