真由美を介して漸く達也に許可してもらったFLT第三課の見学の日、あずさは緊張で動きがぎこちなかった。
「ここが憧れのシルバー様が拠点としてるFLT第三課……」
あずさは達也がシルバーであるとほぼ確信しているが、興味はそこだけではなく周りのスタッフにまでおよび、前々から真由美を介して達也にお願いしていたのだ。
「技術力ではFLT一と言われているこのグループの作業を見学出来るだなんて……司波君と知り合いになれて良かったです」
入り口前で待ち合わせなのだが、周辺に達也の姿は無い。それも当然で、約束した時間は今から一時間後なのだ。緊張のあまり早く来過ぎたあずさは、研究所の周辺をぶらぶらしようとして、一人の研究者に声を掛けられた。
「お嬢ちゃん、ここは関係者以外立ち入り禁止だから」
「お、お嬢ちゃん!? これでも十八歳です!」
自分の見た目が幼いのは自覚しているが、お嬢ちゃんと言われるような年齢ではないので、あずさは珍しく憤慨してみせた。
「それなら尚更入らせるわけにはいかないので、どうぞお引き取りを」
「私は待ち合わせでここに来てるんです! まぁ、楽しみ過ぎて一時間も早く来てしまったので、相手はまだいないんですが……」
「何事ですか?」
「あっ、御曹司」
聞き覚えのある声の主が、聞き覚えの無い呼ばれ方をしていて、あずさは自分の勘違いだったのかと疑いながら声の主を確認した。
「司波君!」
「早いですね、中条先輩。約束は一時間後だったと記憶していますが」
「は、はい……楽しみ過ぎて早く来てしまいました」
「お、御曹司のお知り合いだったのですか!?」
「第一高校の先輩で、技術者志望の中条あずささんです」
達也の紹介を受け、あずさに声を掛けてきた研究者は頭を下げて逃げ去るようにこの場からいなくなってしまった。
「どうしたんでしょう……」
「さぁ、どうしたんでしょうね。ところで中条先輩、もう中に入られますか?」
「えっ、良いんですか!」
「え、えぇ……ほかに予定が無ければですが」
あずさのテンションに若干のやり難さを感じながら、達也はあずさにゲストパスを差し出す。例え達也の客とはいえ規則なので、これを持っていなければ入る事すら出来ないのだ。
「こ、これがFLT第三課に入るためのゲストパス……」
「そんなもの珍しくも無いと思いますが」
「そんな事ないですよ! 司波君は当たり前のように入れるから何も思わないかもしれませんが、ここに入りたいと思っている魔工技師志望の学生がどれだけいるか分かりますか!?」
「お、落ちついてください」
「はっ……ご、ゴメンなさい。つい興奮してしまいました……」
デバイスオタクと言われるだけあるなと、達也は改めてあずさのデバイスに対する愛と、それを生み出す技術者への尊敬の念を頭の片隅に記憶しておくことにした。
「それでは中へご案内しますが、あまり大したものはありませんよ?」
「司波君にとっては大したものじゃなくても、私にとっては宝の山かもしれませんから」
既に心ここにあらずの状態のあずさを見て、達也は苦笑いを浮かべながら研究所内へとあずさを案内する事にした。
「御曹司、そちらのお嬢さんは?」
「事前に通達した高校の先輩です。早く来てしまったようでしたので、自分が案内する事になりました」
「お、お邪魔します……」
当たり前のように声を掛けて来る研究者たちに、あずさは少し緊張した様子でお辞儀をする。お辞儀をしながらも、あずさは達也がこの施設で偉いのだという事を認識し、やはり彼こそがという考えを深めていた。
「御曹司、牛山主任がお探しでしたよ」
「牛山さんが? 何かあったのですか?」
「例の実験が成功したから、御曹司にも確認してもらいたいと」
研究者の言葉に、達也は小さく頷いたが、あずさは内容が分からないので小首を傾げた。
「司波君、例の実験って?」
「大したことじゃないですよ。恒星炉の問題点を改善した物を作り、試験的に動かしただけです」
簡単に言い放った達也に、あずさは驚きと畏怖と尊敬と、ほんのちょっとの憤慨の感情が入り混じって何も言えなくなってしまった。
「前の実験の時は、特殊な魔法を扱える魔法師がいなければダメでしたが、それをどうにかしようとしたものの実験が成功したようですね。中条先輩も見学しますか?」
「ぜ、ぜひ!!」
言いたい事はいろいろとあるが、そのすべてを忘れるくらい魅力的な提案だったので、あずさは二つ返事で達也の誘いを受ける事にした。
「御曹司、探しやしたぜ」
「ご苦労様です。それで、例の実験の成果は?」
「へぇ。おい、もう一度起動だ!」
牛山の合図で、新恒星炉が作動し、モニターにはそこから得られるエネルギー供給量が表示されている。それはあずさたちが一年前に手伝った恒星炉実験の時の数値よりもはるかに高く、安定した数値が表示されていた。
「これでまた一つ加重系三大難問を解き明かしましたね」
「まだ小規模ですからね。これの規模を拡大するには、まだ問題点は山積みです」
「さすが御曹司ですな。この程度の成功では満足出来ねぇってか」
「牛山さんだって、これから先の事を考えて楽しそうな顔をしてますよ」
根っからの技術者である牛山にとって、この実験に携われるだけで楽しいのだろう。そんな表情を見ていたあずさの中に、一つの願望が芽生えた。
「あの、司波君」
「何でしょうか」
「私もお手伝いしてもいいでしょうか?」
「御曹司、このお嬢さんは? 婚約者の中にはいなかったようにおもうんですが」
「この人は俺の先輩です」
本日三度目の驚かれに、あずさもさすがに反応しなくなった。それよりも今は、この実験に携わりたいという気持ちが大きかったという事もあるのだろう。
「司波君が手伝ってほしいと思った時だけで良いので! 最悪完成の瞬間を見せてもらえるだけでも! お願いします!」
「まぁ、中条先輩の時間がある時にでも来てもらいましょうか」
「っ、はい!」
こうして、あずさは第三課にアルバイトという形で関わることになったのだった。
あーちゃんなら活躍出来るでしょうね