いつの間にか達也が風呂から出てきていたことにショックを受けた二人ではあったが、それが原因でまたまた口論が開始された。
「ミユキが邪魔するからワタシとタツヤが愛を育む事ができなかったじゃないの!」
「邪魔をしたのは貴女の方でしょ、リーナ! 貴女がこの家に居座っていなければ、今頃達也様はゆっくりとお休みになられていたはずなのに」
「フィアンセに会いたいと思うのは当然の事よ! 常に一緒にいるミユキにはこの気持ちは分からないかもしれないけど、きっとマユミたちも同じ気持ちだと思うわよ」
「私だって常に達也様と一緒にいられるわけじゃないわよ! 別行動だって当然するし、会いたいと思う気持ちくらいわかるわよ!」
「ミユキは少し違う気持ちでしょ! 会おうと思えば簡単に会えるミユキと、ワタシたちを同じだと考えないでよね!」
口論がヒートアップしていく中、水波とミアは黙って達也を見詰めていた。この場を放置するか、それとも二人を落ち着かせた方が良いのかの判断を達也に仰いだのだ。
「いい加減落ち着いたらどうだ? 深雪もリーナも、そろそろ騒がしい」
普段深雪に向けないような視線を向け、達也は二人を黙らせることにした。その効果は絶大で、深雪の表情には絶望の色が浮かんでいた。
「も、申し訳ありませんでした、達也様。ついついリーナの売り言葉につられてしまいまして……」
「ちょっと! ワタシの所為だっていうの!? ミユキだってワタシの神経を逆なでするようなことをたくさん言ってきたじゃない!」
「その事は今はどうでも良いのよ! それよりも、貴女も達也様に謝りなさい!」
さっきまでなら自分の言葉に喰い付いてきたはずの深雪が、全く相手にする気配が無いどころか、かなり焦った表情で怒鳴りつけてきたので、リーナはその勢いに圧されて頭を下げた。
「騒がしくして、ゴメンなさい……」
「申し訳ありませんでした、達也様。どのような罰でもお受けしますので、どうか見捨てないでください」
深雪が何を恐れていたのかがようやく理解出来たリーナも、先ほどとは打って変わって真剣な表情で頭を下げた。
「この通りよ、タツヤ! だから見捨てないで!」
「別に見捨てるつもりは無いが、そうだな……」
達也が人の悪い笑みを浮かべているのを見て、リーナは急に先ほどまでの真剣味が白けていくように思えていたが、深雪はそうはいかなかった。彼女にとって、達也に見捨てられるかもしれないという事は、他の婚約者たちよりも重い意味を含んでいるからである。
「今日は二人で仲良く休むと良い。風呂も就寝も二人一緒で」
「達也様!? それはあまりにも――」
「嫌なのか?」
「め、滅相もございません! 達也様が仰るのでしたら、深雪はどのような罰もお受けします!」
「ちょっと!? ワタシはタツヤと一緒に――」
リーナの言葉は、深雪の視線で遮られてしまった。
「(何、このプレッシャーは……元USNA軍総隊長、アンジー・シリウスである私が気圧されただなんて)」
達也ならリーナも納得出来たかもしれないが、深雪相手に気圧されたという事実は、彼女にとって受け入れがたいものであった。
「(魔法力で圧倒されたのなら、まだ納得がいくけど、この威圧感はいったい何なの?)」
「リーナも、それで問題ないわよね?」
「え、えぇ……それが罰だというなら、大人しくします」
「というわけだ。水波もミアももう休んでいいぞ」
「ミアさんの部屋は如何しましょう?」
「水波の部屋で構わないだろ。敷布団でも用意すれば、あの部屋は問題なく二人で使えるだろ?」
「そうですね。ではミアさん、こちらになります」
水波とミアがリビングから移動し、達也もそれを見送ってから自室に戻ったのを受けて、ようやく深雪は引き攣っていた表情を元に戻す事が出来た。
「ミユキ、さっきのはいったいなんだったのよ」
「達也様に見捨てられたら、私は一条家に嫁がなければいけなくなるかもしれない。一条さんの事は嫌いではないけど、そういう対象で見た事なんて無いし、これからも見れないと思う」
「四葉のプリンセスを娶ろうだなんて、随分と図々しい神経をしてるのね、その一条家の人って」
「リーナには言われたくないだろうけどもね」
漸く冗談を言えるだけの余裕を取り戻した深雪に、リーナも笑みを浮かべて軽く反論するだけに留めた。
「とりあえず、達也様の命令は絶対だから、今から一緒にお風呂にでも入りましょうか」
「一緒に入った事にすればいいだけじゃないの?」
「忘れたの? 達也様は私たちの居場所なんて、実際に見なくても分かるのよ? リーナがUSNAに強制送還されたいのなら別に止めないけど、私まで巻き込まれるのは絶対に嫌だからね」
「わ、分かったわよ……でも、深雪のプロポーションを見せつけられるのはね……」
「あら、リーナだって良い身体してるじゃないの」
「深雪にそう言われても、嫌味にしか聞こえないわよ」
リーナの言葉に苦笑いを浮かべた深雪は、前にも似たようなやり取りをしたなと思っていたのだった。
「これからはもう少し衝突しないようにしましょう」
「そうね……さっきみたいな絶望を味わうのはこりごりよ」
「貴女が感じたのとは比べ物にならないくらいの絶望感を味わったのよ、私は」
「はいはい、申し訳ありませんでした、深雪様」
「何よそれ」
リーナの冗談じみたセリフに、深雪は本気で笑ったのだった。
リーナは一旦終わりです