劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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外堀から埋めていく作戦……


緊急事態

 グラスボードに戻っても、ほのかと雫の積極的アピールは留まることはなかった。だが、深雪や紗耶香もそれを黙って見ていたわけではなく、自分たちも積極的に達也にくっついてみたり、逆にくっつかせてみたりと色々と行動を取っていた。

 

「何だかあそこまで行くと、羨ましいというよりは大変そうだよな」

 

「桐原君も甘えてもらいたいの? それとも甘えたいの?」

 

「いや、そういうんじゃなくて、男にとってハーレムってのは一種の憧れみたいなものがあるからよ。普通なら羨ましいと思うんだろうが、あれはちょっと遠慮したいぜ。なぁ?」

 

 

 桐原に問いかけられた服部と沢木は、そろって首を傾げる。真面目な服部と、色恋沙汰にあまり興味がない沢木にとって、桐原が言う男にとっての憧れという部分に共感する事が出来なかったのだ。

 

「司波が不誠実なわけではないと分かってはいるが、あれはどう見ても司波がたらしこんでいるようにしか見えないな」

 

「英雄色を好む、大いに結構じゃないか」

 

「相変わらずだな、お前は」

 

「何がだ?」

 

「いや、何でもない」

 

 

 沢木のズレを指摘した事は一度や二度ではない。だが指摘したところでまったく響かないという事は服部も経験上理解しているので、左右に首を振って話題を変える事にした。

 

「そもそも桐原はちゃんと彼女がいるんだから、他の女に目を向けるのは不誠実じゃないか?」

 

「そんな硬ぇ事は言いっこなしだぜ。そもそも、三十野はそこまで嫉妬深くねぇっての」

 

「そうでもないかもしれないわよ?」

 

「……怖ぇこというんじゃねえよ」

 

「あら、冗談だったんだけど?」

 

 

 表情を作って桐原をからかった巴は、想像以上に怖がってくれたのが嬉しかったのか、楽しそうに笑った。

 

「まぁ、三十野は兎も角、千代田だったら大変だろうな」

 

「確かに。アイツは嫉妬深そうだしな」

 

 

 達也たちから少し離れたところで、五十里に抱きついている花音を見ながら、三人は同時にため息を吐いた。

 

「他人様のことを気にしてる場合なの? 桐原君は兎も角、服部君も沢木君も彼女いないんだから」

 

「別にそれで慌てる必要は無いだろ。焦ったところで作れるわけでもあるまいし」

 

「それに、服部には中条がいるしな」

 

「だから俺と中条はそういう関係じゃないと言っているだろ!」

 

「だけどよ、傍から見てる分にはお似合いだと思うぜ? 中条が気兼ねなく接する事が出来る異性ってそう多くねえわけだしよ」

 

「確かに、中条は異性に対して萎縮する傾向があるからな。司波くん相手にもビクビクしてるのを見かけたことがある」

 

 

 桐原と沢木に、巴も便乗して服部とあずさの仲を進展させようと目論んだ。

 

「中条さんも満更ではなさそうだし、服部くんさえ良ければ付き合ってみたら?」

 

「そんなふざけた気持ちで付き合えるわけないだろ!」

 

「うんうん、だからちゃんと考えてあげたら?」

 

 

 何だか外堀から埋められているような気がして、服部はこの場から逃げ去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四人の女子が様々な想いで達也の周りで牽制し合っている中、達也は異変に気付き四人を離して立ち上がった。

 

「ちょっといいですか」

 

「達也さん?」

 

「どうかしたの?」

 

 

 セリフは紗耶香に向けてのもので、深雪、ほのか、雫には視線で離れるように指示を出した。だがそれだけで納得出来ない二人は、思わず達也に声を掛けたのだった。

 二人の問いかけには答えず、達也は操舵室へ向かった。彼の様子が普通ではないと気づいた服部がその後を追い、服部の背中に桐原と沢木が続いた。だから、緊急事態の到来を告げる達也のセリフを聞いたのは、その三人だった。

 

「船長、前方五百メートルの海底付近に艦影が探知できるはずです」

 

「何ですと?」

 

 

 達也の背後では服部、桐原、沢木が緊張した顔を見合わせ、操舵室内では船長がクルーにソナーを前方海底へ向けるよう命じた。

 

「いました! 推定全長八十メートル、通常型潜水艦と思われます!」

 

「何でそんな物がここに!?」

 

「国防軍の物じゃないか?」

 

 

 遅れてきた五十里の背中にくっついてきた花音が上げた悲鳴に、沢木が疑問を呈する。だが、彼自身もその可能性はゼロに近いと考えていた。

 

「国防軍の物なら問題ない。違う場合を想定して対応すべきだ!」

 

 

 服部が仮説を論じる事の無駄を答えとして返した。

 

「進路反転! 面舵一杯!」

 

「注水音を確認! 不審艦が魚雷発砲態勢に入った模様!」

 

 

 こちらの動きから、気付かれたと悟ったのか、不審潜水艦が動き始め、それを確認したソナー員が悲鳴を上げた。

 

「注水音が聞こえるのか。旧式艦だな」

 

「そんな事を言ってる場合か!」

 

 

 呑気な呟きを漏らした達也に服部が噛みついたが、達也は服部の非難には応じず、いつの間にか卒業生三人の背後に控えていた水波を呼んだ。

 

「水波」

 

「はい、達也さま」

 

「対物障壁用意。設置場所はボートから三十メートル。サイズは各魚雷前方に半径十メートル。ボートの進路を塞ぐのは厳禁だ。出来るな?」

 

「お任せください」

 

 

 達也のリクエストに、水波は全く取り乱した様子も無く、かつ自信を窺わせる口調で頷いた。

 

「魚雷、来ます!」

 

 

 白い航跡が二本、速度を増しながらたちまち迫る。こちらはまだ回頭中で魚雷を躱せる状態ではない。

 

「水波」

 

「はい」

 

 

 水波が既に構えていた携帯端末タイプのCADを操作する。水中に生じた対物障壁を魔法的な知覚で捉えたのは達也だけではなかった。

 水柱が上がったが、衝撃は押し寄せてこなかった。水波の対物障壁が爆発を完全に跳ね返したという側面もあったが、そもそも魚雷自体が破壊を目的としたものではなかったのだった。




原作がこの二人をどうするのかが楽しみです……進展するのかは分かりませんが

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