劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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雫とほのかが甘えまくった日の深雪の話です


サイドストーリー深雪編

 達也は任務で沖縄を訪れてはいるが、雫とほのかにとっては、そんなことは関係なかった。積極的にアピールしたり、隙あらば隣に立ったりと、深雪からしてみれば我慢するのも大変なくらいだった。

 ホテルの部屋に戻り、水波がお茶の用意をしてくれている間、深雪は今日あった事を想い返し、雫とほのかに嫉妬心を抱いた。

 

「(三月だからって油断してた……たぶんあれはエイミィやスバルの入れ知恵よね。雫とほのかが自発的にあんなことをやるとは思えないし……)」

 

 

 婚約者は大勢いるが、達也の隣に最もふさわしいのは自分だと自負している深雪からすれば、あの行為は許せないと思っても仕方は無い。だが二人は深雪にとっても大事な友人なので、嫉妬のあまり凍らせてしまうのも躊躇い、結局はその光景を見ないように別行動をしたのだった。

 

「(雫やほのかの他にも、沖縄には壬生先輩や藤林さんだっているのだから、油断ならないわね……)」

 

 

 深雪も大事な任務があるのだが、彼女にとってそれは緊張するものではないし、達也の手伝い程度の任務なので、当日になってから気を引き締めれば問題ない。

 

「深雪様、お茶の用意が整いました。達也さまもテラスの方でお待ちです」

 

「ありがとう、水波ちゃん」

 

 

 水波の言葉に、深雪はさっきまで醸し出していた不機嫌な雰囲気から一変し、満面の笑みでテラスへ向かう。

 

「お待たせしました、お兄様」

 

「何だかご機嫌だな。何か良い事でもあったのか?」

 

「お兄様といられるだけで、深雪には最高の時間ですから」

 

「大袈裟だな」

 

 

 深雪の発言を冗談だと片付け、達也は水波が淹れたお茶を一口啜る。

 

「まさかあのような場所に敵潜水艦が潜んでいるとは思いませんでした。あの状況で即座に敵を見つけ出すとは、さすがはお兄様です」

 

「警戒は怠ってなかったからな。だが、片手間程度の警戒だ」

 

 

 達也としても、あの場所に敵がいるとは本気で思ってはいなかった。だが無意識の内に警戒する癖がついているので、本当に偶然あの潜水艦に気付いたのだった。

 

「的確に指示を出し、ご自身の力を使う事なく敵勢力を鎮圧、お兄様のお力を以ってすれば、これくらいは当然だと思います」

 

「あの場所で俺の魔法を使うわけにはいかないからな。事情を知らない人もいたし、俺が動くよりも先に桐原先輩と沢木先輩が動き出してたからな」

 

「先輩方は、実に楽しそうな表情で敵を倒していましたね」

 

「あの二人からすれば、遊びみたいなものなんだろ。もちろん、本当の実戦であの感じだったら問題だが」

 

「さすがに時と場合を弁えている、という事でしょうか?」

 

「遊び感覚で倒せるうちは、あの二人にとって実戦ではないのかもしれないな」

 

 

 そんなことを思いながら、達也は水平線の彼方を見詰めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日はアルコール無しで酔っぱらい達也の部屋まで押しかけ、その部屋のベッドで寝た深雪ではあったが、今日は大人しく自分の部屋のベッドで横になった。

 

「本日は達也さまのお部屋でお休みにはならないのですか?」

 

「昨日のあれは雰囲気に酔ってしまっただけです。さすがに連日達也様のお部屋に押しかけては、淫らな女だと思われてしまうもの」

 

 

 達也がその程度で深雪の評価を下げるとは思えなかった水波だが、あえてその事は指摘しなかった。そもそも婚約者とはいえ男女が同じ部屋で休むのはどうかと思っているので、今日も達也の部屋で休むと深雪が言い出したら止めるつもりだったので、大人しくこの部屋で休んでくれるのは水波としてもありがたかった。

 

「水波ちゃんは、雫とほのかの行動を見てどう思った?」

 

「どう、とは?」

 

 

 質問の意図がイマイチ理解出来なかった水波は、そう聞き返す。自分と深雪の立ち位置は違う為、どのような意図で尋ねてきたかを知ろうとしただけなのだが、深雪はそれだけしか言わず、ただじっと水波を眺めていた。

 

「沖縄とはいえ、三月の海で水着姿になるとは大胆だなとは思いました。もちろん、その程度で達也さまが籠絡されるはずもありませんが、積極的にアピールする事は大事だと思います」

 

「そうよね……お兄様があの程度で動揺するはずも無いと分かっているのに、なのに何で私はこんなにも二人に嫉妬してるのかしら……自分が用意してなかったのが悪いのに、あの二人を恨んでしまうのかしら……」

 

「深雪様が悪いわけでもないと思うのですが……」

 

 

 先ほど水波が言ったように、いくら沖縄とはいえ、三月に海で遊ぶはずもないので、水着の用意は必要ない。雫とほのかが用意していた方がおかしいのであって、深雪が気にする事ではないように水波には思えていた。

 

「あの二人だけならそんなことしなかったでしょうけど、エイミィやスバルがいる事を失念するだなんて……油断し過ぎたかしら」

 

「その方々も達也さまの婚約者なのですから、そこまで警戒する必要は――」

 

「私が一番でいる為には、どんな些細な事でも後れを取るわけにはいかないのよ」

 

「そ、そうなのですか……」

 

 

 深雪のプレッシャーに圧され、水波は頷く事しか出来なかった。

 

「(達也さま、私では深雪様を抑える事など出来ませんでした……)」

 

 

 嫉妬に燃える深雪が何をするか分からないが、間違いなく達也が苦労するだろうと決めつけた水波は、心の中で達也に謝ったのだった。




やっぱり気苦労が絶えない水波……

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