劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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雫も頑張ってます


浜辺での一幕

 全員が上陸したのを確認した達也が振り返ると、ほのかと雫がいきなり服を脱ぎだした。下に水着を着ていたので特に大騒ぎはしなかったが、それでも衝撃的な行動だと言えよう。実際五十里と服部はいきなり脱ぎだした二人に驚き、注意しようとまでしたくらいだ。

 

「達也さん、向こうで遊びましょうよ」

 

「深雪にプレゼントしたんだから、私たちもこれくらいしたい」

 

「深雪、話したのか?」

 

「達也様からの頂き物だとは話しました」

 

 

 いつの間にそんな話をしたのかと、達也は疑問に思ったが、飛行機の中やレンタカーで移動中の時は深雪も達也の側から離れていたので、その時に話したのだろうと自分の中で納得し、突き刺さる視線を丸々無視してほのかと雫に付き合う事にした。

 

「それにしても、光井さんも北山さんも水着なんてよく用意してましたね」

 

 

 あずさのコメントの通り、他の女子は水着に着替えたりはしない。いくら沖縄とはいえ、三月に海に入れるほど水温は高くないのだ。

 

「こんな事になるなら、私も着てくればよかった」

 

「この中じゃ出遅れてるわね」

 

「そういう三十野さんだって、桐原君との会話を聞いてると恋人って言うより同志みたいよ?」

 

「同じ剣術部ですし、進学先も同じだもの。多少なりともそう言う雰囲気になっちゃうのは仕方ないわよ」

 

 

 紗耶香と巴がバチバチと睨み合っているのを、桐原は我関せずな雰囲気で眺め、沢木に浜辺での勝負を仕掛けたのだった。

 

「服部、合図を頼む」

 

「別に構わないが、こんなところで勝負する必要はあるのか?」

 

「この前の戦闘で、沢木には力の差を見せつけられたからよ。ちょっとくらい勝ちたいじゃねぇか」

 

「気持ちは分からなくないが、短距離も早いぞ?」

 

「だけど、勝てないわけじゃねぇだろうし、司波兄みたいに楽しむ事も出来なさそうだしよ」

 

 

 そう言って視線で二人の事を説明すると、服部も納得いったように頷き、スタート位置まで移動した。

 

「みんなそれぞれ楽しそうだね」

 

「啓も遊びましょうよ!」

 

「うん、もう少しのんびりしたらね」

 

 

 隣ではしゃいでる花音にそう言い、五十里は空を眺めていた。

 

「五十里くんはのんびりしてるんですね」

 

「そういう中条さんこそ。司波さんたちとお散歩でもして来ればよかったのに」

 

「何となくですけど、雰囲気が……」

 

 

 達也を雫とほのかに取られたことで、深雪の雰囲気が荒れるのではないかと懸念し、あずさはこの場にとどまったのだった。

 

「まぁ、司波さんもそこまで荒れないとは思うけどね。それとも、やっぱり服部君がここにいるから残ったの?」

 

「五十里くんまでそんなことを言うんですか!?」

 

「あはは、冗談だよ」

 

 

 あずさにからかいを入れ、そろそろ花音を構わないと嫉妬してしまうと思った五十里は、あずさに手を挙げて傍から離れて行った。

 

「まったく……私と服部くんはそういう関係じゃないのに」

 

 

 あずさにとって、同級生の異性で緊張せずに話せる数少ない相手の一人なのだが、あずさの事情をよく知らない人から見れば、特別な関係なのではないかと勘ぐってしまうのも仕方のない事なのかもしれない。

 

「まったく……」

 

「あっ、服部くん」

 

「中条か」

 

 

 ため息を吐きながら近づいてきた相手を見て、あずさは意味もなく周りを確認した。

 

「どうかしたの?」

 

「いや、沢木と桐原の奴が、短距離勝負のはずがいつの間にか島一周の勝負に変えやがって、手持無沙汰になってしまったんだ」

 

「そうなんだ。あの二人らしいね」

 

 

 クスッと笑うあずさに、服部は苦々しげな表情を見せた。

 

「笑い事じゃないだろ。まったく、集団行動が出来ない連中だな」

 

「まぁまぁ、みんな楽しそうにしてるんだし、良いんじゃないかな」

 

「昨日の連中が何処にいるのかも分からないのに気を抜いてられるか」

 

「服部くんがしっかりと気を張ってくれてるから、沢木君や桐原君ははしゃげるんだと思うよ」

 

 

 あずさにそう言われ、服部は閉じていた片目を開き視線で問いかけた。その視線の意味をしっかりと理解したあずさは、頷いて更に続けた。

 

「司波くんも警戒してるようだけど、服部くんとはまた違う相手を警戒してるっぽいし、やっぱり服部くんのお陰だと思うよ」

 

「まぁ、司波の奴が何を警戒しているのかは知らんが、アイツがいれば大抵の事は何とかなるだろう」

 

「服部くん、司波くんの事を認めてたんだね。二年の時はあんまり仲よさそうじゃなかったけど」

 

「別に仲が良くなったわけではない。だが、アイツは普通の二科生とは違ったからな」

 

「うん。凄かったよね」

 

 

 あずさが何を思いだしたのか、服部にもその光景が手に取るようにわかった。

 

「正直司波を代役に選んだ十文字先輩の意図が俺には理解出来なかった」

 

「魔法技術は得意じゃないって言ってたもんね」

 

「エンジニアとしての腕は認めざるを得ないものを持っていると思ったが、まさかあの『一条』を正面から倒すとは思ってなかったからな。だが、今思えば『四葉』の人間ならそれくらい出来ても当然だったのかもな」

 

「でも、十文字先輩も七草先輩も、司波くんが『四葉』だって知らなかったんだよね? それでも司波くんを選んだって事は、私たちには分からない何かが司波くんから感じ取れたのかもね」

 

「かもしれんな。俺には見えない何かが、十文字先輩には見えたのかもしれない」

 

「やっぱり二人って仲良しよね?」

 

「いっそのこと付き合っちゃえば?」

 

「なっ!? 壬生に三十野……何時からそこにいた」

 

「何時からって、最初からいたわよ」

 

「てか、周りが見えないくらい自分たちの世界に入ってたの?」

 

 

 紗耶香と巴のからかいに、あずさは顔を真っ赤にして慌て、服部は襲い来る頭痛に悩まされたのだった。




あーちゃんと服部はありだと思います

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