劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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後半は完全オリジナルな展開です


再会と再会?

 ホテルに着き、先ほどの事件についてなにやらコソコソと話していた司波兄妹の前に、約一週間ぶりの友人が立っていた。

 

「エリカ?」

 

「ハイ深雪、一週間ぶりね」

 

 

 現代のファッションから言うと、エリカの格好はかなり派手で扇情的だった。並の男子高校生だったら直視出来るか如何か微妙なところだろう。現に通り過ぎようとした一高一年の男子が鼻を押さえて駆け抜けていった。

 だが、達也はこの例には当てはまらなかった。

 

「深雪、俺は先に行くよ」

 

「えっ、ちょっと達也君? ……行っちゃった」

 

 

 エリカをチラリと見て、そのまま興味無さげにカートを押してホテルの中へと歩んでいく。一般的な女性への興味が薄い彼にとって、エリカの格好は「随分と場違いなものだ」と思うだけなのだ。

 

「エンジニアの先輩が待ってらっしゃるの。……ところで、何でこんな場所にエリカが?」

 

「もちろん応援だけど? それに今夜は懇親会でしょ」

 

「そうだけど、関係者以外は入れないわよ」

 

「大丈夫よ!」

 

 

 なにやら自信満々のエリカの事を眺めていると、その背後から更なる知り合いが駆け寄ってきた。

 

「エリカちゃん、これ部屋のキー……って深雪さん」

 

「美月……随分と派手ね」

 

「えっと、そうでしょうか?」

 

 

 美月の格好はエリカよりは抑え目だが、持ち前の大きい胸と、肉感的な感じが相俟ってエリカのそれよりも更に扇情的だった。その証拠に複数の男子が鼻血が出そうなのを何とかしようと彼女たちの傍から逃げ去るようにしていく。エントランスを通る男子の殆どが駆け足になっているのを、深雪は気付いていた。

 果たしてそれはエリカの所為なのか、それとも美月の所為なのか……もちろん、普通に制服を着ている深雪の所為と言う可能性だってあるのかも知れない……

 兎に角、エリカの格好も美月の格好も、青少年には刺激が強すぎるのだ。

 

「悪い事は言わないからTPOにあった服にした方が良いわよ」

 

「エリカちゃんに堅苦しいのは良く無いって言われたんですが、やっぱり深雪さんの言う通りかもしれませんね」

 

「えーそうかなー」

 

「ところで、部屋のキーとか言ってたけど、此処に泊まるの? 良く部屋が取れたわね」

 

「そこはほら、家のコネよ」

 

「良いの? エリカはそう言うの嫌いだと思ってたけど」

 

「嫌いなのは『千葉家の娘』って色眼鏡で見られる事よ。コネはむしろ使ってナンボでしょ」

 

 

 ケラケラと笑いながら言うエリカを見て、深雪は気持ちが晴れやかになってきたのを感じていた。先ほど兄から聞かされた先ほどの事故、運転手の自爆攻撃だと知ったときの怒りはエリカと美月のおかげで大分収まってきたのだ。

 

「それじゃあ私ももう行くわね」

 

「はい、それでは深雪さん、また」

 

「じゃーねー!」

 

 

 二人に別れを告げ、自分も部屋に移動しようとした深雪の背後から、二人の男子の声が聞こえてきた。

 

「柴田さん、これ荷物」

 

「テメェは自分の荷物くらい自分で持ちやがれ!」

 

 

 一人は知らない声で一人は知っている声だった。如何やら女子二人では無く男女四人での宿泊のようだった。

 

「(さすがに部屋は別々よね……)」

 

 

 いくらエリカでもそんな悪ふざけはしないだろうと思いつつ、深雪はあらぬ妄想を部屋に着くまで繰り広げたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フロア毎に別れてるとは言え、エントランスはさすがに一つだ。一高のバスが遅れてきたのもあって、一高生徒がホテルに入るのを各校の生徒は見ようとすれば見れたのだ。一高には高校の垣根を越えてファンを持つ二人の女子生徒が居る。要注意だと警戒されている十師族の後取りが居る。注目されていても仕方ないと思われる三人に視線が集まる中、それと同等くらいに注目されていたのが深雪と達也だった。

 

「おい、見たか今の子」

 

「かなり可愛かったよな」

 

「あの制服は一高だし、今年の一高の女子はレベル高いな」

 

 

 いったい何の偵察に来たのか分からない感想を述べる男子生徒たち。先に述べたようにこの後この男子たちは漏れなく鼻を押さえて逃げ出すのだが、深雪の姿を見ても平気だったと言う事は、やはり原因はエリカか美月だったのだろう。

 此処で気になったのは、三高の生徒が殆ど居なかったと言う事だ。既に会場入りはしてるだろうし、一高の対抗馬として注目されている三高が一高のメンバーを確認しに来てないのは少し不思議だ。だが全く居ない訳では無い。三高一年女子グループが、影からコッソリと深雪と達也を見ていたのだ。

 

「愛梨、これって何だかストーカーっぽくない?」

 

「どうせ後で懇親会があるんだし、何も今直接見なくても……」

 

「何を言うの、沓子、栞。敵の姿をいち早く確認して闘志を燃やなければ、勝てる試合も勝てなくなってしまうかもしれないでしょ!」

 

 

 三高一年の女子グループの中でも実力的にも見た目的にもやはり目立つのは彼女たちだ。師補十八家の「一色」の令嬢とその仲間の百家の少女たち。影から見ているので深雪には気付かれなかったが(彼女は自分に向けられる視線を完全にカット出来るので気づいていても無視されたのだが)、達也には気がつかれていたのだ。

 

「……愛梨の目的は司波深雪じゃなくて司波達也さんでしょ。あんなに熱い視線を送っちゃって……絶対にバレたよね」

 

「香蓮さん!? 何を言うのよ!?」

 

「焦ってるのバレバレ」

 

「愛梨も恋する乙女だねー」

 

「栞や沓子まで!」

 

 

 深雪の姿を直接見に来たと言うのも間違いでは無い理由だったのだが、それ以上に達也の姿を見つけてこの四人は舞い上がったのだ。特に愛梨が……

 夏休み前に敵情視察と称して深雪の写真を撮りに来た香蓮が達也の存在を知り、報告の際に愛梨たち三人も達也の事を知ったのだ。

 

「あの派手な女子二人は知り合いなのかしら……」

 

「でも愛梨、後から男子二人が出てきたからあの二人は気にしなくて良いんじゃない?」

 

「男女四人でこんな所に泊りがけ……」

 

「沓子、何考えてるの……」

 

「んなぁ!? 別に変な事は考えてないよ!」

 

 

 香連に冷たい視線を向けられ、必要以上に焦る沓子。これでは変な事を考えていたと言っているようなものだ。

 

「沓子の変態思考は兎も角として」

 

「ちょっ! 愛梨まで!」

 

「やはり司波深雪は私たちの最大の敵となりそうですね」

 

「うん、魔法師としても優秀そうだったし、何より達也さんと仲良すぎだった」

 

「かなり距離が近かったですしね」

 

「無視しないでよ!」

 

 

 廊下の片隅で騒いでる彼女たちは、自分たちで思ってる以上に目立っていた。

 

「何やってんだお前ら?」

 

「何の話で盛り上がってるの?」

 

「一条、吉祥寺……何でも無いわよ。行きましょ」

 

「あっおい!」

 

 

 急に冷静になった愛梨に続くように、栞も沓子も香蓮も無言で会釈をして話しかけてきた男子二人から遠ざかる。

 

「ジョージ、いったい何なんだ?」

 

「僕に聞かないでよ……」

 

 

 乙女心が良く分からない彼らにとっては、何で愛梨たち四人が盛り上がってたのかも、何で急に冷めたのかも分からないのだった……




再会と言うか、一方的に愛梨たちが知ってるだけですので「?」が付いてます

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