劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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出番が無かった彼女たちに焦点を当ててやっていきます。まずはエリカから


サイドストーリーエリカ編 その1

 達也たちが沖縄に行っている間、エリカは暇を持て余していた。もちろん部活などの活動もあるのだが、それだけでは彼女の暇を満たすまでにはいかなかった。

 

「達也くんがいないと暇よね~」

 

「ポンポンと俺の頭を叩くんじゃねぇ!」

 

「ん? あぁ、ゴメン。完全に無意識だったわ」

 

「コイツは……」

 

「まぁまぁ、レオ。エリカも意識的に叩いてたわけじゃないみたいだし」

 

「だから余計にむかつくんだよ」

 

 

 幹比古のフォローも、レオには効果なく、ただただ噛み付かれただけに終わった。

 

「エリカちゃんもレオ君も、相変わらずですよね」

 

「そう言う美月だって、ミキとは進展したの?」

 

「な、何を言うのよ、エリカちゃん!」

 

「ミキもまだ告白してないの? もしかして意気地なし?」

 

「僕の名前は幹比古だ! そもそも、エリカにそんなことを言われる筋合いは無いよ!」

 

 

 幹比古も美月も顔を真っ赤にして反論するが、その反応こそエリカが求めていたものであり、二人の関係が進呈んしていない事を意味しているのでもある。

 

「いい加減くっつけばいいのに。お互いに意識してるのバレバレなのに、何も進展がないだなんて、周りから見てるとちょっとイライラするわよ?」

 

「別にエリカには関係ないだろ! 君は達也の婚約者になったんだから」

 

「まぁね。こんなに退屈なら、誘われた時について行けばよかったかな」

 

「エリカちゃん、何でついて行かなかったの?」

 

 

 美月の問いかけに、エリカはつまらなそうに答える。

 

「きらびやかなパーティーだなんて、あたしには似合わないもの。精々深雪の引き立て役にしかならなかっただろうしね」

 

「確かにそうかもな」

 

「っ! 自分で言うのは兎も角、アンタに言われると腹が立つのよ!」

 

「痛っ! だから叩くなって言ってるだろうが!」

 

 

 今回は意識的に、しかも先ほどより強めに叩いたからか、さすがのレオも叩かれたところをさすっていた。

 

「エリカちゃんなら、深雪さんとでも張り合えるかもしれないと思うけど」

 

「あたしにお世辞を言っても何も出ないわよ」

 

「お世辞じゃないよ」

 

「それに、雫やほのか、さーやもいるんだし、その中じゃあたしは目立たないだろうし、達也くんも完全に遊びに行ってるわけじゃなさそうだしね」

 

「家の都合だって聞いてるけど、沖縄に何しに行ったんだろうね?」

 

「五年前の沖縄侵攻事件の際に亡くなった人のための慰霊祭に参加するって聞いたけど」

 

「そう言えば、達也さんたちもその事件の時に沖縄にいたんでしたね」

 

 

 前になんとなく聞いたことを思いだした美月が、達也たちがその慰霊祭に参加する理由に納得し、しきりに頷いてみせた。

 

「てか、生徒会長の司波さんがこの時期に学園にいないのはマズくないのか?」

 

「大丈夫でしょ。事務作業なら達也くんが纏めてやってくれるだろうし、入学式の準備とかは七草さんたちがやってるみたいだし」

 

「生徒会役員で残ってるのは、泉美さんだけですものね」

 

 

 達也と深雪が沖縄に行くことになったと聞かされた時、必然的に水波も沖縄へ行くことになると全員が理解し、ほのかも雫に誘われて沖縄に行くことになったと聞いていたので、残る役員は泉美一人となったのだ。

 

「七草家も、慰霊祭に参加してもおかしくないと思うけど、達也たちが行くならって自重したらしいね」

 

「七草先輩と香澄さんが達也さんと婚約したことで、四葉家と七草家とのいざこざは終わったんじゃないんですかね?」

 

「何だか別の問題があるみたいよ。あたしも詳しい事は聞いてないけど」

 

「達也相手でも苦労するってのに、四葉家相手に喧嘩売ってどうするんだろうな」

 

「そんなの、僕たちには分からないよ。十師族の考えは、他の十師族の家系にだって分からないって言われてるんだから」

 

「そう言えば、ミキも美月も、最初は四葉の名前に怯えてたのに、今では随分慣れてきたみたいね」

 

「エリカが言ったんだろ? 四葉だろうが何だろうが、達也は達也だって」

 

「あたしは前々からなんとなく分かってたから」

 

 

 修次がやられた時に、達也にその相手を問い詰めようとして知らなくてもいい事まで知ってしまった事を思い出し、エリカは苦笑いを浮かべる。

 

「達也が四葉の直系だって? 何をどうすればそんなことが分かるんだよ」

 

「ちょっと余計な所まで踏み込んでいって、龍の逆鱗に触れたのよ……」

 

「好奇心はほどほどにした方が良いんじゃないか?」

 

「分かってるわよ、そんなこと……まぁ、達也くんの本気の殺気を浴びたくなかったら、余計な事は聞かない事ね」

 

「達也の殺気って……よく無事だったね」

 

「まぁ、しばらく脚に力が入らなかったけどね」

 

 

 あの時の事を思い出し、エリカは苦々し気に当時の事を話す。エリカがそんな顔をするのが珍しいと思ったのか、レオも幹比古もそれ以上聞こうとはしなかった。

 

「そう言えばエリカちゃん。お引越しの準備は終わってるの?」

 

「一応はね。元々何時でもあの家から出て行けるように用意はしてあったしね」

 

「そう言えば修次さん、渡辺先輩と婚約したんだろ?」

 

「そう言えばそうね、そんなことを言ってた気もするわ」

 

 

 相変わらず摩利の事が嫌いなのか、エリカは幹比古の言葉に素っ気なく返事をした。

 

「そんなことって、お目出度い事じゃないか」

 

「千葉の家の事なんて、元々どうでも良いのよ、あたしは」

 

 

 少し語気を荒げたエリカに、幹比古はそれ以上何も言わなかったのだった。




幹比古は事情を知っていますからね

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