劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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昨日一昨日で一気にお気に入り登録が増えていてちょっとビックリ。


真由美との出会い

 深雪のお供と言う大役を終えた達也は、入学式が始まるまでの時間を如何やって潰すかを悩んでいた。家に帰っても特にする事は無いし、そもそももう一度学校に来る手間を考えるとこの場で出来る事が望ましい。

 そう思って達也は携帯端末に保存されたお気に入りの書籍サイトで時間を潰す事にした。ちょうど中庭に設置されたベンチもある事だし、達也はそこに腰を下ろして端末に目を落とした。

 

「ねぇあの子、ウィードじゃない?」

 

「こんなに早く……補欠が張り切っちゃって」

 

「所詮スペアなのにね」

 

 

 達也のすぐ傍を通った女子たちの口から発せられた言葉、「雑草(ウィード)」、学園側は禁止用語としているが、生徒の間では普通に使われている言葉だ。

 一科生を花冠(ブルーム)、二科生を雑草、一科生のブレザーには左胸と肩に八枚花弁のエンブレムがある事から、自分たちを花冠と呼ぶようになり、それが無い二科生の事を雑草と揶揄するようになったのだ。

 

「雑草か……そんな事は分かってる」

 

 

 達也がこの学校に進学したのは、深雪からの強い要望があったのと他にもう1つ理由があるのだ。

 二科だろうが一科だろうが、関係無い事なので、達也はあまりその事を気にしてないのだが、深雪が聞いたら大変だろうなと思いそうつぶやいたのだった。

 書籍サイトに集中していたのか、アラームが鳴るまで達也は時間の事を気にしたいなかった。開始30分前にアラームをセットしてなかったら、時間を忘れて読書に没頭していた事だろう。

 達也は別に入学式などに興味は無いが、深雪を宥める際に晴れ姿を見せてくれと言ってしまった手前、サボって見なかったでは済まされないのだ。

 

「(そろそろ講堂が開く頃か……)」

 

 

 端末の電源を落とし、胸ポケットにしまい立ち上がろうとしたら目の前に気配を感じ取って達也は動きを止めた。

 

「新入生ですね? 開場の時間ですよ」

 

 

 達也は下からゆっくりと視線を上げていく。まず始めに目に付いたのはスカート。相手は女子だと言う事が分かる。その次に目に付いたのが左腕に巻かれた大きめのブレスレット。

 

「(術式補助演算機(CAD)か……確か学園でCADの常時携行が認められてるのは生徒会の役員と限られた生徒のみ……彼女はそれなりの地位を持っているのか)」

 

 

 地位のある先輩に目を付けられるのは好ましくない。達也はそう思って素直にお礼を言ってこの場を立ち去ろうとした。

 

「ありがとうございます。すぐに向かいます」

 

「感心ですね。スクリーン型ですか」

 

 

 達也がしまい損ねた端末を指差してしきりに頷く女子。生徒会役員かそれに順ずる役職についている優等生と、あくまで補欠である自分が積極的に関わるべきでは無いと達也は思っていたのだが、如何やら彼女はそうではなかったようだ。

 此処で漸く達也は目の前に立つ女子生徒の顔を見た。顔の位置は達也から25㎝は下にある事を考えると、彼女の身長は150前半、155は無いだろうと達也は思った。

 

「(随分と小柄な女性だな……)」

 

 

 自分よりも年上だと言う事を考えると、その印象は更に強まった。深雪もそこまで大きくは無いが、彼女よりは身長はある。そう考えると彼女が小柄なのは遺伝か何かなのだろうと結論付けたのだった。

 

「当校では仮想型ディスプレイ端末の持込を認めていません。ですが仮想型端末を利用する生徒は大勢います。ですが貴方は入学前からスクリーン型を利用してるんですね。関心します」

 

「仮想型は読書には不向きですから」

 

 

 達也の端末は相当年季が入っているのは誰が見ても分かる事なので、彼女もそれ以上質問する事は無かった。

 だが彼女は達也を解放するつもりも無かったようだ。

 

「動画では無く読書ですか、ますます感心ですね。私も映像資料より書籍資料の方がすきだから嬉しくなるわね」

 

「はぁ……」

 

 

 別に読書派が希少って訳でも無いのだが、如何やらこの上級生は人懐っこいのだろうなと達也は思い始めた。口調が砕けてきたり、徐々に近づいて来ているのから見てもきっとそうなのだろう。

 

「あっ、申し送れました。私は一高の生徒会長を務めています、七草真由美って言います。「ななくさ」と書いて「さえぐさ」って読みます。よろしくね」

 

 

 何だか蠱惑的な雰囲気を醸し出していて、入学したての普通の男子高校生なら勘違いしそうだが、達也はそんな事とは別の事が気になっていた。

 

「(数字付き(ナンバーズ)……しかも「七草」か)」  

 

 

 遺伝的な素質に左右される魔法師の能力、そしてこの国において魔法に優れた血を持つ家は、慣例的に苗字に数字を含むのだ。

 達也は自分が持つコンプレックスに唇を噛み締めたくなる衝動を覚えたが、彼がそんな事をするはずも無く、自分も名乗る事にした。

 

「俺は……いえ、自分は司波達也です」

 

「えっ! 君があの司波君なの!?」  

 

 

 達也の名前を聞いて大げさに驚く生徒会長、何か意味ありげな視線を向けられて達也はうんざりしていた。

 彼の中で、生徒会長が驚く理由に心当たりがあるのだ。

 学年トップで入学した司波深雪の兄なのに、まともに魔法が使えない『あの』司波達也と言う事なのだろうと……だから達也は礼儀正しい沈黙を守っていたのだ。

 だが生徒会長のこの反応には侮蔑が含まれている感じはしない。

 

「先生方の間では貴方の噂で持ちきりよ」

 

 

 まるで自分の事を褒められているような、楽しそうな雰囲気まで感じ取れる。だが達也の中では、これほど差のある兄妹も珍しいとか、そう言ったネガティブな噂だろうと言う考えが離れなかったのだった。

 

「入試七教科平均、100点満点中98点。特に圧巻だったのは魔法理論と魔法工学ね。合格者の平均が70点にも満たないのに、両教科とも小論文を含めて文句なしの満点! 前代未聞の高得点だって」

 

 

 そんな事を新入生に話して良いのか……例え本人であっても入試成績の結果は教えてもらえないのではないか? 達也はそんな事を思っていた。




何処で切ろうか迷っていたら尻切れトンボみたいに……

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