劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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IFネタでしたが、正式に愛人枠に……


サイドストーリー教師編

 部活で怪我をした生徒に、治癒魔法をかけて軽く注意した後、廊下に他の気配を感じ取って部屋に招き入れた。

 

「あら、小野先生」

 

「こんにちは、安宿先生。今いいかしら?」

 

「丁度治療も終わったし、構わないわよ~」

 

 

 相変わらずのおっとりとした喋り方に、遥は苦笑いを浮かべながら怜美の正面に腰を下ろした。

 

「それで、何かあったのですか~?」

 

「別に怪我をした、とかじゃないですから」

 

 

 不思議そうに全身を眺めてきた怜美に、遥はとりあえず治療が目的ではない事を告げる。

 

「まぁ、小野先生なら、私より凄腕の治癒魔法師の知り合いくらいいるでしょうしね」

 

「ご謙遜を。安宿先生は私が知ってる中でも上位の治癒魔法師ですから」

 

 

 怜美の言葉を謙遜だと切り捨て、遥は本題に入ることにした。

 

「最近、司波君に会えないって相談が後を絶たないんですよね」

 

「あらま~。春休みですし、司波君は他の事で忙しくて生徒会にも顔を出せていないですからね」

 

「『家の都合』って事で一応は納得してるみたいなんですけどね……」

 

 

 達也が「四葉」であることは、この学園に通うものなら全員が知っている事であり、恐らく来月から通い始める新入生たちも、色々な意味で有名な達也の事は知っているだろうと遥は思っている。

 

「その『都合』を聞きに行こうだなんて言いませんよね~? 前回お会いする事が出来たのは、完全に向こうが私たちとの面会を望んだからだと、司波君も言っていたじゃないですか~」

 

「……さすがにそんなことは言いませんって」

 

 

 魔法協会関東支部に行ったからといって、もう一度真夜に面会が叶うとは遥も思っていない。そもそも四葉の事情を探ろうなど、仕事で命じられたとしても断る部類だと感じている。

 

「一般生徒の中にも、司波君と会えないという悩みを抱えてるらしいんですよね」

 

「一般じゃない――婚約者としての地位を確立してる子は、どうなんですか? 例えば、千葉さんとか」

 

「少しイライラしている様子は見受けられたけど、カウンセリングを受けに来るのは千葉さんのお友達の柴田さんね。まぁ、柴田さんは別件で相談に来てるんだけど」

 

 

 美月がカウンセリングルームを訪れる理由は様々ではあるが、最近は一人の男子について相談する事が多い。もちろん、遥がその事を怜美に教える事は無かった。

 

「私たちだって会えなくて寂しい思いをしてるんだから、少しくらい我慢してもらうしかないわよね~?」

 

「正式に『愛人』という事を認めてもらってますからね……」

 

 

 達也にはともかく、現四葉家当主である真夜には、達也の愛人として認めてもらっているのだから、一般の生徒より会えなくて寂しいと思ってしまうのは仕方のない事だろうと怜美は思っていた。もちろん遥も寂しいとは思っているのだが、達也がいると何時面倒事に巻き込まれるか分からないので、この場にいない事に少しだけ安堵してもいたのだった。

 

「それで、ここに来た理由は、司波君に会えなくて寂しいという気持ちを共有しようって事なんですか?」

 

「それだけではないですけどね。これ以上彼の事で相談を受けていると、こっちが滅入ってしまいそうだったので、安宿先生に相談をしたかったんです」

 

「私はカウンセラーじゃないですけどね」

 

「安宿先生の雰囲気に癒されている子も少なくないんですよ?」

 

「そうなのかな~? まぁ、それはさておくとしても、小野先生が私の雰囲気で癒されるとは思いませんけどね」

 

「同じ立場の人間に相談するのが一番ですから」

 

「まぁ、特別な立場ですからね、私と小野先生は」

 

 

 親公認の愛人なのだから、特にやましい思いを抱く必要も無く、堂々と達也とイチャイチャ出来る立場の人間なのだから、それほど難しい立場ではなさそうだが、婚約者たちからは白い目で見られることが多いのだ。

 

「最近は里美さんや明智さんも私の事を複雑な感情が篭った目で見てきますし」

 

「若い子はいろいろと複雑なんでしょうね~」

 

「まだ私たちだって『若い』とは思いますけどね。学生と比べたらあれですけど」

 

「司波君は年の差なんて気にして無さそうですし、彼の雰囲気は私たちより年上だと言われても納得出来るものがありますからね」

 

「まぁ、彼の場合は年齢ではなく経験から来る雰囲気ですからね」

 

「あれだけの雰囲気を出すには、どれだけの経験を積んできたんでしょうね~」

 

 

 怜美の言葉に、遥は首を捻った。四葉の人間として、国防軍の特務士官として経験を積んできた事は聞いているが、それがどのような経験であるかは聞かされていない。恐らく婚約者たちの中でも、全てを知っているのは四葉の血縁者くらいだろうと思っている。

 

「司波さんに聞いてみます?」

 

「止めておいた方が良いと思いますよ。彼女を刺激したら、どうなるか分かりませんから」

 

「彼女も四葉の血を引いてる一人ですものね。魔法力が高くても当然ですしね」

 

 

 二年前の生徒会長選挙の事を思い出した二人は、あのまま深雪が暴走していたらどうなっていたかという話になった事を思い出し、不意に寒気に襲われたのだった。

 

「とにかく、あと数日で司波君たちも帰ってくるんですし、もうしばらくの辛抱ですよ」

 

「そうですね。ですが、私たちが彼に甘えられる時間は、まだ少し先なんでしょうけどね」

 

 

 遥の言葉に、怜美も苦笑いを浮かべながら頷き、本来の用件で保健室を訪れてきた生徒の気配を感じ取り、遥は腰を浮かせ保健室を後にしたのだった。




この二人の空気感は結構好きです
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