劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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久しぶりにこの人を


IF婚約者ルート夕歌編 その1

 沖縄から帰ってきた達也たちを出迎えたのは、婚約者の一人であり、真夜の名代ともとれる相手だったために、深雪と水波はついつい身構えてしまった。

 

「そんなに硬くならなくても大丈夫よ。今日は名代としてじゃなくて、お手伝いとして来ただけだから」

 

「夕歌さんが手伝いですか?」

 

「今は完全に一人暮らしだから、お手伝いくらい出来ますよ」

 

 

 訝しむように自分の事を見てきた深雪に、夕歌は苦笑いを浮かべながらそう答える。

 

「ですが、わざわざ手伝ってもらうようなことは無いのですが」

 

「今日くらいは深雪さんも水波ちゃんもゆっくりしたいでしょうし、片付けや洗濯、晩御飯の用意は私がするわよ。ほら、三人は荷物の片付けがあるんだから、早いところ部屋に行く。まずは達也さんのものから手伝うわね」

 

「大丈夫ですよ。俺は二人と違ってそれほど荷物が多いわけではありませんので」

 

「気にしないの。ただたんに達也さんのお手伝いがしたいだけなんだから。深雪さんや水波ちゃんもそんなに睨まないの。後で手伝ってあげるから」

 

 

 別の理由で睨まれていると分かっていても、夕歌は全く動じずに気づかないフリをし続ける。その神経に敬意を表して、深雪も水波も達也の片付けの手伝いは夕歌に任せる事にして、自分たちの荷物を片付ける事にしたのだった。

 

「達也さんの荷物は、きちんと整理されていて片付けるのが簡単そうね」

 

「散らかしておくほど忙しくなかったですし、たぶんそうなってても深雪が片付けてしまってたでしょうね」

 

「やっぱり一緒に暮らしてるっていうのは強みよね……完成までもう少しだけど、その間はずっと深雪さんが達也さんのお世話をするんでしょうし……」

 

「自分でしようとしても、深雪と水波に止められてしまいますからね」

 

 

 達也は別に、家事が全く出来ないわけではなく、必要最低限の事は自分で出来るだけのスキルは持ち合わせているのだ。だが自分で何かしようとすれば、深雪と水波が横からその仕事を取り上げ、達也には寛いでもらおうとリビングに追いやられるのだ。

 

「深雪さんは兎も角として、水波ちゃんもなのね」

 

「メイドの務め、だそうです」

 

「もうただのメイドではなく、深雪さんのガーディアンなのにね」

 

「水波の中では、ガーディアンとしての任務よりもメイドの仕事の方が上みたいですよ」

 

「次期当主様の婚約者を守ることより、次期当主様のお世話の方が上なのは当然だとは思うけど、水波ちゃんは深雪さんのお世話もしてるのよね」

 

「元々は深雪が次期当主候補筆頭でしたから、水波が深雪の世話を焼くのは当然だと思いますがね」

 

 

 達也は自分が次期当主に指名されるなど思っても無かったので、水波にガーディアンを引き継いだらひっそりと四葉内で暮らすつもりだったのに、真夜の所為でその計画は実行不可能になってしまった。だが自分の居場所が四葉家内に出来た事により、前よりも自由に動くことが出来るので、悪い事ばかりではないとも感じていた。

 

「とりあえず達也さんが四葉家当主になったら、ますます四葉家は十師族の中でも突出するでしょうね」

 

「俺本来の魔法が公になったら、数字剥奪では済まないと思いますが」

 

「大丈夫でしょ。四葉家に逆らえるような家があるとは思えないし」

 

「世界中を敵に回すつもりですか?」

 

「真夜様や達也さん、深雪さんがいれば世界が相手だろうが問題ないでしょ?」

 

「そう言う問題ではないんですが……」

 

 

 達也としては、出来るだけ面倒事は避けたいから夕歌に釘を刺したのだが、それが分かっているのか分からないのかを覚られないような笑みで返事をした夕歌に、達也はため息を吐いた。

 

「大丈夫、本気じゃないから」

 

「分かってはいますが、夕歌さんの感情は読み取り辛いんですよね」

 

「達也さん相手に生半可なポーカーフェイスじゃ意味ないもの。必死になって隠そうとしなければ、全て知られてしまうからね」

 

「必要ない事は知ろうとはしませんが」

 

「知られたくない事は、頑張って隠したいのよ」

 

「まぁ、夕歌さんの気持ちは昔からなんとなく知っていましたが」

 

 

 夕歌が昔から自分の事を好いていた事は、達也も何となく気づいてはいた。だがそういう感情に疎い達也は、その事を指摘することなく夕歌と過ごしていたのだった。

 

「あの時は達也さんとこういう関係になるとは思ってもみなかったし、成長していくにつれて、達也さんは四葉家の中に存在しないものとして扱われだしたしね」

 

「ただのガーディアンだったんですから、その扱いも仕方なかったとは思いますがね」

 

「それに、達也さんの視線は桜井さんに向けられてたしね」

 

 

 達也が夕歌の気持ちに気付いていたように、夕歌もまた達也が穂波に特別な感情を抱いていた事に気付いていたのだ。

 

「辛くないの? 桜井さんにそっくりな水波ちゃんと一緒に暮らすって」

 

「昔の事を思い出したりはしますが、辛いとかはありませんよ。昔の自分の無力さを思い出すくらいです」

 

「やっぱり達也さんって、強いんだね」

 

「悲しい、という感情がありませんからね」

 

 

 強いとか弱いではないと達也は思っているのだが、夕歌は達也とは違う考えを持っている。言い争っても意味は無いと二人とも理解しているので、荷解きを済ませて二人揃ってリビングへと向かったのだった。




原作でも出番あったから出してみました

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