劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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人の部屋にいる時のお約束……


IF婚約者ルート真由美編 その3

 真由美が中で慌てている事など気にせず、達也は特に緊張した様子もなく部屋に入ってきた。

 

「た、達也くん!? ノックぐらいしてよ!」

 

「ここは俺の部屋なのですが」

 

「あっ……」

 

 

 自分がどれだけ余裕がないかを自覚する羽目になった真由美は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「えっと……私は何処で寝ればいいのかしら?」

 

「先輩が気にしないのでしたら、そのベッドをお使いください」

 

「それで、達也くんは何処で寝るのかしら?」

 

「俺は別に、地下室だろうがリビングだろうが気にしませんので」

 

「地下室? この家には地下室があるの?」

 

 

 先ほどまで他の事を気にする余裕も無かった真由美ではあるが、興味を惹かれる事を達也が言ったため、その事を気にする余裕が出来たのだった。

 

「さっきも俺は地下室にいたんですけどね」

 

「そうなの? 全然気づかなかったわ」

 

「それで、先輩が嫌だというなら、別に布団を用意しますが」

 

「私は達也くんのベッドで構わないけど、部屋の主である達也くんを追い出すようなことは避けたいわ」

 

「では、どうしましょう」

 

 

 達也は自分が布団で寝るという形でも問題ないのだが、真由美はどうやら違うらしいと雰囲気で感じ取ったので、あえて真由美に尋ねる形にしたのだった。

 

「た、たちゅやくんさえ良ければ――い、今の無し!」

 

「はぁ……」

 

 

 あまりにも緊張しているのか、真由美は思いっきり噛んでしまった。達也はそのまま聞き流すつもりだったのだが、真由美本人が気にしてしまったので、達也も頷くしかなかったのだ。

 

「えっとね、達也くんさえ良ければ、一緒のベッドでも構わないわよ」

 

「一応そのベッドはシングルなのですが」

 

「情けない話だけど、私は身体も小さいから、達也くんの腕の中にすっぽりと納まるでしょうし、それならシングルでも二人で寝られると思うのだけど」

 

「先輩は深雪と魔法大戦をしたいのですか?」

 

「別に深雪さんに話さなければ問題ないんじゃない?」

 

 

 深雪の特性を知らない真由美は、そんなのんきな事を考えているようだったが、達也はため息を一つ吐いてから深雪の特性を真由美に話す事にした。

 

「深雪は少し特殊な鼻を持ってまして、俺限定で、戦闘行為があったとか、女性と一緒にいたとかを嗅ぎ取るんですよ。ですから、深雪に黙っていようが、俺から先輩の匂いがすれば、すぐさま先輩に攻撃を仕掛ける可能性もあります」

 

「達也くん限定の警察犬、ってところかしら?」

 

「その表現が正しいかはさておき、そんな感じだと思っていただいて構いません」

 

「それじゃあ、達也くんと『そう言う事』をしたら、すぐに深雪さんにバレるって事よね」

 

「卒業まではそう言う事はしないつもりですので」

 

「私たちは兎も角、響子さんは急ぎたいんじゃないかしら? もちろん、三十を超えても十分子は産めるけどさ」

 

「先輩も、どことなく下品ですよね」

 

「直接的な表現だとは分かってるわよ! でも、別の言い回しが思いつかなかったのよ」

 

 

 顔を真っ赤にしながら抗議する真由美に対して達也はいつものポーカーフェイスだ。

 

「藤林さんも納得済みですので、先輩が気にする事ではありませんよ」

 

「そうなの……ところで、いい加減その『先輩』って呼び方、止めてくれないかしら?」

 

「別段気にするような事ではないと思うのですが」

 

「気になるわよ! 鈴ちゃんの事は名前で呼んでるとか聞くし、平河さんの事も名前で呼んでたでしょ? 何で私だけ『先輩』のままなのよ!」

 

「これと言ったわけはありませんが」

 

「なら、今から名前で呼んで! 何だか私だけ婚約者として認められてない気がしてならないのよ……」

 

「気にし過ぎでは?」

 

 

 達也としては、名前で呼ぶ理由もないが、呼ばない理由もないので別に名前で呼んでも構わないのだが、あえて変える必要もないと思っているので、そのままの呼称を使っているのだ。もちろん、正式に結婚すれば、変える必要はあるだろうと思っているが。

 

「名前で呼ばれることに、それほどの意味があるとは思えないのですが」

 

「これは女の子側の問題だから、達也くんにはちょっと分からないかもしれないけど、これだけお願いしてるんだから、たまには呼んでくれても良いんじゃない?」

 

「はぁ……それで、真由美さんは結局どうしたいのですか?」

 

「深雪さんの特殊能力を考えると、別々に寝た方が良さそうよね……でも、達也くんを追い出すのも忍びないから、お布団を敷いてそこに私が寝るわ」

 

「俺としては、女性を床に寝かせて、自分だけベッドで寝るのは心情的に嫌なのですが」

 

「それじゃあ、お布団を二つ敷いて、二人ともお布団で寝るっていうのはどうかしら?」

 

「せんぱ――いえ、真由美さんがそれで構わないのでしたら、俺は問題ありません」

 

 

 ついつい『先輩』という呼称を使いそうになった達也だったが、真由美がジト目で睨んできたのですぐさま言い直す。二年以上その呼び名を使っていたのだから仕方ないのかもしれないが、真由美は妥協出来なかったのだ。

 

「それでは、すぐに布団を用意しますので、真由美さんはもう少し待っていてください」

 

「二人で用意すれば早く済むわよ。私も手伝うから、お布団がある場所に案内してくれる?」

 

 

 実に楽しそうな真由美を見て、達也は大人しく真由美と二人で布団の用意をすることにしたのだった。




呼び方を変えるのは何時なんでしょうね……

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