劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

856 / 2283
あーちゃんと服部も付き合えばいいのに……


卒業生御一行

 達也が風間に会っていたのと、ちょうど同じころ。那覇のショッピングモールを歩いている一団のなかで、一際ハンサムな青年が呟いた。

 

「なぁ、俺が来て本当に良かったのか?」

 

「何だ、沢木。今更だぞ?」

 

 

 沢木の問いかけに、服部が呆れ声で返した。

 

「そうだぜ、沢木。もう三日目じゃねぇか」

 

「それはそうだが、壬生は司波君と沖縄で合流するから良いとして、俺がいなければ三対三だろ? 空気が読めていなかったと思ったんだ」

 

「なっ……!?」

 

「さ、沢木くん、何を言ってるんですか!? わたしと、は、服部くんは、別にそんな仲じゃありませんよ!」

 

 

 絶句した服部の後ろから、顔を赤くしたあずさが焦った口調でまくし立てる。その横では、紗耶香があずさを微笑ましげに眺めていたのが沢木には印象的だった。

 

「中条の言う通りだ。俺としては、カップル二組に相手持ち一人の中に男一人と女一人なんて気まずい状態にならずに助かったと思っている」

 

 

 服部が五十里と花音、桐原と巴に「少しは控えろ」と言いたげな目を向け、紗耶香には「浮かれ過ぎでは」という目を向けた。

 五十里は派手な柄の開襟シャツにベージュのチノパン、花音は同じ柄の開襟シャツにベージュの膝上丈スカートのペアルック。桐原は無地のTシャツにホワイトジーンズ、巴は同じ色のTシャツに七分丈のホワイトデニムという、これまたペアルック。確かに一緒にいたら気まずいだろう。

 

「沢木君はさっきの司波君たちを見てそう思ったのかな?」

 

 

 五十里が振り返ってそう尋ねる。彼の左腕には花音がしがみついているが、五十里は全く暑そうな素振りを見せていない。この二人のオープンな熱々ぶりは同級生なら知らぬ者はいない。沢木も特に気にした様子は無かった。

 

「自分では気が付かなかったが、言われてみればそうだな」

 

「何だよそれは」

 

「でも、沢木君の気持ちも何となく分かる気がするよ。ご供養の式典でこんなことを感じるのは不謹慎かもしれないけど、司波君と深雪さん、凄くお似合いだったもの」

 

 

 紗耶香の声には、少しの憧れと嫉妬が込められていた。

 

「深雪さんくらいの美人になると相当な二枚目でも釣り合いが取れないけど、司波君の存在感は全然負けてなかった」

 

「二人とも、とても高校生には見えなかったけどな」

 

 

 感嘆する巴に桐原が茶々を入れる。これには巴だけではなく他のメンバーも失笑を漏らした。だが沢木ただ一人が真面目な顔で頷いた。

 

「ああ、全くだ。特に司波君のような堂々とした佇まいには感心した。魔法師とか四葉家とか以前に、武人というのは彼のような男を言うのだろう」

 

「……大丈夫。沢木君も見るからにサムライって感じだから」

 

「そうか?」

 

 

 花音の混ぜっ返しにも、沢木は真顔で反応したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らが話題にしていたように、五十里たち一行は沖縄侵攻事件の犠牲者彼岸供養式典を見学した後、街をぶらぶらしているところだった。特に目的は無い。気に入ったアクセサリーがあれば買ってもいいか、程度である。だから紗耶香がその少女に目を留めたのも、偶然でしかなかった。

 

「どうしたんだ、壬生?」

 

 

 紗耶香の視線に気づいた桐原が彼女の視線をたどり、訝しげに眉を顰めた。

 

「……今時、白人の子供なんて珍しくないだろう?」

 

 

 紗耶香が見ている先には、十二、三歳くらいの栗色の髪の少女が一人ぽつんと立っていた。肌の色と顔立ちから、白人種であることが分かる。

 

「違うわ。分からない?」

 

「んっ?」

 

 

 紗耶香に言われ、もう一度少女に視線を戻した桐原が、今度は鋭く目を細めた。

 

「どうした、桐原」

 

「……穏やかじゃないな、この雰囲気は」

 

 

 服部が桐原に声を掛け、沢木が状況を察して声を潜めた。誰かを待っているのか、じっと立っている少女を盗み見る大の男。それが四人。しかも、取り囲むようにして少しずつ近づいている。

 

「誘拐か?」

 

「待て服部。ここは俺と桐原が行く」

 

 

 服部が軽蔑の篭った声で呟き、誘拐なり猥褻行為なりを止めるために歩き出したが、その肩を沢木が掴んで呼び止めた。

 

「俺と桐原は白兵戦タイプで遠距離は苦手だ。五十里は対人戦向きじゃない。女子をガードしつつ、いざという時に援護の魔法を撃てるのはお前だけだ」

 

 

 何故だという顔で振り返った服部に、沢木はそう返して少女へ向かい歩き出す。桐原がその後に続こうとしたが、今度はその背中に紗耶香と巴が声を掛けた。

 

「桐原君、私たちも行くわ」

 

「いやっ、けどよ……。どう見てもアイツら、平和な目的じゃなさそうだぜ?」

 

「そんなの、見ればわかるわよ。でも、桐原君と沢木君だけで近づいては、あの子だけじゃなくって他の人からも変な目で見られちゃうわよ? 二人が警察の厄介になりたいっていうならともかく、そういうわけじゃないんだしさ。私と壬生さんが同行した方がとりあえずは穏便に事が運ぶと思うけど?」

 

 

 巴の反論に、桐原が嫌そうに顔を顰めた。確かに自分と沢木があの女の子に話しかけると、そういう誤解を招くかもしれない。桐原は巴の警告を妥当なものと認めざるを得なかかった。

 

「……分かった。だが、俺の側を離れるなよ」

 

「分かってるわよ。特に壬生さんはね」

 

 

 紗耶香は自分の腕が剣あってのものだと弁えているので、桐原と巴の忠告に頷いた。桐原が振り返る。五十里と二人で花音を制止している服部が彼に向って頷いた。それを確認して、桐原と巴、紗耶香は足を速めて沢木の隣に並んだのだった。




慌てるあーちゃんは可愛いな……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。