元々は二人で遊ぶ約束をしていたのだが、どうせなら達也も呼ぼうということで、スバルは今達也に電話を掛けている。
「――というわけなのだが、司波君の都合はどうだい?」
『別に問題はないが、今から行ったとしても数十分はかかるぞ』
「それくらいは承知しているさ。それじゃあ、僕とエイミィは先に遊んでいるから」
『それじゃあ後で合流するとしよう』
そう言って達也が電話を切り、スバルも通信端末をバッグにしまう。会話が終わったのを確認したエイミィが、スバルに話しかけてきた。
「司波君、どうだって?」
「来られるそうだが、今から出ても数十分はかかるとさ。僕にではなくエイミィに言ってほしそうだったからね」
「私だってそれくらい待てるってば!」
同級生ではあるが、エイミィは幼い雰囲気があり、達也は大人びた雰囲気なため、この二人が一緒にいても恋人はおろか、同級生だと思う人はそうそういないだろうとスバルは思っている。そもそも自分が達也と一緒にいても同級生には見られないだろうと思っているのだから、自分より幼い感じがするエイミィなら尚更だろう。
「それじゃあ何処に行こうか?」
「君は本当に行き当たりばったりだな……」
遊ぼうと誘ってくるのはいつもエイミィなのだが、彼女は基本的ノープランなのだ。待ち合わせ場所だけ決めて、その周辺に面白そうなものが無いか探すのが何時ものパターンになりつつある。
「とりあえず、入った事のないお店にしようよ!」
「そう言ってハズレだったときの露骨さはどうにか出来ないのかい? 僕は兎も角、お店の人に失礼だと思うのだが」
「だって、あんまり美味しくなかったら表情崩れるでしょ?」
「もう高校三年生になるんだから、少しくらいポーカーフェイスくらい出来るようになったらどうなんだい?」
「素直が一番だって、グランマも言ってたからね」
「時と場合によると思うのだが」
スバルのツッコミには反応せず、エイミィはいつも通り辺りを見回して入る店を選ぶ。
「うーん……あの店にしよう! 結構人も入ってるし」
「大丈夫かい? 結構高そうお店だが……」
「平気だと思うよ。私やスバルだってお金持ってるんだから」
「高校生が入るようなお店には見えないんだが……」
心配するスバルを他所に、エイミィはずんずんと店に近づいていき、入口手前でスバルに手招きをする。一抹の不安を抱えながらも、スバルはエイミィに誘われるがままに店へと入っていくのだった。
達也が二人を探していると、とある店からぐったりとしたエイミィとスバルが出てきたのを見つけ、早足で近づいた。
「どうかしたのか?」
「あっ、司波君……」
「エイミィが選んだお店が酷くてね……僕たちには合わなかったようだ」
「もう少しおしゃれなところにすればよかった……」
「だから僕はちゃんと調べてこいと言ってるんだ……」
達也が二人の出てきた店の中を覗くと、女子高生にはハードルの高そうなメニューが多く見られた。そして二人の現状を見て、少しスバルに同情したのだった。
「気分転換に甘いものでも食べに行こう! 司波君も来たから、司波君の奢りで」
「別にそれは構わないが、二人とも今食べたばかりではないのか?」
「女の子は甘いものは別腹なんだよ! それに、奢りなら尚更大丈夫になるものなんだよ」
「その理屈はちょっとおかしい気もするが、確かに甘いものなら食べられそうだ」
二人の提案になってしまったので、達也は素直に甘いものが食べられる店に二人を連れて行くことにした。
「さーて、いっぱい食べるぞ~」
「そう言えばエイミィ、さっき太ったとか言ってなかったかい?」
「スバル、それは言わない約束でしょ!」
達也の前で言われ、エイミィは顔を真っ赤にしてスバルに迫る。
「恥ずかしいと思うなら、少しくらい食べる量を抑えた方がいいんじゃないかい? その方が司波君も助かるだろうし」
「別に財布が空になるまで食べるつもりは無いもん!」
達也の財布が空になるまで食べるのなら、相当な量を食べなければならないが、二人ともそこは本気にしていないのでツッコミは無かった。
「それじゃあその分運動をすればいいんでしょ! 乗馬だってあまり体重が増えると大変だから、キープはしてるんだから」
「そうなのかい? じゃあ、どのくらい太った――」
「太ったかもって言ったんだよ! 本当に太ったわけじゃないもん!」
二人のやり取りを見ながら、達也は微笑ましげにコーヒーを飲んでいた。達也からしてみれば、二人のやり取りは微笑ましいで済むのだが、エイミィには結構な問題であり、達也に鋭い視線を向けてきた。
「なんだ?」
「司波君は細い女の子と少し丸い女の子、どっちが好き?」
「別に体型で好き嫌いを判断するつもりは無いし、個性だろ、そんなの」
「それなら良かった」
達也の意見を聞き安心したのか、エイミィの食べる勢いが増したようにスバルには見受けられた。
「本当に気にしないのかい?」
「四葉家に入ればこんなふうに間食を自由にする時間も無くなるだろうし、今くらいは別に良いんじゃないか?」
「そっちじゃなくて、このままだとエイミィは肥えると思うのだが」
「その分運動してるんだから大丈夫だろ。それよりもスバル、口元にクリームが付いてるぞ」
そう言って口元からクリームを掬い、自分で食べた達也に、スバルは顔を真っ赤にし、エイミィは羨まし気にスバルを見て、自分も口元をクリームだらけにしたのだった。
来年は本編に戻れるでしょうし、またよろしくお願いいたします