劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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久々登場の文弥……


IF甘婚約者ルート 亜夜子編

 亜夜子は悩んでいた。他の婚約者とは比べ物にならないくらいの時間は過ごしてきたが、ただ付き合いが長いだけという見方も出来るし、深雪には到底かなわないのであまりアドバンテージにはならない。血縁という事だって、深雪や夕歌がいるし、妹という事でも深雪がいる。つまり何を焦っているのかというと、達也との関係で他の婚約者を圧倒するだけの自信が彼女には無いのであった。

 

「何してるの、姉さん?」

 

「文弥……いえ、何でもありません」

 

「そうは見えないんだけど……」

 

「何でもないと言っています」

 

「じゃあなんで達也兄さんの写真を広げて唸ってるのさ」

 

 

 文弥に指摘されてようやく、亜夜子は自分が達也の写真を広げていた事に気が付いた。秘蔵の写真もあったので、亜夜子は急いでその写真を片付けようとして、手を滑らせてばら撒いてしまった。

 

「こんな写真良く撮れたよね……隠し撮りなんだろうけど、達也兄さんならすぐに気が付きそうなものだけど」

 

「敵意を向けなければ、達也さんの事を隠し撮りしようが問題ありませんわ。実際にご当主様や夕歌さんなどもご一緒した事がありますし」

 

「夕歌さんは兎も角として、ご当主様まで……」

 

 

 真夜が簡単に外出出来るはずもないから、代理の人なのだろうと文弥は理解しているが、それでも真夜が達也の写真を欲しているとは考えたくもなかったのだった。

 

「それで姉さん」

 

「なに?」

 

「そんなに達也兄さんに会いたいなら会いに行けばいいじゃん。来月からどうせ東京で生活するんだから、黒羽の息がかかってるホテルにでも泊まってさ。そのまま甘えてくればいいじゃん」

 

「そんな簡単に出来るなら苦労しません。東京に行ったからと言って、達也さんが会ってくれるかどうかも分からないのですから」

 

「達也兄さんなら頼めば会ってくれると思うけどな……姉さんの事を邪険に扱うような人じゃないし」

 

「そう言う事じゃ無いでしょ。達也さんはいろいろと忙しいお方なのですから、私の我が儘で予定を狂わせるわけにはいかないのよ」

 

「じゃあ、電話して聞いてみればいいじゃん」

 

 

 そう言って文弥は通信端末を取り出し、達也の番号に連絡を入れる。

 

『文弥、何かあったのか?』

 

「あっ、達也兄さん。今平気ですか?」

 

『少しくらいなら平気だが』

 

「それじゃあいきなり質問しますけど、明日時間ありますか?」

 

 

 前置きもせずに本題に入った文弥に、亜夜子は慌てて端末を奪おうとしたが、上手くはいかなかった。

 

『明日? 特に予定もないからCADの調整でもしようと思っていたのだが』

 

「なら、明日姉さんとデートしてくれませんか?」

 

『亜夜子と? 構わないが』

 

「じゃあ明日、詳しい事は姉さんが伝えますので」

 

 

 そう言って文弥は通信を切り、おたおたしている亜夜子に視線を向けた。

 

「僕が出来るのはここまでだから、後は姉さんの頑張り次第だからね」

 

「……わかりました、覚悟を決めます」

 

 

 双子の弟に背中を押され決心したのか、亜夜子は達也とデートする事を受け入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、朝早くから東京にやってきた亜夜子は、落ちつかない様子で待ち合わせ場所へと向かった。途中何度か自分の服装を確認し、子供っぽくないだろうかと悩みながらも、亜夜子は確実に歩を進めた。

 

「あれ、達也さん」

 

「早かったな」

 

「達也さんこそ、こんな時間から?」

 

「時間指定が無かったから、何時来ればいいのか分からなかったからな。連絡してもつながらないし」

 

「も、申し訳ありませんでした!」

 

 

 浮かれていたのか、時間を伝える事を忘れ、端末を持ち歩くのも忘れたようで、亜夜子は二重の意味を込めて達也に謝罪をした。

 

「別に構わないが、この後は何処に行くんだ? 待ち合わせ場所だけ言われたから来れたが」

 

「と、とりあえず私の部屋に来てくださいますか? お詫びも兼ねて美味しいお昼ご飯を用意しますので」

 

「亜夜子の部屋って、黒羽のホテルだろ? キッチンなんてあるのか?」

 

「厨房の隅をお借りすれば問題ありませんわ」

 

 

 問題はあると思ったが、亜夜子のやる気を削ぐのも可哀想だと思い、達也はその事は口にしなかった。

 

「達也さんは部屋で寛いでいてくださいませ。私はちゃちゃっと終わらせてきますので」

 

 

 そう言われて達也は部屋のソファに腰を下ろし、CADのアタッチメントの具合を確認するために手を動かしていた。寛げと言われても、自分の部屋ではないのでそう寛ぐことは出来ないのだ。

 

「お待たせいたしました――って、達也さんは相変わらずですね」

 

「手持無沙汰でな。簡単に出来る事をしてただけだ」

 

 

 すぐにCADを片付け、達也は亜夜子が持ってきた料理に視線を向けた。少し不格好だが普段料理していないという事を加味すれば上等な出来だと思えた。

 

「深雪お姉さまには敵いませんが、これでも精一杯頑張りました」

 

「他の人にも言ってるんだが、深雪と比べる必要は無いぞ。亜夜子は亜夜子の料理を作ればいいんだから」

 

 

 そう言って達也は料理を口に運び、味わうようにゆっくりと租借する。その間亜夜子はドキドキしながらも、決して貶されることは無いだろうと確信していた。

 

「これから上達していけるな、これなら」

 

「微妙な感想ですが、前向きになれる言葉をありがとうございます。それであの……」

 

「ん?」

 

「これから先頑張れるように、達也さんからのご褒美が欲しいのですが……」

 

 

 亜夜子のそれは、深雪がおねだりする時の仕草に似ており、達也としては断り辛いものがあるのだ。

 

「言ってごらん?」

 

 

 亜夜子なら無茶なお願いをしてこないだろうという気持ちから先を促したのだが、その事を達也は後悔したのだった。




ヤミちゃんも達也の事は好きでしょうけどね……

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