劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ある意味当然の流れ……


嫉妬からの行動

 大人しくするという確約を取り付けて、深雪は真夜の帯同を許可したのだが、生徒会室に着くまでの間、ずっと真夜に鋭い視線を向けていたのだった。

 

「深雪さん、さすがにそこまで睨まれると怖いのだけど?」

 

「睨まれるようなことをしている叔母様が悪いのです。睨まれたくないのでしたら、達也様と手を繋いだり、達也様の膝の上に座ったり、達也様に肩車してもらったりなどを止めていただけませんでしょうか」

 

「この身体だから出来る事をしてるだけで、深雪さんに睨まれるようなことをしているつもりは無いのだけど?」

 

 

 真夜の返しに、深雪は悔しさを全身で表現して、何かを思い付いたように手を打って水波に耳打ちをした。

 

「っ!? しかし深雪様、それでは生徒会業務が――」

 

「私一人がいないくらいで機能しなくなるような生徒会メンバーじゃないと思うけど? それに、叔母様に対抗するにはこれしかないの。分かってちょうだい」

 

「ですが……」

 

「達也様のお世話は、全て水波ちゃんにお任せしますから」

 

「……畏まりました。護衛として付き添いたいところですが、私まで抜けたら生徒会業務が滞ってしまいますので、ここはお一人で」

 

「分かってるわ」

 

 

 いきなり駆け出した深雪を、真夜は達也の頭上から見送った。

 

「母上は深雪が何を思ったのか分かってるようですね」

 

「達也さんだって分かってるでしょ? でも、あの術はある程度の年齢に達していないと中身まで幼児化してしまうと言っていたから、深雪さんの希望通りにはならないでしょうね」

 

「不本意ながら、自分も喰らったことがあるので分かります」

 

 

 自分の身体が幼児化した時、思考まで幼児化したのを体験した事がある達也は、深雪が戻ってこれるのかと心配になり、水波に視線で後をつけるよう指示した。

 

「ですが達也様!」

 

「生徒会業務は俺が何とかしておくから、深雪の事を頼む」

 

「畏まりました」

 

 

 水波の中では、深雪の命令より達也の命令の方が上に位置されているので、深雪の時のように躊躇いを見せる事無く達也の命に従い、深雪の後を追いかけるように去っていった。

 

「達也さんも大変ね」

 

「元凶がそれを言いますか?」

 

「あら、元凶は九重八雲さんでなくて?」

 

 

 堂々と責任を八雲に擦り付け、真夜は楽しそうに達也の頭上で笑った。

 

「それじゃあ達也さん、第一高校に行きましょうか」

 

「大人しくしててくださいね。深雪と水波の分を処理しなければいけないのですから」

 

「たっくんなら簡単でしょ?」

 

 

 何を根拠にそう思っているのかと達也は思ったが、ここで時間を無駄にして生徒会業務を滞らせるのは得策ではないと考え、ため息だけ吐いて第一高校へと歩を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜中に真夜の襲来を受けた八雲は、数時間で深雪が来るとは思っていなかったようで、深雪の来訪に少し驚いたような表情を見せた。

 

「先生、私にも叔母様と同じ術を掛けてくださいませんか?」

 

「それは別に構わないけど、達也くんに殺されるのは嫌なんだけどね」

 

「大丈夫です。達也様なら先生を殺した後すぐ蘇らせますから」

 

「死が定着したら達也くんの魔法でも無理じゃなかったかい?」

 

「ですから、定着する前に蘇ってもらうのです」

 

 

 瀕死は覚悟しろという意味なのかと、八雲は盛大にため息を吐いて、山門からこちらを窺っている水波に視線を向け、達也も了承しているという事を確認してから深雪に視線を戻した。

 

「僕としては嬉しいのだけど、深雪君は覚悟できているのかい? 身体が縮むという事は、今着ている服じゃ大きすぎるという事になるのだけども」

 

「着替えは用意してありますので、目が覚めたらすぐに着替えられます」

 

「そうかい、用意が良いね」

 

 

 少し残念そうに頭を撫でる八雲に、深雪は最高の笑みを向ける。

 

「万が一寝ている私に何かしようものなら――」

 

「何もしないから安心して良いよ。それとも、深雪君は僕の事を信用出来ないのかい?」

 

「はい」

 

「やれやれ……それじゃあ、さすがに外で掛ける術じゃないから室内に移動しようか」

 

 

 即答された事に驚きながらも、八雲は深雪を室内へと案内する。

 

「それにしても、達也くんも大変だね」

 

「それだけ達也様を想っているという事です。例え叔母様とはいえ、達也様にあんなにべったりくっつくなんて羨ま――いえ、妬ましいです」

 

「より酷くなってないかい?」

 

 

 言い直して酷くなったことにツッコミを入れた八雲ではあったが、深雪には通用しなかった。

 

「やれやれ、それじゃあ行くよ?」

 

「はい、お願いします」

 

 

 八雲の合図と同時に意識が遠のいていくのを感じた深雪ではあったが、それに抗う術はなく、そのまま倒れ込んでしまった。

 

「やれやれ……後の事はお願いするよ。僕はまだ死にたくないからね」

 

「貴方様でしたら、深雪様や達也さまでも容易に仕留める事は出来ないのでは?」

 

「買い被り過ぎだよ。僕はただの坊主、天下の四葉様の魔法師に対抗出来るような実力は無いよ」

 

「そのような事は無いと思うのですが。達也さまの組手の師匠とはいえ、貴方は魔法師としてもかなりのものだとお見受けいたします」

 

「魔法師じゃなくて忍術使いだけどね。まぁ、君が僕の事をそう評価してくれるのは嬉しいけどね」

 

 

 水波に手をヒラヒラと振りながら、八雲は部屋から姿を消した。見事な隠形に、水波はやはり侮れないと八雲に対する評価をもう一段階上げたのだった。




達也の苦労が倍増……

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