劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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スキンシップの基準とは……


超IF沖縄ルート その3

 一仕事終えて部屋に戻ってきた達也を出迎えたのは、楽しそうな真夜と、真夜に負けじと明るい笑みを浮かべた深雪と、疲れ果てた顔をした水波だった。

 

「お帰りなさい、たっくん」

 

「達也様、お疲れ様でした」

 

「あ、あぁ。水波、少しいいか」

 

「は、はい……」

 

 

 真夜と深雪の出迎えを何とか流して、達也は水波を呼び寄せる。

 

「いったい何があったんだ」

 

「ある意味いつも通りですが、真夜様が達也さまのお荷物を漁ったり、ベッドに飛び込んだりするのを、深雪様が妨害して口論になったり、深雪様も引き込まれそうになったりと」

 

「何もしないと約束したはずだが」

 

「真夜様のお考えなど、私には分かりません」

 

 

 泣きそうな顔でそう言われたら、さすがの達也もそれ以上聞き出そうとは思わなかった。彼女がどれだけ苦労したか、その表情だけで十分伝わってきたのだ。

 

「ご苦労だったな。後は俺が何とかしよう」

 

「いえ、まだ大丈夫です。私もお手伝いいたします」

 

 

 メイドとしての意地なのか、水波は達也一人に二人の相手を任せる事はしなかった。

 

「母上、この部屋に滞在するにあたって、条件を出したのを覚えておいでですか」

 

「ええ。だから、何もしてないわよ?」

 

「水波からの情報によれば、俺の荷物を漁ったり、ベッドに飛び乗ったり、そのまま眠ったりとしていたらしいですね」

 

「その程度は母子のスキンシップにも劣ることですから、問題は無いと思いますけど?」

 

「母上の基準がどうなっているかは、俺にも分かりませんが、あの条件が満たされなかった以上、この部屋への滞在は認められません」

 

「そんなこと言わないでよ、たっくん! せっかく仕事を急いで終わらせて、たっくんとの時間を作ったのに、そのたっくんと一緒にいられないなんて!」

 

「……わざわざ沖縄に来なくても、本家でゆっくり過ごせばよかったじゃないですか」

 

 

 達也としては、時間が出来たのなら、本家で葉山が淹れてくれた紅茶でも飲んでゆっくり過ごした方が良いのではないかと思えたのだが、真夜の理屈ではそうではなかった。

 

「だって、本家にはたっくんがいないじゃない。たっくんの為に時間を作ったんだから、たっくんがいない本家にいても意味は無いもの」

 

「ですから、俺にこだわらずともいいでしょうが」

 

「良くないわよ! せっかくたっくんを私の息子として認めさせたのに、そのたっくんは本家で生活しないし、未だにたっくんの事を下に見る連中もいるし」

 

「達也様を下に見るなんて、不遜な輩は排除した方がよろしいのではないでしょうか?」

 

「私もそうしたいんだけど、優秀な人材を四葉家から追放して、他家に情報を流されたら厄介ですからね」

 

「でしたら、私の精神干渉魔法の練習台にするのは如何でしょうか? もちろん、達也様のでも構いませんが」

 

「それも考えたんだけど、たっくんに怖い顔をされたから止めたのよね」

 

 

 今も眉間に皺を寄せて二人を睨んでいる達也の方をちらっと見て、真夜は心底つまらなそうにため息を吐いたのだった。

 

「とにかく、この部屋にいたいのでしたら、大人しくしててください。深雪も、あまり母上を刺激するようなことは控えるように」

 

「かしこまりました、達也様」

 

 

 達也の言葉に丁寧に一礼してから、深雪は水波を連れて自分たちの部屋へと戻る。途中、何度も足が止まったのは、真夜だけズルいとか思ったからだろう。

 

「深雪さんのたっくんへの依存は、相変わらずね」

 

「母親が死んですぐ、父親が愛人と再婚したわけですからね。頼れる身内は俺しかいなかったわけですから」

 

「やっぱり姉さんが死んだ後すぐにでもたっくんが私の息子だという事を発表すればよかったかしら」

 

「俺に聞かれても知りませんよ、そんなこと」

 

 

 自分のこととはいえ、あまり興味がないので、達也は冷たいとも取れる返しをする。だが、その程度で真夜がくじけたりはしなかった。

 

「人造魔法師実験の時、残す感情は深雪さんではなく私に向けるものにしてもらえればなぁ……それか。兄妹愛じゃなくって家族愛にしてもらえれば、私も深雪さんみたいにたっくんに優しくしてもらえたのに」

 

「十分甘やかしてるとは思いますが」

 

「この程度じゃ満足出来ないの! 深雪さんも思ってるとは思うけど、幼少期に当然あったであろう思いでが、私にも無いんだから! 姉の手で息子を育てられてた私に、たっくんはもう少し優しくする義務があると思うんだよね」

 

「そんなこと言われましても、母上がそうなるようにしたんですよね? 司波深夜を代理母として俺を産ませたんですから、そのくらいは覚悟していて当然だと思いますが」

 

「姉さんに産んでもらった後は、私が育てる予定だったの! それを、先代と姉さんが私の計画を妨害するために、たっくんを不当に扱う事にしたのよ」

 

「ガーディアン生活も退屈ではありませんでしたけどね」

 

「まぁ、そのお陰で魔法戦闘だけではなく、肉体戦闘も強くなったもんね」

 

「とりあえず、この部屋に滞在するのは認めますから、大人しくしててください」

 

 

 普通にしている分には、達也は真夜が側にいても気にならない程度には慣れている。だが、この母親は少し人とはズレた感性の持ち主なので、それだけが不安だったのだ。

 

「だから、過激な事は何もしないってば」

 

「それが信用出来るような態度を見せてください」

 

 

 今までも何もしないと言って、色々としてきた前科があるので、達也はイマイチ真夜を信用出来ないのだった。




甘え方が過激になってきたかも……

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