劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ある意味当然の流れに……


嫉妬する深雪

 達也の膝に座り、達也に朝ごはんを食べさせてもらうという光景を目の前で見なければならなかった深雪は、非常に不機嫌な表情で食器を片付けていた。

 

「深雪様、ここは私がしますので、真夜様のお相手をしては如何でしょう」

 

「そうね、お願い出来るかしら」

 

 

 水波に片づけを任せ、深雪は真夜がいる達也の部屋へと向かった。最近では魔法を発動させることは無いが、それでも深雪が不機嫌だと水波にとって恐怖の対象になるのだ。

 

「達也さまはご自身がどれだけ想われているか分かっているのでしょうが、真夜様には逆らえないですしね……」

 

 

 立場的なものが邪魔をして、普通の母子として過ごせなかったからか、今の真夜の甘えっぷりはすさまじいものだと水波も感じている。

 

「葉山様も何故か楽しそうに真夜様のお手伝いをしていますし……」

 

 

 立場的には止めるのが正解ではないかと思いながらも、自分がそれを葉山に言うのは躊躇われるものがある。水波はあくまでも調整体でしかないので、四葉家の筆頭執事に物を申した次の日には存在が消されてしまうかもしれないのだ。

 

「とりあえず、深雪様を落ち着かせることが出来るのは達也様だけですし、私にはこれくらいしか出来ませんから」

 

 

 深雪の代わりに食器を片付けながら、これから達也の部屋で起こるであろう言い争いを想像し、達也に同情するのだった。

 

「真夜様が当面の間この家で生活なさるのでしたら、これからも同じような事が起こるのでしょうか……」

 

 

 葉山が用意した着替えから、少なくとも一週間は滞在するのだろうという事は分かっているので、水波はこの家が無事に残るのかどうかが心配になってきた。

 

「達也さまが何とかしてくれるでしょうが、何としてでも深雪様のお命だけはお守りしなくては」

 

 

 それが使命で存在理由なのだからと、水波は小さく拳を作り、気合いを入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也と二人きりの空間を邪魔され、真夜は不機嫌な顔で深雪と対面していた。

 

「深雪さんはどのような用件で達也さんの部屋に来たのかしら?」

 

「達也様だけに叔母様のお相手を任せるのは失礼ですから。僭越ながら私がお手伝いをと思いまして」

 

「私は達也さんと二人きりの方が嬉しいから、深雪さんはご自身の部屋に戻られたら如何かしら?」

 

「いえ、達也様にもお一人になりたい時間もあるでしょうから、叔母様もご一緒に私の部屋へ参りましょうか」

 

 

 背後で火花が飛び散ってるであろうやり取りを聞きながら、達也は第三課から持ち帰った資料に目を通していた。

 

「達也さん、それは何かしら?」

 

「恒星炉をより簡単に、より正確に作動させるために研究に関する資料です」

 

「私も見ても構わないかしら?」

 

 

 答えを聞く前に膝の上にやってきた真夜に、達也は苦笑いを浮かべながらもう一部の資料を手渡した。

 

「随分と難しい事をやっているのね、たっくんは……」

 

「魔法師の地位向上は必須ですからね」

 

「この間のテロの所為で、反魔法師運動も過激になってきていますし、深雪さんも襲われかけたみたいですからね。いっそのこと反魔法師運動をしている連中をたっくんの魔法で消し去ったらどうかしら」

 

「そんなことをすれば、魔法師の地位は更に下がってしまうでしょうね」

 

 

 真夜が本気で言っているわけではないと分かっているので、達也も軽く笑みを浮かべながら答える。そのやり取りを深雪は嫉妬の表情で見ていた。

 

「達也様、午後から生徒会の業務がありますので、叔母様は一時的に四葉家へお戻りいただいた方がよろしいかと思いますが」

 

「大丈夫よ。私もたっくんたちと一緒に行くから」

 

「魔法科高校は原則として関係者以外の立ち入りは禁じておりますので」

 

「あら、達也さんの母親で、深雪さんの叔母なのだから関係者だと思うけど? それに今は春休み、少しくらい生徒以外の人間を入れても問題にはならないでしょ?」

 

「ですが叔母様。そのお姿で達也様の母親だと仰られても説得力に欠けると思いますが」

 

「それもそうね……じゃあ、達也さんの娘という事で」

 

「もっと駄目です!」

 

 

 真夜の冗談に、深雪は本気で怒りを露わにし、達也に視線で責められて恥ずかしそうに俯いてしまった。

 

「お見苦しい真似をしまして、申し訳ありませんでした」

 

「いや、深雪が言いたい事も理解出来るからな。母上、学園内ではピクシーをつけますので、大人しくしていてくださいね」

 

「大丈夫よ、子供じゃないんだから」

 

「その見た目では説得力に欠けますから」

 

 

 達也に言われ、真夜は自分の姿を再確認して笑い出した。自分でも子供の姿で「子供じゃない」と言っても説得力に欠けると思ったのだろう。

 

「とりあえずは大人しくしてるわ。それに、達也さんたちの作業の邪魔をしたくないし」

 

「生徒会室まで来るおつもりなのですか!?」

 

「可愛い息子と姪の仕事っぷりを見学させてもらいたいのだけど、ダメかしら?」

 

「……見学だけですからね」

 

 

 なんとなく、膝の上に座り見学する真夜の姿が想像出来てしまった深雪は、条件を真夜に提示する事にした。

 

「見学するにあたりまして、叔母様には部屋の隅にいてもらいます。当然、達也様の邪魔になるような事は控えていただきます」

 

「邪魔というのは、こういう事かしら?」

 

 

 達也の腰に腕を回し、思いっきり達也に抱き着く真夜に、深雪は怒りが表情に出ないように気を付けながら真夜の腕を達也の腰から剥がした。

 

「お分かりいただいているのでしたら、そのような行動は慎んでくださいね」

 

「仕方ないわね……今の姿じゃ、制御に欠けるから深雪さんにも勝てないでしょうからね」

 

「そもそも、魔法戦争を起こすのは止めてください」

 

 

 そこだけ気を付けてくれれば達也としてはどうとでも対処出来るので、しっかりと釘を刺して作業に戻ったのだった。




真夜相手でも嫉妬するとは……

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