四十九院家は先祖を辿れば巫女の家系であるが、現在は副業で神社の管理をしている。その家の娘である沓子も手伝いとして巫女の格好をして働いたりすることがある。
「どうじゃ、達也殿。似合っておるかの?」
「雰囲気に合ってるな。なんというかすごく自然な感じだ」
「そう言ってもらえると、わざわざ持ってきた甲斐があるというものじゃ」
「沓子個人の物じゃないのか?」
「わし個人の物ではあるが、こんな物日常で着る機会など無いじゃろ。だから余計な荷物になるかもしれんから持ってくるかどうか悩んだのじゃが、達也殿に見てもらえる機会などそうそうないじゃろうし、この機会に見てもらおうと思ったのじゃ」
「九校戦で着れば良いじゃないか。ピラーズ・ブレイクなら不自然じゃないと思うが」
「わしはあの競技には参加せぬからの……バトル・ボードでほのか嬢にリベンジじゃ」
新人戦でほのかに負けた悔しさを引きずっているのか、沓子はほのかにライバル心を抱いている節が見られる。
「次の九校戦は元の競技に戻るのか?」
「去年のは裏で九島家が糸を引いていたという噂じゃからの。十師族の地位から落ちた以上、口を挿めるとも思えんからの。ましてや今年は達也殿が四葉縁者として正式に参加するのじゃから、下手に茶々を入れたら大変な事にもなりかねんからの」
「俺にそこまでの力はない。精々原因を消し去るくらいだ」
「十分物騒じゃ」
けらけらと笑いながら達也の物言いにツッコミを入れる沓子。普通の女子高生とは少しずれた感性の持ち主なので、達也の発言にもこのように笑いながらツッコミを入れる事が出来るのだ。
「それにしても、仮住まいとはいえ広いのぅ。さすが四葉家の息がかかった物件という事かの?」
「母上が必要最低限の広さは確保しろと命じたらしいからな。一ヶ月とはいえ不自由な思いをさせたくなかったのかもしれないな」
「四葉殿はわしたちのことをちゃんと考えてくれておるのじゃの。じゃが、ちと広すぎる気もするがの」
「沓子はもう少し狭い方が良いのか?」
「わしは二畳あれば十分だと思うのじゃがの。仮住まいなら尚更じゃ」
「二畳の物件はさすがに無いと思うが」
「何なら達也殿の家の物置きでも構わないのじゃが」
「さすがにそんなところで生活させるわけにはいかないだろ」
冗談なのか本気なのか分かりにくい沓子の発言にも、達也は冷静に返していく。その態度に沓子も楽しそうに冗談を続けるのだ。
「ところで深雪嬢は元気かの? 同じ婚約者という立場になるのじゃから、しっかりと挨拶をしておきたいのじゃが」
「俺に使っていた魔法力を取り戻したから、魔法を暴走させることも無くなったし、更に力強くなったと思うぞ」
「愛梨がますます頑張らなければ、次も一高が九校戦を制してしまいそうじゃの。次は達也殿も選手として参加するのじゃろ?」
「俺なんかより相応しい人がいるからな。俺は今年も作戦参謀とエンジニアとして携わるだろうな」
「つまらんのぅ……一昨年のモノリス・コードは見ていて興奮したのじゃが、あれ以降達也殿は表舞台で戦う事が無かったから期待しておったのじゃが」
「俺の魔法は競技向きじゃないんだ。だから仕方ない」
「スピード・シューティングなら問題ないじゃろ?」
「昨年はその競技が無かったからな。次はどうなるか分からないが、俺は選手として参加する事はないだろうな」
「一条は達也殿と白黒つけたいと思ってるじゃろうがの」
白黒も何も、将輝は達也に完全に負けているのだ。オーバーアタックで失格になったとしても将輝の負けであるが、達也が自己修復を行い隙だらけの将輝を倒したので、どっちにしろ将輝の負けで、白黒ははっきりとしているのだ。
「ところで、沓子は何時までその恰好なんだ? 荷物の整理をするのに、その恰好は適当ではないと思うのだが」
「整理などいつでも出来るからの。今はこの格好で達也殿をもてなそうと思っておる」
「もてなす? その恰好でか?」
「知り合いの男子から没収した本に、この格好でご奉仕すれば男はいちころと書いてあったからの。ところで、ご奉仕とはなんじゃ? お茶でも淹れればよいのか?」
「さぁな。その男子にでも聞いておけばよかったんじゃないのか?」
「聞いたのじゃが、顔を赤くして教えてくれんかったのじゃ。愛梨や栞、香蓮にも聞いたのじゃが、同じような反応しかせんかったし、いったいなんじゃというのじゃ」
さすがの達也もここまで来ればその本の内容に思い当たり、誰しもが教えなかったことにも納得がいっていた。だがあえて知らないフリを続けはぐらかす事にしたのだった。
「そう言えばあの本では、女性が胸元を開けて男性に迫っていたが、あれはなんだったんじゃろうか……」
「そういう本だったんだろ」
「そう言えば愛梨や香蓮からは誰かに見せるなとも言われておったが……まさかあれが噂に聞く『エロ本』というやつじゃったのか!」
「……あまり女の子が見るような本じゃない、という事だろうな」
「そうか…あれが……じゃ、じゃが、あの本に写っておる女子は、なんだか気持ちよさそうな表情をしておったが、本当にそうなのじゃろうか? 達也殿、少し試してみないか?」
「沓子は『その行為』がどういうものか分かっているのか? 仮にも巫女なら、純潔は大事にしなければいけないのではないか?」
「別に神事に携わるわけでもなし、構わないじゃろ。それに、ちゃんと理解しておる。子供を授かるのに必要な行為じゃとな」
よく見れば頬が赤く染まっている沓子を見て、達也は彼女の勇気に免じて提案を受け入れたのだった。
巫女姿は見てみたいかもしれません……