劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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別のカップルもイチャイチャしてるな……


IF甘婚約者ルート 紗耶香編

 卒業して時間があるため、紗耶香は剣道部の、桐原と三十野は剣術部の指導に当たっていた。指導するのは問題ないのだが、紗耶香には一つ不満があった。

 

「桐原君、はいタオル」

 

「おう、すまねぇな三十野」

 

「巴で良いって言ってるのに」

 

「お前だって苗字で呼んでるだろ?」

 

「武明君って呼んでほしいの?」

 

「……悪くねぇな」

 

 

 自分が達也となかなか会えないのに対して、この二人はしょっちゅう会っては、紗耶香の前でいちゃついてみせるのだ。二人に当てつけのつもりは無いが、見てる紗耶香からしてみれば当てつけられているような気分になるのだ。

 

「壬生先輩、どうかしましたか?」

 

「いえ、何でもないわ。続けましょう」

 

 

 後輩に心配され、紗耶香は二人から視線を逸らし、練習に集中する事にした。だがやはり二人の関係を見て、自分と達也との関係を気にしてしまい、何時もなら一本取られることのない相手にも負けてしまったのだった。

 

「壬生先輩、調子悪いのですか?」

 

「そうじゃないのだけど……ごめんなさい、ちょっと休憩させて」

 

 

 断りを入れてから、小体育館の隅に移動して腰を下ろす。紗耶香の不調に剣術部の二人も心配そうに近寄ってきた。

 

「どうした、壬生」

 

「具合悪いなら保健室に連れて行きましょうか?」

 

「そう言うのじゃないのよ……ただ、貴方たちを見ていると羨ましいのと腹立たしいのが同時に来て落ち着かないのよね」

 

「何だよそれ」

 

 

 桐原の方はピンと来なかったようだが、巴の方は合点がいったと言わんばかりに頷き、そして謝罪した。

 

「ゴメンなさいね。壬生さんは簡単に会えないものね」

 

「今生徒会室にいるから、会おうとすれば会えるんだろうけども、生徒会室に行く用事が無いもの」

 

「何だ? 司波兄に用事なら呼び出せばいいじゃねぇか。仮にも剣道部の代理部長を務めたんだから、指導してもらうって名目で呼び出せるんじゃねぇか?」

 

「そう言えば、司波君って生徒会の仕事を早く終わらせちゃうから、結構暇してるって聞いたことがあるわね」

 

「何だったら俺が連絡してやんぜ?」

 

 

 桐原の気遣いに、紗耶香は首を振って断った。ここは自分で呼ばなければ意味がないと思ったのか、単純に声が聴きたかったのかは分からないが、更衣室に移動し端末から達也の番号を呼び出し、小体育館に呼び寄せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が小体育館に来てからというもの、紗耶香の動きにキレが増し、先ほど不覚を取った相手に対して全力で挑み雪辱を果たしたのだった。

 

「やっぱり司波君が来ると壬生先輩の動きにキレが増したわね」

 

「そりゃ婚約者の前でみっともない試合は出来ないでしょ」

 

「あーあ、私も彼氏欲しいなー」

 

「そこ、無駄話してる暇があるなら素振りしなさい」

 

 

 紗耶香に注意されると、部員たちは慌てて素振りを開始した。引退したとはいえ紗耶香の影響力は高く、現部長よりも権限があるのではないかと言われているくらいである。

 

「だー、やっぱり司波に勝てねぇー!」

 

「お前じゃ無理だって。壬生先輩だって勝てないんだから」

 

 

 一方の達也は、防具も着けず、竹刀も持たずに剣道部員と対峙して、危なげなく相手を降参させていた。

 

「司波君、ちょっといいかな?」

 

「構いませんよ」

 

 

 紗耶香に手招きされ、達也は小体育館から外へ出た。他の部員が覗こうとしたが、桐原と三十野が鋭い視線を向けたお陰で、剣道部員たちは大人しく練習する事にしたのだったが、紗耶香はその事は知らないままだった。

 

「それで、何か用があって呼ばれたんですよね」

 

「重要な用事があったわけじゃないんだけど、ちょっと会いたかったんだ」

 

「まぁ、壬生先輩とはあまり会う機会がありませんからね」

 

 

 達也も、婚約者の中でも会う機会が少ないと認めるくらい、紗耶香と会う事は無いのだ。忙しいという事も多分にあるのだが、それ以上に交流が少ないのである。

 

「七草先輩や市原先輩のように、機会を作って会えればいいんだけどね」

 

「壬生先輩はいろいろと忙しかったですからね。特に受験が」

 

「二科生だってこともあったけどね。司波君は魔工科に転籍したから、なんとなく会いにくくなったし」

 

「そんなことは気にしなくてもいいと思うのですが」

 

「司波君は心も強いから気にならないんだろうけども、私はほら……二年の時に犯罪組織に付け込まれるくらいだからさ……」

 

 

 二年前の入学式後くらいに起きたテロ騒動で、紗耶香は主犯格を校内に招き入れる役割を担っていた。その事で精神的にも鍛えようと決心をし、今ではあの時と比べ物にならないくらい成長はしているのだが、最後まで一科生に対してのコンプレックスは解消出来なかったようだ。

 

「本当は婚約者になろうだなんておこがましいとは思ったんだけど、これだけはどうしても我慢出来なかった」

 

「別に壬生先輩が気にする事ではないと思いますが」

 

「でも、司波君は名門の家の御曹司だったわけで、私はただの剣道娘だもの……つり合いが取れないと思っても仕方ないじゃない? だからどうしても自分は場違いなんじゃないかって思っちゃうのよね……」

 

 

 イマイチ自分に自信が持てないのだろうと、達也は紗耶香の気持ちをそのように捉えていた。とりあえずの問題として、紗耶香は婚約者として相応しいと判断されたという自信を持たせるのが重要だと判断した達也は、紗耶香を抱き寄せ口づけをした。

 

「な、なにを……」

 

「これで分かりましたか? 壬生先輩は――紗耶香さんは俺の婚約者として相応しいんですよ」

 

 

 そう宣言され、紗耶香は顔を真っ赤にして小体育館に逃げ込み、剣道部剣術部の全員から心配され、何があったのかに見当がついた巴からはからかわれたのだった。




桐原の名前が一瞬出てこなくて焦りました

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