劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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またしてもバチバチに……


IF婚約者ルート真由美編 その1

 空港に到着してすぐに、深雪は急速に機嫌を傾けた。達也もそれほどではないにしても、疲れている時に彼女の相手をするのは避けたかったのだが、既に向こうはこちらの事を見つけ、満面の笑みで手を振っているのだ、無視は出来ない。

 

「達也くん、お帰りなさい」

 

「何故七草先輩がこちらにいらしてるのでしょうか? 私たちが到着する時間が分かっていたようですが、いったいどのような手段を用いて知ったのですか?」

 

「それは内緒。それよりも、今からデートしましょ」

 

「達也様は沖縄に遊びに行っていたわけではないのです。いくら達也様がタフだからといって、まったく疲れていないわけではないのですよ」

 

「でも、達也くんなら平気でしょ? それとも、深雪さんは達也くんがそんなに脆い人だと思ってるのかしら?」

 

 

 真由美の挑発的な態度に、深雪は怒りを露わにして怒鳴りつけようとしたが、達也がそれを手で制した。

 

「ここで目立つようなことをするのは、家的にもマズい。ましてや魔法を使おうなど、全魔法師の未来を閉ざすつもりか」

 

「っ! 申し訳ありません、達也様」

 

「先輩も。必要以上に深雪を煽るのは止めてください」

 

「そんなつもりじゃなかったんだけど……ゴメンなさい」

 

 

 自分たちがしていたことを、そこまで大きな問題と捉えていなかった二人は、達也に注意され顔を俯かせ小さな声で謝罪する。

 

「今からどこかに出かける気にはなれませんが、ウチに来る分には構いません。深雪も、それくらいなら問題ないな?」

 

「……達也様が構わないと仰られるのでしたら、深雪に反論はございません」

 

「先輩も、それでいいですね?」

 

「えぇ、構わないわ」

 

 

 これが最大限の譲歩なのだろうと真由美も理解したので、これ以上を望めば一緒にいられないという事は彼女にも伝わった。だから、少しつまらなそうな表情を浮かべながらも、達也の提案を受け入れたのだった。

 

「水波、すまないが帰ったら先輩の相手を少し頼めるか? 片付けは自分でするから、手伝う必要は無い」

 

「かしこまりました」

 

 

 本当なら達也や深雪の荷解きを手伝いたかった水波だが、来客の世話も立派な仕事なので、不満そうな顔を見せずに頷いてみせた。この辺りは、深雪よりも水波の方が上なのかもしれない。

 

「では、行きますか」

 

「あっ、荷物持つわよ?」

 

「大丈夫です。それに、先輩に荷物を持たせて、俺が手ぶらでは居心地が悪いので」

 

「何よそれ」

 

 

 達也の冗談とも取れる発言に、真由美は笑みをこぼす。そんな優しさに顔を綻ばせ、達也の隣を少し早足で歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自宅に到着してすぐ、達也と深雪は自室へ戻り、真由美は水波に案内されリビングに通された。

 

「こちらでお待ちください。すぐにお茶をご用意しますので」

 

「あっ、それくらい自分で――」

 

「達也さまのご命令ですので。お客様をもてなすのが、私の仕事です」

 

 

 真由美の提案を斬り捨て、水波は一礼をしてキッチンへ姿を消した。残された真由美は、少し落ち着かない様子でソファに腰を下ろし、キョロキョロと視線を彷徨わせる。

 

「ここが、達也くんが生活してる空間なのね……思いのほか普通ね」

 

「達也さまは四葉やFLTとの関係を覚られるわけにはいきませんでしたから。必要以上に大きな屋敷を構えるわけにはまいりませんでした」

 

 

 真由美の独り言に水波が応える。まさか応えが返ってくるとは思っていなかった真由美は、驚いた表情で水波を見詰める。

 

「お茶をお持ちしました」

 

「あ、ありがとう……あれ? でも深雪さんのCADって達也くんがメンテナンスしてるのよね? 達也くん個人の部屋にそれほどの機械があるとは思えないんだけど」

 

「その辺りは私の口からは申し上げる事は出来ません。達也さまにお聞きになるか、深雪様にお聞きください」

 

 

 お茶を渡したことで仕事は終わりだ、とでも言いたげな水波の態度に、真由美は随分と敵視されているなと感じていた。

 

「桜井さんって、香澄ちゃんや泉美ちゃんのお友達よね?」

 

「はい。香澄さんと泉美さんには、仲良くしていただいています」

 

「二人とも表向きは社交的だけど、桜井さんみたいに休日も一緒に遊ぶようなお友達はいなかったのよね。だから、二人と仲良くしてくれてありがとうね」

 

「お礼を言われるようなことは何も。私の方こそ、使用人でしかない私と、名門・七草家のご令嬢が仲良くしてくださるなんて、ありがたい事です」

 

「友達ってそんな事で決める訳じゃないんだし、桜井さんがお礼を言う事でもないと思うけど」

 

 

 自分の言葉をそのまま使われたような気がして、水波は少しむず痒い気分を味わっていた。そのタイミングで、リビングの扉が開かれ、深雪が姿を見せた。

 

「あら、深雪さんの方が先に来たわね。てっきり、達也くんが先か、一緒に来ると思ってたのに」

 

「達也様は各方面へのご報告がありますので、荷解き以外にも部屋でしなければいけない事があるんですよ。それを邪魔するわけにはいきませんので」

 

「てっきり深雪さんの事だから、それでも傍にいると思ってたんだけどね」

 

「達也様の邪魔をするなど、あってはいけない事ですから」

 

 

 満面の笑みでそう答える深雪を、真由美は恐ろしいと感じていた。どれだけ笑みを浮かべていようが、彼女の心の裡は笑っていないと、本能的に理解したのだ。

 

「ところで先輩は、お引越しの準備は済んでいるのですか?」

 

「だいたいね。完成は四月に入ってからでしょ? だから、普段使うようなものはまだそのままよ」

 

「そうですか。ですが、先輩は昔から使用人に頼っているような生活を送っていたでしょうし、あの場所に使用人と呼べる人はいませんけど、大丈夫でしょうか?」

 

「問題ないわよ。これでも、花嫁修業をしてきたんだから」

 

 

 バチバチと火花を散らす二人を見ながら、水波は早くこの場に達也が現れないかと現実逃避をしていたのだった。




水波の胃が心配ですね……
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