大人たちに挨拶する用事もなく、主賓が現れるまでまだ少し時間があるという事で、一高生、一高卒業生は固まってお喋りをしている。
「そう言えば、先輩たちは何時までこちらに滞在なさるのですか?」
「一応このパーティーがメインって事になってるから、これが終わったら東京に帰る予定だよ」
「もうちょっとのんびりしたかったけどね」
深雪の問いかけに五十里が答え、花音が本当なら二人きりが良かったという本音を隠せていない態度で五十里の腕にしがみついた。
「相変わらず仲がよろしいですね」
「こっちは勘弁してもらいたいんだがな」
「だったら、私たちも千代田さんたちみたいにしてみましょうか?」
「五十里と千代田だけで参ってるんだから、これ以上は止めろ」
冗談を言う巴に、服部は本気で止めてもらいたいという気持ちを込めてツッコミを入れる。
「まぁ、私たちがしなくても、向こうでは大変な事になってるみたいだけどね」
「司波さんはこっちにいて良いんですか?」
「私は、この後も達也様とご一緒しますので、少しくらいは雫たちに達也様を取られても問題ありません」
「そう言いながら、視線がこっちに向いてないわよ?」
達也の周りに群がるほのか、雫、紗耶香に嫉妬の視線を向けながら答える深雪に、あずさと巴は苦笑いを浮かべていた。
「やっぱり司波君もかなり視線を集めてるようだね。次期四葉家当主、ってだけじゃなさそうだけど」
「北山家のご令嬢が気に入った男子が気になってるようだな。それだけ北山家というのは力があるのだな」
「さっきも言ったけど、北山さんのお父上の機嫌を損ねたら、この国の兵器産業は大きく後退してしまうからね。特にあのお父上は北山さんを溺愛してるようだし、その娘さんが選んだ司波君に無礼を働けば、同じことになってしまうとでも思ってるんじゃないかな」
「司波くんなら、少しくらいの無礼で気を悪くするようなことは無いと思いますけどね」
だからと言って達也に無礼を働けば、周りの人たちが黙っていないと分かっているので、あずさも大声ではその事を言えず、小声で呟いた。
「達也様に不敬を働くのであれば、この場で眠っていただきますので」
「深雪様、あまり目立つ行為はお控えください。もしそのような事があれば、この私が深雪様の代わりに不届き者を始末いたしますので」
「随分と物騒だな、おい。司波兄みたいにスルーしとけばいいだろうが」
「桐原君には乙女心が分からないようね」
「俺が乙女心を理解してないってのか?」
「少なくとも、司波さんたちの気持ちは分かってないみたいだし」
好意を寄せている相手が侮辱されたり、軽んじられたりすれば、かなり頭にくるだろうし、腹立たしくも思うだろう。それは普通だと巴も思っているが、深雪や水波の場合は、それだけでは済まさない可能性もあるので、出来る事なら大人しくしていてほしいと願う。
「深雪さんたちも、このパーティーが終わったら東京に戻られるんですか?」
「そうですね。入学式の打ち合わせとか、その他諸々がありますので。引っ越しなども済ませておきたいですし」
「引っ越し? あぁ、婚約者たちが集団で生活するんでしたっけ? それって、司波くんも一緒に引っ越すんですか?」
「達也さまは仕事の都合で深雪様たちとは別日程になりますが、調整がつけば達也さまもそちらで生活する事になっております」
「そうなんですか~。集団生活って、ちょっと憧れますよね」
「あーちゃんが考えてるような集団生活じゃないと思うけどね」
「だから、あーちゃんは止めてください!」
泣きそうな表情と声で巴に訴えるあずさではあったが、あまり効果は無さそうだなと全員が思っていた。
「そう言えば司波くんの他の婚約者には、他校の生徒も含まれているんでしたよね? 学校などはどうなるんですか?」
「前に一条くんがそうしたように、座学は一高の端末を使い、実習はそのまま参加していただく形になります。九校戦などはもちろん、元いた高校の代表として参加する事になりますが」
「そんなことが出来るとは、さすがは四葉家といった感じですね」
深く考えていないような雰囲気で頷く沢木の横で、服部が本当に四葉家だけが動いたのだろうかと訝しむような視線を達也に向けていた。
「服部、何か気になることでもあるのか?」
「いや……何でもない」
自分が考えたところで答えなど導き出せないと諦めたのか、服部は頭を振って沢木の問いかけに答えた。
「そう言えば五十里先輩はこのパーティーの正式な招待を受けているのですよね? 壇上で挨拶とかなさらないのですか?」
深雪の言葉に、花音が不服そうに頬を膨らませた。
「啓ったら、自分は恥ずかしいからって理由で断ったのよ。せっかく啓の晴れ姿が見られると思ってたのに」
「そもそも、僕は家の都合でここにいるんだ。他の人だって、僕なんかより父さんたちが来た方が嬉しかったに決まってるだろうしね」
「そんなこと無いってば! 啓だって手伝ったんだから、挨拶する権利はあるとあたしは思う!」
「まぁまぁ、千代田さん。五十里くんは人前で何かをするよりも、陰で頑張るタイプの人ですから」
「……そんなこと、中条さんに言われなくても分かってるわよ。だからこそ、こういう場所で啓が注目されるのが楽しみだったのに」
花音の気持ちがなんとなく理解出来る深雪は、花音の言葉に頷き、そして他の人には分からないように達也に視線を向けたのだった。
色々と目立って大変そうですね……