劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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明けましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします


IF甘婚約者ルート 響子編

 軍の訓練が終わったすぐ後、響子は達也個人に宛がわれた部屋へと直行した。事情を知っている風間たちは苦笑いを浮かべたが、達也の素性を知らない他の兵士たちは首を傾げて、中には事情を聞こうとした猛者もいたが、誰も答える事はしなかった。

 

「大黒特尉、藤林です」

 

 

 部屋の前で声を掛け、響子は達也が部屋に招き入れてくれるのを待つ。気配で自分だと分かってはいるのだろうが、声掛けは必須で、達也が招き入れてくれるまで自分からは絶対に入らないのが条件で、二人きりで会う事を許可してもらっているので、響子も逸る気持ちを抑えている。

 

「どうぞ」

 

 

 周りに人がいないのは分かっているが、念には念を入れて達也はフルフェイスのヘルメットを被ったまま響子を部屋に招き入れた。

 

「相変わらず用心深いわね」

 

「四葉との関係は公にしましたが、戦略級魔法師としての素性は明かしていませんので。そもそも、日本に『大黒竜也』という戦略級魔法師はいませんからね」

 

「軍事機密指定の魔法だもんね。USNAは戦略級魔法として捜査してたみたいだけど」

 

「送り込んできたのがリーナじゃ、俺の素性は明らかに出来ませんよ」

 

「シールズさんは諜報というよりは戦闘メインの魔法師だもの、仕方ないわよ」

 

 

 さらりとリーナをディスっているが、響子も達也も特に気にした様子はなく話を続けた。

 

「今じゃ達也くんの婚約者の一人だものね」

 

「何で惚れられたのか分かりませんがね」

 

「達也くん、無自覚で女の子を次々に惚れさせてるからね。深雪さんが嫉妬しちゃうくらいに」

 

「特に何かをした覚えはないんですが」

 

「だから女の子がキュンってくるのよ。自覚してやってたら痛い人だと思われるかもしれないし」

 

 

 くすくすと笑いながら話す響子に、達也は首を捻るばかりだった。

 

「ところで響子さん」

 

「どうかしたの?」

 

「お茶とコーヒー、どっちがいいですか?」

 

「あっ、私がやるわよ。達也くんはコーヒーよね」

 

 

 腰を浮かせかけて達也を手で制し、響子が準備をするために立ち上がり、達也の希望を聞きお茶の用意をする。

 

「そう言えば達也くんって苦手なものってあるの?」

 

「急に何ですか」

 

「完全無欠のイメージが強いから、何か弱点でもないのかなって思って」

 

「そもそも俺は一般的な魔法技能に乏しいですし、CADのハード面も若干苦手にしてますが」

 

「でもそれは、四葉の中でだったり、世界的な技術者の中での話でしょ?」

 

「そんなことも無いと思うのですが」

 

 

 実際達也は、九校戦に参加しても大した成績は残せないと思っているし、ハードで勝負するなら千秋や真紅郎に勝てないとさえ思っている。だがそれは達也が自分の事を過小評価する癖があるからで、響子からしてみれば十分に達也は世間の中で上位だと思っているのだ。

 

「達也くんは自分の実力を正確に把握してないのかしら? 他の人の実力は見ただけで分かる癖に」

 

「自分の事を正確に把握する事は、他人の実力を把握するよりも難しいと思いますが」

 

「それは達也くんだけだと思うけどね。達也くんは視ただけで相手の情報を全て理解しちゃうから、どれほどの実力は向き合っただけで分かっちゃうものね」

 

「独立魔法大隊の人は分からない人もいますけどね」

 

「中佐とかでしょ? 達也くん相手に実力を隠せる人なんてそうそういないんだから」

 

 

 再びくすくすと笑いながら、響子は達也の前にコーヒーを置き、自分は紅茶を口に含んだ。

 

「そう言えば四葉さんがミズ・ファントムと第一高校の保険医を達也くんの愛人として認めるって言ってたわね」

 

「自力で母上の前までたどり着いたご褒美だと言ってましたが」

 

「同年代の婚約者が増えるのかと思ってたけど、愛人止まりだったとはね」

 

「確かに年上の婚約者はいるとはいえ、夕歌さんも響子さんから見れば年下ですからね」

 

「名門の家に生まれた娘としては、こんな歳まで独身なのは結構辛かったんだけどね」

 

「婚約者に死なれてしまったのですから仕方ないと思いますが」

 

「同じ戦場で達也くんも想い人を亡くしてるのに、私は何時までも引き摺って駄目ね……」

 

 

 不意に寂しさがぶり返してきて、響子は自分の目頭が熱くなってきたのに気が付き、慌てて達也から視線を逸らした。

 

「もう割り切ったと思ってたのに、やっぱり駄目ね、私……いつまでもあの人の事を忘れられないなんて」

 

「無理して忘れる必要は無いと思いますよ。死んでしまった人は覚えてくれている人の中でしか生きられないのですから。響子さんが忘れてしまったら、その婚約者は本当に死んでしまいますよ」

 

「達也くんって、たまにロマンティックな事を言うわよね」

 

「そんなつもりは無いのですが」

 

 

 達也の慰めで落ち着いたのか、響子は視線を達也に戻し、そしてゆっくりと近づいてきた。

 

「どうかしましたか?」

 

「忘れなくてもいいという事は分かったけど、今だけは達也くんを直に感じたいの」

 

「何か不安にでもなったのですか?」

 

「年の差というのは不安になるものなのよ。真由美さんや津久葉さんだってそう思ってるでしょうけども、私は彼女たちよりも年上なんだから」

 

 

 そう言って達也の背中に手を回して抱き着き、落ち着きを求めて胸板に顔を押し付けた。

 

「やっぱり鍛えてるだけあって逞しいわね」

 

「響子さんは、鍛えていてもしなやかですよね」

 

「これでも女だもの。ムキムキにはなりたくないわよ。それに、直接触ればもっと柔らかいわよ?」

 

 

 そう言って響子はベッドに視線を向け、達也を誘い一緒にベッドへと入ったのだった。




さすがは大人の女性

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