劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ちゃんと母親をしてる感じになった……


超IF沖縄ルート その4

 食事を済ませ、入浴も済み、後は寝るだけとなった時になって、深雪はそわそわと隣の部屋を気にしている様子が目立ち始めた。

 

「深雪様、少しは落ち着かれたら如何でしょうか」

 

「私は落ち着いてるわよ。水波ちゃんの方こそ、さっきから視線が達也様の部屋に向けられてるわよ」

 

 

 深雪に指摘されてから、水波は自分が達也の部屋を気にしていたことに気付いた。

 

「今回はさすがに真夜様も何もしないとは思いますが……」

 

「心配よね……」

 

 

 前科があり過ぎるので、二人はあまり真夜の事を信用出来ずにいる。もちろん、達也が大人しく襲われるとは思わないが、もしかしたらという限りなくゼロに近い可能性が気になってしまうのだ。

 

「やはり白川夫妻と同じ部屋でお休みになっていただいた方がよろしかったのではないでしょうか」

 

「今更よ、そんなの……それに、叔母様に進言したところで、まともに相手にされなかったでしょうしね」

 

 

 実際水波の意見を採用して、真夜にそうしてもらおうと深雪も考えたのだが、言ったところで真夜が受け入れるはずもないし、白川夫妻に悪いと思ってしまったのだ。

 

「達也さまが真夜様に仰られれば、さすがにいう事を聞いたと思うのですが」

 

「達也様が構わないと仰られたのだから、お願いするわけにもいかなかったじゃないの」

 

「それはそうですが……ですが、達也さまが構わないと仰られたといって、深雪様やわたしが心配しなくても良いとはなりませんでした」

 

「そうなのよね……」

 

 

 達也の言葉を疑うなど、深雪や水波にとってあってはならない事なのだが、それでも心配で壁の向こうに意識を向けてしまうのだった。

 

「出来る事なら、私が叔母様と部屋を変わりたいわ」

 

「ですが、そうなると北山様や光井様が再びアタックを仕掛ける機会を与える事になってしまいますが」

 

「言わなければ大丈夫だと思うけど」

 

「深雪様もそうであるように、女性は他の女性の匂いに敏感ですからね。真夜様の匂いならまだしも、深雪様の匂いはお二人も十分存じているでしょうし」

 

「そうね……」

 

 

 結局打つ手が無いという事を理解しただけで、深雪と水波は悶々とした時間を過ごす事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣の部屋で二人が悶々としているなどと思いもせず、真夜は大人しく達也の隣のベッドで寝ていた。

 

「ねぇ、たっくん」

 

「何でしょうか」

 

「……急に声を掛けたのに驚かないんだ」

 

「母上が起きているのは、気配で分かってましたから」

 

「たっくんを驚かせることは何時になったら出来るのかしらね」

 

 

 ちょっと残念そうにつぶやいてから、真夜は本題に入ることにした。

 

「今回の件は、無理にたっくんが片づける必要は無いのよ。国防軍に任せて、たっくんは自分の身の回りだけを守ればそれで文句は無いわ」

 

「ですが、大亜連合の部隊の動きも見ておきたいですし、何時までも国防軍が味方であるという保証はありませんからね。出来る事はやります」

 

「もう、国防軍にたっくんを縛ることなんて出来ないのに、彼らはまだたっくんの事を戦力として期待しているのね」

 

「まだ正式に軍を抜けたわけではありませんから」

 

 

 達也が言っている事は真夜にも理解出来ている。だが、彼女は理屈ではなく感情で軍に文句をつけているのだ。

 

「だいたい、たっくんが本気になれば、国防軍なんて一日もたないのに」

 

「国内で戦争してどうするおつもりですか。そもそも、国防軍を壊滅させたら、それこそ他国に攻め入られますよ」

 

「そのくらい、十師族で何とでも出来ます。それ以外の師補十八家や百家、数字付きではなくとも有力な魔法師はいくらでもいますからね」

 

「その最たるが国防軍に所属している魔法師だと思うのですが」

 

「それ以外にも優秀な人はいるでしょ? たっくんの知り合いだって、全員が数字付きなわけじゃないんだし」

 

 

 真夜が言っているのが、幹比古や摩利といった、友人や先輩であることは達也にはすぐ理解出来た。ましてや今沖縄には、服部や沢木、桐原といった、こちらも数字付きではない優秀な知り合いがいるのだ。それくらい真夜が把握していて当然だと達也は思っている。

 

「とりあえず、深雪に危害が及ばないように注意しつつ、敵を片付けます」

 

「本来なら深雪さんよりたっくんの方が守られて当然なんだけどね。下手な護衛をつけると、逆に危ないものね、たっくんは」

 

「深雪にも、本来護衛をつけなくても良いとは思いますが、深雪の場合は強すぎる魔法力の所為で、他の魔法師の魔法発動を妨げてしまう可能性がありますからね」

 

「敵も味方も関係なく、だものね。優秀過ぎるのも考え物ね」

 

「そんなことを言う為に、わざわざ沖縄に来たのですか?」

 

「ん?」

 

 

 達也の質問の意味が一瞬理解出来ず、真夜は首を傾げたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「たっくんなら私がここに来た理由は分かってるでしょ?」

 

「余程スポンサー様に会いたくないんですね」

 

「だって、たっくんの事を『物』扱いするんだもん。もう正式に私の跡を継いで四葉の当主になることが決定してるのにさ」

 

「古い考えで凝り固まっているんだと思いますよ」

 

「いっそのこと、流星群でもお見舞いしてあげようかしら」

 

「後処理が大変なので、自重してください」

 

「たっくんがそう言うなら、ちゃんと我慢します」

 

 

 どちらが年上なのか分からなくなってきた達也は、盛大にため息を吐いて、気配でおねだりしている真夜の頭を撫でたのだった。




達也のいう事は絶対ですからね

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