達也を仮住まいに誘う事に成功した四人ではあったが、誰がどの順番で達也と親密になるか決めていなかったので、急遽じゃんけんをすることにした。
「いきなりどうしたんだ?」
「達也様はお気になさらずに」
「これは私たちの問題。達也さんには関係あるけど、これは関係ない」
「良く分からないが、とりあえず気にしないでおこう」
栞の鬼気迫る雰囲気に触れない方が良いと判断した達也は、とりあえず四人が納得するまで放っておくことにしたのだった。
「やはり愛梨はワシらの中では実力も運もずば抜けておるの」
「愛梨、私、栞、沓子の順番ですね」
「長時間達也さんはここにいられないから、さっさと仲良くなりましょう」
「待って、心の準備が……」
いざ何かをしようとしても、達也の顔を見るとその決心が揺らいでしまう。愛梨は踏み出した一歩を無かったことにしようと引き下がったが、三人に背中を押されて達也の目の前まで飛び出てしまった。
「終わったのか?」
「は、はい! あの、達也様……お隣、よろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないぞ。そもそも、ここは愛梨たちの住まいなんだから、俺に遠慮する必要は無い」
あっさりと隣に座れたことで、愛梨は少し拍子抜けの気分を味わっていた。だが、時間がないので早いところ済ませないと次が閊えているのだ。
「達也様、私とキスしてくださいますか?」
「……いきなりだな」
どうすればいいのか分からなかった愛梨は、自分の欲望を素直に達也に告げる事にした。その行動に達也だけではなく、三人も驚いている。
「私は達也様の婚約者です。そして過去に、六本木家との縁談を達也様を巻き込んで破談にした過去があります。その関係かは分かりませんが、一色家は私に早いところ子を産めと言って来ているのです」
「愛梨はまだ高校生だろ」
「それでもです。ですが、達也様が慎み深い方だと言う事は存じていますので、口づけだけで今は満足ですから」
「愛梨、結構大胆だね」
「聞いてるこちらが恥ずかしいぞ」
「そこ! 聞き耳を立てるなんてはしたないですよ!」
「愛梨が聞こえる声量で言っただけで、私たちは聞き耳を立てていたわけではないのですが」
香蓮の冷静なツッコミに、愛梨は顔を真っ赤に染め上げ、目を潤ませる。だがそれが妙に可愛らしいと栞たちに思えたのだった。
「まぁ、キスくらいなら問題ないが」
「では、お願いします」
瞼をキュッと閉じて口づけを待つ愛梨に、達也ではなく他の三人が見惚れてしまったのだった。
愛梨と達也の口づけを目の前で見せられ、香蓮は自分が計画していた事が全て台無しになったと心の中で愛梨に文句を抱いていた。
「(まさかしょっぱなからキスとは……愛梨の行動力を少し甘く見ていたかもしれませんね……)」
香蓮の計画では、ぴったりと寄り添ってあーん、くらいだったのだが、基準がキスになってしまったのでそれでは弱すぎると計画を練り直していた。
「(こうなったら私もキスを……いえ、それでは他の二人も真似をして終わりそうですね……)」
こういう時余裕ぶっている沓子ですら、顔を真っ赤にして二人から視線を逸らしているのだ。これで自分までキスを要求すれば、後二人もキスして達也はこの場から去ってしまうのではと危惧し、なんとか他の行動をしようと香蓮は頭をフル回転させて考える。
「(そう言えば四葉家当主で達也様のご母堂であられる四葉真夜さんは、達也様の膝の上で丸くなるのが至福の時間だと聞いたことがありますね……)」
香蓮は真夜ほど欲望に素直になれるか分からないが、それで行ってみようと決意し、達也の正面に移動する。
「達也様、少しよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「達也様の膝を少しお借りしたいのですが」
「膝? 香蓮さん、貴女何をするつもりなのかしら?」
「愛梨になにか言う権利は無いと思うのですが」
「うぐっ……ま、まぁ、私は既に達也様と口づけを済ませましたから、香蓮さんが何をしようと受け止められますからね」
明らかに強がりであることは、付き合いの長い香蓮だけではなく達也にも伝わっていたが、そこを責める鬼畜さは香蓮にも達也にも無い。
「では、失礼します」
断りを入れてから、香蓮は達也の膝の上に自分の身体を乗せ、そして丸くなる。イメージ的には猫が膝の上で丸くなるような感じだが、香蓮は物凄い恥ずかしさを覚えていた。
「微笑ましい光景じゃが、何故か殺意が湧いてくるのじゃが……」
「奇遇ね。私も香蓮に魔法を放ちたい衝動に駆られているんだけど……」
「達也様、重くないですか?」
「問題ない」
真夜で慣れているのと、香蓮が小柄であることで、達也は全く気にした様子もなく、サービスと言わんばかりに香蓮の頭を撫でる。
「あっ……」
「嫌だったか?」
「いえ、心地よいです……」
達也に撫でられたことで、香蓮は目を細めて気持ちよさそうにさらに丸くなる。さすがに猫ではないので喉を鳴らしたり、顔をこすりつけるなどという事は無いが、見てる側からすれば、完全に猫が甘えているようにしか見えなかった。
「キス、膝の上で丸くなるときて、次は栞の番じゃな……お主は何を望むのじゃ?」
「どうしましょう……」
愛梨、香蓮と非常に甘い雰囲気を作り出した所為で、栞は自分もそうしなければいけないという脅迫概念に囚われ、何をすればいいのかと頭を悩ませたのだった。
切羽詰まり過ぎて全開で甘えてますね……