劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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過激と言えば過激だろうな……


IF婚約者ルート三高女子甘え編 その2

 愛梨と香蓮が甘えた後、栞はどうすればいいか悩んでいた。普段は冷静な栞ではあるが、あれだけの事を見せつけられて冷静でいられるわけがない、むしろ慌てていない方がおかしいのだ。

 

「どうしたんじゃ? 栞は甘えないで終わりで良いのか?」

 

「そう言うわけじゃない。でも、あの二つ後に何をすればいいのかが分からない」

 

「栞がしたいようにすればいいだけじゃろ。愛梨のように接吻を求めるのも善し。香蓮のように甘えるだけでも善しじゃ」

 

「沓子って達観してるよね」

 

「まぁ、実を言うとワシも見ていて恥ずかしかったんじゃがな……栞がワシ以上に慌ててくれたお陰で、ワシは冷静でいられるのかもしれんがな」

 

 

 笑いながらいう沓子に、栞は勇気づけられた気がしていた。彼女が自分で言ったように、沓子も見ていて恥ずかしかったはずなのに励まされたのだ、これ以上怖気づいているわけにはいられないと思ったのだろう。

 

「達也さん、これを食べませんか?」

 

「それは?」

 

「ま、まさか栞、あれをやるつもりなの!?」

 

 

 達也にはただの細長いお菓子にしか見えなかったのだが、愛梨が驚きの声を上げ、香蓮も驚いた表情を見せている。

 

「まさかそうくるとはの」

 

 

 最後に提案をする沓子も、栞の大胆さに呆れた様子だったが。

 

「食べるのは構わないが、普通に食べて良いものなのか?」

 

「いえ、世間ではこのお菓子を男女で食べる時には特別な食べ方があるのです」

 

「特別な食べ方?」

 

「はい。片方ずつを咥えて、ゆっくりと食べ進めるのです」

 

「普通に一本ずつ食べては駄目なのか?」

 

「それが醍醐味ですから」

 

 

 そう言うことに疎い達也はそういうものなのかと納得したが、愛梨たちは栞に文句を言いたげな雰囲気を醸し出している。だが、既に実行した愛梨と香蓮には文句を言う権利が無く、沓子は栞の背中を押した手前、何も言えなかったのだ。

 

「ところで、最終的にはどうするんだ、これ?」

 

「食べきるのも善し、途中で逃げるのもありだそうです」

 

「逃げる?」

 

「顔が近づいて来て恥ずかしくて逃げる、と書いてありました」

 

「一種の罰ゲームみたいなものか」

 

 

 特に気にした様子もなく端を咥える達也に対して、栞は最初から恥ずかしそうにしている。自分で提案していてさすがにやり過ぎたかもと後悔しているのだが、いきなり逃げるわけにもいかず、覚悟を決めてお菓子を咥える。そして達也が食べ始めたのを見て、栞もゆっくりと食べ始め、最終的には栞が恥ずかしさに耐えられずお菓子をかみ砕いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伝説のゲームを目の前で繰り広げられた沓子は、いよいよ自分が何をすればいいのかに頭を悩ませる。

 

「(皆積極的じゃったし、ワシもそれくらいやった方が良いんじゃろうが……さて、何を強請ればよいのやら)」

 

 

 さすがにこの場で「抱いてほしい」と言う覚悟は沓子にもない。仮にも巫女である沓子が冗談でも言うべきではないと自分で理解しているため、ますます頭を悩ませる結果になっているのだった。

 

「(達也殿は何を頼んでも気にせずやってくれると思うが……今後ワシらが気まずくなるようなことは避けるべきじゃろうし……普通に甘えるのが一番かの)」

 

 

 そう結論付けて、沓子は達也に提案するために一歩前に出た。

 

「達也殿、最後はワシなんじゃが」

 

「だろうな。ここまで来て沓子だけを除け者にするつもりは無いから安心しろ」

 

 

 達也の何気ない一言に、沓子は出鼻を挫かれた気分になった。

 

「(これが狙っているのならあざといとか思うのじゃろうが、達也殿は素で言っておるから性質が悪いの……)」

 

 

 ひとしきり恥ずかしがってから、沓子は一つ息を吐いてから提案した。

 

「ワシの頭を撫でで欲しいのじゃが」

 

「そんな事で良いの、沓子?」

 

「むしろお主らが突っ込み過ぎなのじゃ。この程度で満足しておかなければ、後々達也殿と会えない時間が辛くなるとは思わんのか?」

 

 

 沓子の言葉に、三人はその事を失念していたとショックを受ける。だが、既に実行済みなので、後々来るであろう達也と会えない時間を考え、少し鬱が入ったのだった。

 

「撫でるくらいなら普通にしてやるが」

 

「是非頼む。深雪嬢や雫嬢が虜になるその撫で技、ワシにもしてもらいたかったのじゃ」

 

「沓子の言い回しだと、なんだか卑猥に聞こえる」

 

「そんなつもりは毛頭ないぞ」

 

 

 栞のツッコミを軽く流して、沓子は達也が撫でやすいようにもう一歩近づく。そして達也がゆっくりと沓子の頭を撫でると、彼女の顔がだらしなく歪んだ。

 

「沓子、口が半開きになってる」

 

「目も焦点が定まっていないような感じですね」

 

「珍しいですわね。沓子がそんな顔するだなんて……」

 

「これは、至福じゃ……もう他の殿方では満足出来んじゃろうな」

 

「やっぱり卑猥に聞こえる」

 

「今のは栞の意見に賛同出来ますわね」

 

「表情も相まって、物凄く卑猥に聞こえますね」

 

 

 今度は栞の意見を愛梨も香蓮も支持した形だが、沓子からツッコミは返ってこなかった。彼女には今、三人を相手に出来るだけの余裕が無かったのだ。

 

「それじゃあ、俺はそろそろ帰るからな」

 

「お忙しい中、わざわざご足労いただき、ありがとうございました」

 

 

 四人を代表して愛梨が達也を見送った後、だらしなく床にへたり込んだ沓子に声を掛ける。

 

「そんなに気持ちよかったのかしら?」

 

「あれは中毒性が高いの……失敗したかもしれん……」

 

「一番軽そうに見えて、一番ダメージを負う選択をしたのかもしれませんね」

 

 

 香蓮の総評に、沓子は力なく頷いて力の入らない足を動かし、なんとか立ち上がったのだった。




結果的に、沓子が一番まずかったかもしれないですね……

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