劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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選挙カーが五月蝿くて堪りません…


女子同士の戯れ

 懇親会も終わり、深雪たちはお呼ばれしたのを良い事に達也の部屋にやって来た。本来なら女子が男子の部屋を訪ねるのは禁止では無いにしても好ましい事では無いのだが、呼ばれたんだから行かなくては失礼に当たると独自解釈をして訪問を決めたのだ。

 

「お兄様、深雪です」

 

「どうぞ」

 

 

 達也からの返事を待ったのだが、返事をしたのは別の声の主だった。

 

「ハイ深雪」

 

「エリカ? 如何してお兄様の部屋に?」

 

「ほら、ミキを紹介しなきゃいけなかったでしょ?」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

「でも、それなら吉田君だけで良いんじゃないの?」

 

 

 深雪としては何故達也の部屋にエリカと、それとドサクサ紛れで美月まで居るのかが気になっていた。それともう一つ……

 

「お兄様は?」

 

「達也君なら啓先輩と一緒に作業車に連れてかれてたよ」

 

「誰に?」

 

「七草会長」

 

 

 真由美が達也を連れて行った理由が分からないので何とも言えないが、深雪は急激に機嫌を傾けた。

 

「でも、すぐに帰ってくるって言ってたわよ」

 

「そう……」

 

 

 エリカが深雪の不機嫌を察知して、達也が伝えておいてくれとエリカに頼んだ伝言を深雪に伝えた。

 

「それじゃあ紹介するけど、コレがミキよ」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

「はいはい、あんまり初対面の人の前で怒鳴らない方がいいわよ」

 

「うぐぅ……」

 

 

 確かにエリカの言う通りだと思い、幹比古はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 

「始めまして吉田君、司波深雪です」

 

「光井ほのかです」

 

「北山雫」

 

「明智英美だよ~! エイミィって呼んでね」

 

「吉田幹比古です。皆さん、始めまして」

 

 

 幹比古の顔が少し赤いのは、深雪の姿に照れた……とかでは無く、純粋に幹比古は女性を相手にするのが少しだけ苦手で、初対面の女性相手には赤くなるのだ。

 

「うわ、ミキったら顔真っ赤にしちゃって。いったい何を考えてるんだか」

 

「違うって! エリカは知ってるだろ! あと、僕の名前は幹比古だ!」

 

「随分と騒がしいな。外まで聞こえてるぞ」

 

「あっ、達也……ゴメン」

 

 

 部屋の主である達也が戻ってきて、早速注意されてしまった事で、幹比古はションボリと肩を落とした。

 

「ん? エイミィも来たのか」

 

「こんばんは、達也さん」

 

「ああ。それで、紹介は済んだのか?」

 

「バッチリよ! ミキったら深雪を見て顔真っ赤にしちゃったんだけどね」

 

「だから違うってば!」

 

「性格ワリィ女だぜ」

 

 

 一応全員と面識があった為に、美月同様黙ってたのだが、ついに堪えられずにレオがツッコミを入れた。

 

「だってミキが顔を真っ赤にしてたのは本当でしょ」

 

「だから事情を知ってるだろ!」

 

「深雪、そろそろ戻った方が良い。会長たちが見回りを始めるそうだ」

 

「そうですか……ではお兄様、お休みなさい」

 

 

 せっかく達也の部屋に遊びに来たと言うのに、見回りがあるのじゃ何時までも留まる訳にはいかない。エリカたちのように、九校戦メンバーでは無いのなら話は別なのだが、深雪たちは九校戦のメンバーとしてこのホテルに泊まっている。ルールには従わなければならないのだ。

 

「エリカたちもそろそろ帰った方がいいぞ。こっちには十文字会頭が来るから」

 

「ありゃりゃ……そりゃマズイわね」

 

 

 達也から告げられた事の意味をはっきりと理解したエリカは、大人しく退散を決め込む事にした。

 

「それじゃあね、達也君」

 

「じゃあな」

 

「ん」

 

 

 達也に見送られながら、部屋に居た訪問客全員がそれぞれの部屋に戻って行った。そこで一息入れれば良いのだが、達也は克人が見回りに来る前に作業用のバスに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也の部屋から戻った後、ほのかと雫は深雪の部屋に遊びに来ていた。女子同士なら特に問題にはならないのだ。

 

「深雪~居る~?」

 

「エイミィ? 私が出るね」

 

 

 ドアの外から大声で声を掛けて来た相手に、ほのかは首を傾げながら対応する事にした。

 

「エイミィ、如何かしたの?」

 

「あれ? ほのかも此処に居たんだ。後でほのかたちにも声を掛けるつもりだったし、丁度良かった」

 

 

 エイミィの後ろには、里美スバルと滝川和美が居た。深雪のルームメイトなのだが、和美は結構ウロウロしてる事が多いのだ。

 

「それで、何の用?」

 

「温泉に行かない?」

 

「温泉? でも此処軍の施設だよ? 私たちが使っても良いの?」

 

「試しに聞いてみたら、十一時までならOKだってさ」

 

「そうなんだ……深雪、雫、如何する?」

 

 

 部屋の中に居る二人に声を掛け、ほのかは判断を二人に委ねた。

 

「使っても良いのなら行きましょうか」

 

「そうそう。湯着も貸してくれるって言うしね」

 

「それじゃあ行こうかな」

 

 

 ほのかも深雪たちに従ったような格好だが、実は行きたいと思っていたのだ。せっかく温泉があるのなら使った方が気持ち良いに決まっているのだから……

 

「それじゃあ行きましょう! 時間はあまり残されてないのよ!」

 

「大げさ、まだ九時だよ」

 

 

 雫もツッコミを入れながらも、普段よりは少し早足で温泉までの廊下を進んでいる。ほのかは「雫も楽しみなんだなー」とそんな事を思いながら微笑んだ。

 

「とうちゃーく!」

 

「広いわね」

 

「さっそく湯着に着替えて入りましょう」

 

「私は軽く身体を洗ってから行くわね」

 

 

 深雪が別行動になり、湯船では女子同士の戯れが始まった。

 

「ねぇほのか」

 

「な、何よ……」

 

「剥いて良い?」

 

「良い訳無いでしょうが! 雫、助けて」

 

「別に良いんじゃない?」

 

「何で!?」

 

 

 親友までもが自分を見捨てるとは思って無かったほのかは、絶望の表情を浮かべた。

 

「……ほのか、胸大きいから」

 

 

 そう言い残して雫はサウナへと向かって行ってしまった。雫と入れ替わるように深雪が湯船に現れ、その姿に同性であるにも関わらず全員が息を呑んだ。

 

「だ、駄目だからね! 深雪はノーマルなんだから!」

 

「何の話?」

 

 

 先ほどまでの流れを知らない深雪は、何故ほのかがここまで必死になってるのかが分からなかった。

 

「同じ女だって分かってるんだけどね……」

 

「そう言えば、三高の一条君が深雪に熱い視線を向けてたような……」

 

「深雪に惚れない男なんて居ないって」

 

「それで深雪、一条君には気付いてた?」

 

「悪いけど、何処に居たのかすら分からなかったわ」

 

「そうなんだ……それじゃあ深雪ってどんな人がタイプなの?」

 

 

 エイミィが悪乗りの質問をしたところに、雫がサウナから戻ってきた。そしてその質問にほのかも雫もかなり興味があったのだ。

 

「ひょっとしてお兄さんがタイプなのかい?」

 

「私とお兄様は血の繋がった実の兄妹なのよ? 何を期待してるのかは分からないけど、恋愛対象では無いわよ。それにお兄様のような男性が他に居るとは思えないし」

 

 

 スバルの悪ふざけに本気で反した深雪。その反応にスバルは肩を竦め、エイミィはつまらなそうに視線を逸らしたのだが、今の答えが本心では無いと、ほのかにも雫にも分かってしまったのだった……




そう言えばコミック版追憶編の2巻が発売になってましたね。上手い切りかただったなぁ……

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