劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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こういうキャラは楽でいいですね


IF婚約者ルートエリカ編 その1

 東京に戻ってきた達也たちを、満面の笑みで出迎えた少女がいる。その少女を見つけて、深雪は不思議そうな顔をしていたが、別に機嫌が悪くなるとか、そう言ったことは無かった。

 

「おかえりー、楽しかった?」

 

「遊びに行っていたわけじゃないのよ?」

 

「でも、ずっとお仕事だったわけじゃないんでしょ? 少しくらい遊んだりしたんだろうし、楽しかったかどうか聞いてもおかしくはないと思うけどな」

 

「まぁ、思いがけず仕事じゃない時間も出来たから、楽しかったけどね。ところで、何で私たちがこの時間に帰ってくるって知ってたの?」

 

「ほのかから連絡を貰ったんだよ」

 

 

 特に口止めもされていないし、隠す事でもないだろうという事なのだろう。エリカはあっさりとネタ元を明かしたのだった。

 

「それにしても、沖縄に行ってた割には、三人とも日焼けとかしてないんだね」

 

「日焼け止めを塗ってたし、それほど日差しの強い場所にいなかったからね」

 

「ほのかや雫が水着姿で迫ったとか聞いたけど、達也くんたちは水着にならなかったの?」

 

「最終日にホテルのプールで遊んだくらいだもの。私や水波ちゃんは水着になったけど、達也様はね」

 

「あぁ、貸し切りじゃなかったんだ」

 

「従業員とかもいたからね」

 

 

 エリカは達也の身体にある無数の傷跡を見たことがある。そして、婚約してからその理由についても聞いているので、それだけの説明で納得出来たのだった。

 

「ところで、ただのお出迎えってわけじゃないんでしょ?」

 

「あったりー! 一泊二日の司波家お泊り旅行でーす」

 

「急に言われても、もてなす準備なんてしてないわよ」

 

「大丈夫。食材とかはウチの冷蔵庫からかっぱらってきたから」

 

「相変わらずね。泊まる部屋は私の部屋でも構わないかしら?」

 

「うーん、本当なら達也くんの部屋に泊まりたいんだけど、ダメ?」

 

「俺は別に構わないが」

 

「達也様が許可なさるのでしたら、私が文句を言える筋合いではありませんので」

 

「深雪、怖いよ?」

 

 

 血涙でも流しそうな勢いで睨みつけて来る深雪に気圧されながらも、達也が許可してくれたことが嬉しかったのか、それ以上の恐怖は感じなかった。

 

「水波、エリカの荷物を運んでやれ」

 

「かしこまりました。千葉様、お荷物をお預かりいたします」

 

「いいって、別に。あたしはそこまで柔じゃないし、桜井さんだって荷物があるんでしょ」

 

「ですが――」

 

「エリカが構わないって言うなら、無理に運ぶ必要は無い」

 

「桜井さんって、本当に使用人なんだね」

 

 

 達也の命令を当たり前のように聞き入れる水波を見て、エリカはそんなことを呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空港から無人タクシーを使い自宅まで戻ってきた達也たちは、エリカが持ってきた食材で夕食を済ませ、リビングで一息ついていた。

 

「話を聞く限り、随分と面白そうな展開になってたんだね」

 

「今の話の、何処が面白そうなんだ」

 

「だって、沢木先輩や桐原先輩だって、楽しんでたんでしょ?」

 

「その後壬生先輩や三十野先輩にこっ酷く怒られてたらしいがな」

 

「さーややとも先輩は仕方ないって。それでも、脱走兵相手に大立ち回りだなんて、楽しそうとしか思えないもの」

 

「エリカ、達也様はお仕事で脱走兵を捕獲すべく動いていたのよ。楽しそうだなんて遊び半分な気持ちじゃなかったのは貴女にも分かるでしょう?」

 

「でも、達也くんなら遊び半分でも取り逃がすなんて事は無いでしょ?」

 

 

 エリカの問いかけに、深雪は反論しようとして立ち上がったが、言葉が出てこずそのまま腰を下ろした。

 

「どうかしたの?」

 

「いえ……確かに達也様なら敵を取り逃がすなんてことは無いでしょうけども、遊び半分で取り組むなんて不誠実な事を達也様がするわけないじゃないの」

 

「それもそっか。ゴメンね、達也くん」

 

「いや、別に気にしてない」

 

「気にしてないって言われても、あたしの気が済まないのよね……そうだ! お詫びに背中流してあげよっか?」

 

「そんなこと認められません!」

 

「冗談だって。そんなに怒らないでよ」

 

 

 達也が何かを言う前に悲鳴に似た怒号を上げた深雪に、エリカは苦笑いを浮かべながらヒラヒラと手を振って深雪を落ち着かせた。

 

「でも、深雪だってそれくらいしたことあるんじゃないの?」

 

「あるわけないでしょ。私も達也様もまだ高校生なのよ」

 

「えーないのー! 達也くん、ちょっと奥手すぎるんじゃない?」

 

「大きなお世話だ」

 

 

 エリカの冗談に、達也も冗談っぽく返す。その反応に満足したのか、エリカの表情は苦笑いから満面の笑みに変わっていた。

 

「さすが達也くんよね。これがミキだったら、怒鳴りつけてきただろうし」

 

「あんまり幹比古をからかって遊ぶのは感心出来ないがな」

 

「だって。見ててじれったくない? ミキも美月も互いを意識してるのバレバレだってのに、未だに苗字で呼び合ってるし、少し手が触れただけで赤面するし」

 

「二人には二人のペースがあるんだろうから、周りがとやかく言うものじゃないだろ」

 

「はーい……達也くんに言われると、素直にいう事を聞かなきゃいけない気持ちになるから不思議だよね」

 

「そんな強制をしてるつもりは無いんだが」

 

「なんていうか、『怒られてる』って感じがするんだよね」

 

「怒っても無いんだが」

 

「分かってるよ。でも、素直にいう事を聞きたくなるんだよね、その声で言われると」

 

「訳が分からん」

 

 

 楽しそうに言うエリカとは対照的に、達也は理解に苦しむという表情で首を傾げたのだった。




まぁ、エリカもからかわれるのは弱いんですけどね

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