案内を任された達也がまず向かったのは、まず間違いなくこのクラスに組み込まれるだろうということで、A組の教室にやってきた。
「ここが一科の教室だ」
「達也様は魔工科生なのですよね?」
「そうだが」
「達也様の教室は何処になるのでしょうか?」
「魔工科はE組だから向こうだ。だが、愛梨たちには関係ないと思うが」
愛梨たちは間違いなく一科生の中で実技を受けたり、三高から送られてきたカリキュラムを受け取る端末も、恐らくはこの教室だと達也は思っているので、魔工科の教室には用がないのではないかと思っている。
「だって、せっかく達也様と同じ学び舎にいるのですから、休憩時間とかに会いに行きたいじゃないですか」
「それほど時間的余裕があるとは思えないし、魔工科は実技などが多いから、教室にいない場合の方が多いぞ」
「それでもなんです」
愛梨が何にこだわっているのか、達也には分からなかったが他の三人には分かっているようだった。恐らく栞も沓子も香蓮も、気持ちは愛梨と同じなのだろう。
「まぁ、見たいというなら案内するが」
「是非お願いしますわ」
愛梨の希望を受け入れ、達也は魔工科クラスであるE組に足を向ける。
「一高が魔工科を作ったのは、達也様を転籍させるためだとお聞きしましたが、実際はどうなのでしょうか?」
「詳しい事は俺も知らない。ただ俺を広告にして新入生を大勢入れようという動きがあったのは確かのようだ」
隅守ケントのように、達也に憧れて四高から一高に志望校を変更した生徒も少なくないと言われる程、二年前に達也が九校戦で見せた技術力は見たものの度肝を抜いたのだった。
「ここが魔工科に割り当てられた教室だ」
「ワシらは最低限しか調整は出来んから、技術力の高い人は羨ましいと素直に思うの」
「沓子はそこらへん大雑把ですもんね」
「出来る者にやってもらった方が確実じゃからな。技術力を磨くよりも実力を磨いた方が前衛的じゃ」
「ですけど、自分のCADくらいは調整出来るようになった方が良いのではないですか? 私も、作戦参謀補佐とエンジニアの両立は楽じゃないんですから」
「香蓮には世話になっておるからの。今年も頼むぞ」
まったく出来るようになるつもりが無い沓子に、香蓮は盛大にため息を吐いて首を左右に振った。
「達也様だって、作戦参謀になられてからはチューニングとかはしてないんですよね?」
「数人程度しかやってないな。さすがに今年はどうなるか分からないが」
達也に調整してほしいという生徒が、今年も多そうだとは思っているが、一昨年は鈴音、昨年はあずさと、作戦を立てる上で自分よりもふさわしいと思える相手がいたのだが、今年は自分たちが最上級生で、周りの人間からは達也に作戦参謀をやらせるべきだという声が既に上がっているのだ。
「達也殿が調整を担当した選手は、互いにつぶし合っただけで事実上の無敗。この噂は今や魔法科高校全九校の間で言われておるからの。ワシがほのか嬢に負けたのも、栞が雫嬢に負けたのも、愛梨が深雪嬢に負けたのも達也殿の技術力が大きいと思っておるからの。特に、ワシや栞は、ほのか嬢や雫嬢と魔法技術だけなら互角だと思っておるからの」
「あら、それだと私は司波深雪に魔法力で劣っていると聞こえるのですが?」
「愛梨の場合はまた話が別じゃからの。深雪嬢の場合は、魔法力云々よりも、達也殿が側にいるだけで実力以上の力を出せるらしいからの。愛梨が魔法力で劣っているかどうかは、ワシには分からんのじゃ」
「その辺り、香蓮さんはどうお思いなのかしら?」
作戦参謀の位置に属する香蓮に話題を振ると、彼女は居心地の悪そうな笑みを浮かべながら、小声で答える。
「魔法力だけなら良くて互角だと思いますが、司波深雪の方が上だと思います。そして愛梨が彼女に勝てないのは、やはり達也様のお力が大きいと思います」
「ほらの。深雪嬢は達也殿の期待に応えるという気持ちから、普段以上の力を発揮しておるのじゃ」
「ですが、今年は私も司波深雪と同じ立場――達也様の婚約者なのですから、私だって実力以上の力を出すことだって可能ですわ」
「残念だが、深雪は俺の能力を封じるのに使っていた魔力を取り戻しているから、去年以上の実力であることは間違いないぞ」
「そうなのですか? そう言えば、達也様は実力の殆どを封じられていたとの事ですが、今年は選手として参加したりはしないのでしょうか?」
香蓮の問いかけに、達也は首を傾げてから否定の返事をする。
「一科生の連中は俺の事を目の仇にしてるからな。チームワークを乱すような人選は避けるべきだろう。ましてや俺は魔工科生だ。選手として出るなら技術スタッフで出てくれと頼まれるかもしれない」
「ですけど、達也さんは一条に真正面から挑んで勝っていますよね? 去年も吉祥寺の精神を乱すような戦術で彼の実力を発揮させないようにしていましたし」
「吉祥寺真紅郎は必要以上に俺に敵対心を抱いていたから、それを利用させてもらっただけだ」
達也としては、あの程度の事に気付かないなど拍子抜けもいいとこだったのだが、結果的に吉祥寺の戦力を大きく削いだので善としたのだった。
「とにかく、俺は選手として参加する確率は殆どないだろうな」
そう締めくくって、達也は校内の案内を再開するのだった。
対抗心を抱いたところで、勝てるはずないのに……