劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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達也の部屋に来たら、そりゃ落ち着かないよ……


IF婚約者ルートエリカ編 その2

 比較的穏やかにリビングで過ごしたエリカではあったが、達也の部屋に移動した途端にそわそわとし始める。もちろん達也はいつも通りのポーカーフェイスなので、余計にエリカが慌てているのが目立つのだが。

 

「エリカ、落ちつかないのなら今からでも遅くないから、深雪か水波の部屋に行ったらどうだ?」

 

「だ、大丈夫だって! 達也くんは心配性なんだから」

 

「いや、そんなそわそわした態度で大丈夫と言われても信用出来ないんだが」

 

 

 普段そわそわする人をからかう側のエリカが、そわそわしているのが珍しく思えたが、達也はそれをからかって遊ぶような性格ではない。悪い人ではあるが、人が悪いわけではないのだ。

 

「達也くんは、あたしと一緒じゃ嫌だっていうの?」

 

「別にそんなことは無いが、そこまで所在なさげな態度を取られると、こちらも気になるからな。落ち着く場所で休んだ方が回復出来ると思うが」

 

「そこまで疲れてないから大丈夫よ。それに、これからはこういう機会も増えるだろうから、今から慣れておかないと」

 

「エリカがそれでいいなら、俺はとやかくは言わないが」

 

 

 強がっているのは明らかだが、本人がそれを希望している以上、達也はその意思を尊重する姿勢を取った。対するエリカは、達也の態度にホッとした半面、ちょっと複雑な表情を浮かべている。

 

「どうかしたのか?」

 

「達也くんって、あたしの事をよく見てるなって思ってさ」

 

「何だいきなり」

 

「あたしだって千葉の娘だから、そんな簡単に分かるような態度を取ってるつもりは無いのよ。でも、達也くんはあっさりとあたしが緊張してるって見破ったでしょ?」

 

「今のエリカなら、幹比古だって気付くと思うぞ」

 

「ミキとはそれなりに付き合いが長いから、分かっても仕方ないけど、達也くん程目敏くはないわよ、ミキは。たぶん美月が少し髪型を変えたとしても気づかないだろうし」

 

 

 エリカの例えに、達也は首を傾げたが、自分には分からない世界なのだろうという事で納得する事にした。

 

「達也くんなら、あたしがちょっとイメチェンしただけでも気づいてくれるでしょ?」

 

「実際にその場面になってみなければ分からんが、たぶん分かるとは思う」

 

「女の子は、好きな人にはちょっとした変化でも分かってもらいたいのよ」

 

「そういうものなのか」

 

 

 漸く納得がいったという表情で頷く達也に、エリカは笑みを浮かべて小さく頷いた。

 

「達也くんは物事の変化に敏感だし、あたしたちの変化なんてすぐ気づくだろうけどね」

 

「幹比古だって、ある観点から見れば目敏い部類だとは思うが」

 

「でも、女心には鈍感だからね、ミキは。あれだけ美月が熱い視線を向けてるのに、未だに告白しないんだから」

 

「前にも言ったが、そればかりは二人のペースがあるんだと思うぞ」

 

「だって、もうあたしたちも三年よ? 来年には卒業なんだから、それまでにはくっついてほしいじゃないの」

 

「からかう気満々だな」

 

「当然。あの二人はからかい甲斐があるもんね」

 

「そんな事ばかり言っているから、レオに悪い女とか言われるんだぞ」

 

「別にレオに何と思われようが構わないもの。達也くんさえちゃんとあたしを見ててくれれば」

 

 

 少し照れながらいうエリカに、達也は彼女の頭を軽く撫でた。

 

「子供扱いしないでよ」

 

「顔がにやけてるぞ」

 

「……達也くんに撫でてもらえば、誰だってこうなるって」

 

 

 文句を言っているようにも聞こえるが、エリカの顔はだらしなく緩み切っている。しかも逃れようとすれば簡単に逃れられる程度なのだが、エリカは逃れるどころか自分から達也にすり寄っている。

 

「あたしは深雪や七草先輩のように、達也くんを独占したいとか思わないけど、たまにならいいわね」

 

「なんだそれは」

 

「達也くん、自分がどれだけ人気なのか自覚してないの? どれだけ婚約者がいると思ってるのよ」

 

「生憎そう言う感情とは無縁だからな。恋心は多少なりとも分かるが、乙女心は分からん」

 

「まぁ、達也くんにそう言う事を求めても無駄だって分かってるけどね。って、そう言う事じゃなくて!」

 

 

 巧妙に話を逸らされた気がして、エリカは大声を上げる。エリカの態度に少し驚いた表情を浮かべた達也だが、それ以上の反応は見せなかった。

 

「こうやって達也くんに甘えたい女子はたくさんいるから、独占なんて無理だって話よ。でも、たまにならこうして二人きりで甘えるのも悪くないって事なの」

 

「それは分かったが、エリカだって婚約者なんだから、タイミングさえ合えば何時だって甘えられるとは思うが」

 

「深雪の視線を掻い潜って甘えたいって気持ちは分からないからね。もしかしたら、これから先にそんな気持ちになるかもしれないけど」

 

「深雪だって婚約者の一人なんだから、遠慮する必要は無いんじゃないか?」

 

「達也くんは深雪のあの視線を感じたことが無いから言えるのよ……本当に凍るかもしれないんだからね」

 

 

 深雪の得意魔法を考えると、あながち大袈裟とも思えないエリカの発言ではあるが、達也は気にし過ぎではないかと思っていた。

 

「本当に凍らせることなど無いと思うから、多少我慢すれば問題ないんじゃないか?」

 

「我慢してまで甘えたくないわよ……」

 

「なら、深雪に相談してみるんだな。睨むのをやめてほしいとか言えば、深雪だって考えるだろ」

 

「どうだか……まぁ、達也くんが言えば何とかなるかもね」

 

 

 言外に達也に任せると告げたエリカは、最後に達也の手の感触を楽しんで布団に潜り込んだのだった。




同じ立場とはいえ、やはり深雪は嫉妬深いんでしょうね……

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