劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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詰め込みすぎて訳分からん……


先輩たちの実力

 九校戦初日、達也たちは朝早くから競技場に来ていた。目的はスピード・シューティングの試合とこの後行われるバトル・ボードの予選。初日から真由美と摩利の出番があり、二人共達也に絶対に見に来るようにと念押しをして会場入りしたので、それが僅かな時間であっても見ていないなどと言う事は許されないのだ。

 

「スピード・シューティングは予選と本戦では戦い方を変える人が多いが」

 

「七草会長は予選も本戦も同じ魔法だからね」

 

 

 達也が話していた事を、達也の後ろに座った少女が引きついた。

 

「エリカ」

 

「ハイ、達也君」

 

「おはようございます」

 

「おはよう」

 

「ハヨッす。司波さんに光井さんに北山さんも」

 

 

 一人一人に声をかけるあたり、レオは意外と紳士なのかもしれない。だがその事を気にする人は、残念な事に居なかった。

 

「もっと前の方で見たほうが良かったんじゃないか?」

 

「この競技は後ろで見た方が良いでしょ。それに、前の方は人でいっぱいだし」

 

 

 エリカが指差した方、観客席の最前列には人が殺到している。

 

「馬鹿な男共が大勢居るわね」

 

「青少年だけではないようだが?」

 

「お姉さまーってやつ? 全く馬鹿らしい」

 

「でも、会長をモデルに同人誌を作ってる人もいますし、あれくらいは普通だと思いますよ」

 

 

 何気無い発言だったが、周りに与える衝撃はそれで済ませるレベルでは無かった。

 

「美月……貴女、それを如何言う経緯で知ったのかしら?」

 

「美月がそう言う趣味なら、アタシも付き合い方変えるわよ」

 

「ち、違いますよ!?」

 

「始まるぞ」

 

 

 慌てふためいた美月だったが、達也の言葉に冷静さを取り戻した。

 得点有効エリアに入った瞬間にターゲットを破壊していく真由美。正直結果など初めから分かっていた。

 

 『九校戦本戦、予選 第一高校三年七草真由美  結果:パーフェクト』

 

「さすがエルフィン・スナイパーですね」

 

「本人はその称号を嫌ってるようだがな」

 

「お兄様、今の魔法はドライアイスの亜音速弾ですよね?」

 

「良く分かったな」

 

「それくらいアタシにも分かるんですけど」

 

 

 深雪を褒めた達也をジト目で見つめるエリカに、達也は苦笑い気味に答えた。

 

「そうだな。同じ魔法を百回連続で見せられたら誰にでも分かるか」

 

 

 この発言に気まずそうに視線を逸らしたのが数人、恐らく分からなかったのだろう。

 

「百回? 一回もミスしなかったの?」

 

「スゲェな……」

 

「あの精度は素直に賞賛を送れる。いくら知覚系魔法を同時展開していたと言っても、それで得た情報を処理するのは自前の頭だからな。十師族は伊達じゃないと言ったところか」

 

 

 達也のつぶやきに驚きの表情を浮かべる人が複数人、さっきより多いのを見ると、こちらは気付いて無かったのだろう。

 

「遠隔視系の知覚魔法『マルチスコープ』集会の時に会長はこれを使って監視してたんだが、気が付かなかったのか?」

 

 

 達也の問いかけに全員が首を左右に振った。達也は呆れながらも立ち上がり、バトル・ボード会場へと移動する事にしたのだが……

 

「なあ達也、会長の魔力がもったのは何でだ? 知覚魔法も併用してたなら、いくらドライ・ブリザードが効率が良いって言っても、更にエネルギー保存法則の埒外でもありえないと思うんだが……」

 

「埒外であっても無関係じゃないのさ」

 

「……如何言う事だ?」

 

 

 更なる説明を求めたレオに、達也は歩きながら真由美が使っていた魔法も含めて詳しく説明していく。レオだけでは無くエリカも美月も真剣な表情で説明に聞き入っており、更には一科生であるほのかと雫までもが、途中で質問を挟んでくる始末に……達也は即席授業を終えて最後に簡単に説明出来る言葉を言った。

 

「世界を上手く騙すのが魔法の技術だ」

 

 

 その言葉に説明を聞いていた全員が頷く。説明を終えたのと同時に、達也たちはバトル・ボード会場に到着した。

 自分たちが座る場所を確保して腰を下ろしたところで、ほのかが不満げに達也の顔を見た。

 

「何?」

 

「深雪や雫は二種目とも達也さんに担当してもらうのに、私は一つだけ……ズルイです」

 

「バトル・ボードは他の二種目と時間が重なってるからね。ほのかにはすまないとは思ってるよ」

 

「いえ、達也さんに謝ってほしい訳じゃないんですが」

 

 

 八つ当たりだったと自分でも理解してる為に、達也が素直に頭を下げてきた事に恐縮してしまうほのか。彼女は達也が慌てると思っていたのに、こうも素直に謝られると計画が狂ってしまうと自分が焦ってしまったのだ。

 

「……如何やらウチの先輩たちには妙なファンが居るようだな」

 

「あんなのの何処が良いのかしら……」

 

 

 慌てたほのかには誰も触れずに、達也たちはスタンバイしている摩利に目を向けていた。真由美の試合同様に、この会場も最前列には人が殺到している。真由美と違う点はそこに居るのが男子が大半では無く、殆ど女子だと言う事だろう。

 

「でも、分かる気がします。渡辺先輩はカッコいいですもの」

 

「美月、貴女やっぱり……」

 

「だから違いますってば!」

 

 

 百合疑惑を掛けられて、再び顔を真っ赤に染め上げる美月、墓穴を掘ったと言われればそうなのだろうが、彼女は純粋に感想を述べただけなのだ。

 

「偉そうな女」

 

「おい、何かオメェ機嫌悪くねぇ?」

 

「何でも無いわよ」

 

 

 エリカの変化にレオが気付き確認するが、術も無く会話を打ち切られる。不機嫌の理由に何となくの当たりをつけている達也は、不用意な事は言うまいと視線を摩利に固定した。

 

「自爆戦術!?」

 

「ですが、渡辺先輩には全く影響ありませんね」

 

「移動魔法と硬化魔法のマルチキャストか。なるほど、ああ言った使い方も出来るのか。これなら……」

 

「お兄様?」

 

 

 思考がマッド的なものにはまりそうになったところだったが、深雪に声をかけられて達也は慌てて思考を摩利の試合に戻す。

 

「振動魔法も使ってるのか。加速魔法も含め、常時三種類から四種類の魔法を同時展開とは、さすがは十師族にも劣らない才能の持ち主だな」

 

 

 手放しに賞賛を送る達也に、一科生三人は複雑な視線を向ける。確かに摩利の才能は素晴らしいと三人にも分かっているのだが、魔法に関して厳しい評価を下す達也が摩利の事を賞賛するのを見ると、嫉妬心と対抗心が芽生えてくるのだ。

 

「なかなかの戦術家だな……」

 

「性格が悪いだけよ」

 

 

 高い場所から思いっきり飛び降りて後ろの選手に向けて水しぶきを上げる。視界を取られた選手はバランスを崩し、その間に摩利はさっさとゴールに向かうのだ。

 達也が戦術家と言ったのに対し、エリカが憎まれ口を叩いたのには驚いた人が多かったが、達也はエリカの言い分にも納得出来る部分があったので特に反論はしなかった。元々達也自身も少なからず思っていた事だったのだから……




摩利は別にすれば良かったかな……

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