入学式の打ち合わせを終わらせた達也の許に、エイミィとスバル、そして千秋がやってきた。
「やぁ、司波君。ちょっといいかな?」
「なにか用か、スバル」
「この後の時間、僕たちにくれないかい?」
深雪のことを気にした様子だったが、スバルは躊躇う事なく要件を伝えた。
「この後? 別に予定はないが」
「それじゃあ、私たち三人に付き合ってもらおうかな」
達也の返事に、エイミィはニパッという効果音が付きそうな笑顔を浮かべた。
「私たちは沖縄にいけなかったから、少しくらい達也さんに甘えてもいいと思うんだけどな」
「私は何も言っていないわよ、エイミィ」
「だって、凄く睨んでるし」
「司波さんは沖縄で十分甘えたんでしょ? だったら、少しくらい我慢してくれないかな」
エイミィと千秋に指摘され、深雪は自分が苛立っている事に気が付き、何時もの猫の皮を被り誤魔化しを測るが、既に意味は無かった。
「それじゃあ深雪、司波君の事、少し借りていくからね」
「達也様は私の所有物というわけでもないのだから『借りる』という表現が正しいかは分からないけど、達也様が付き合うといった以上、私からは何も言う権利は無いわ」
「それじゃあ深雪、また今度ね~」
達也の腕を取って深雪に手を振るエイミィと、その二人の後にスバルと千秋が続き、それぞれ深雪に軽く挨拶をしてから校門に向かっていった。
「深雪先輩、この後少しよろしいでしょうか」
「何、泉美ちゃん?」
「姉が深雪さんに会いたいと言ってきましたので、深雪先輩のご都合をお聞きしただけです」
「先輩が? ……達也様がいなくなってしまった以上、断る理由はありません。お会いしますとお答えしておいてください」
「かしこまりました。ちなみに、案内役は私が務めますので、この後もご一緒させていただきます。もちろん、水波さんも」
嬉しそうな泉美とは対照的に、深雪は絶望的な表情を浮かべている、エイミィたちの言い分も分からなくはないのだが、それでも達也が側にいないという事は、深雪にとって不幸でしかないのだった。
引きずられるままに街にやってきた達也だったが、三人は何処に行くか決めていないようで先ほどから何処に入るかで揉めていた。
「この間のファストフードは?」
「この間って、昨日も行ったばかりだろうが」
「この辺りってどんな店があるの? 私、そんなにこの辺り詳しくないんだけど」
「いっそのことお昼抜きとか」
「それは嫌だな」
会話を聞く限り、どこの店で昼食を摂るかで揉めているようだが、達也もこの辺りには詳しくないので、三人が結論を出すまで大人しくしておくことにした。
「そうだ! 達也さんは何か食べたいものとかありますか?」
「いや、三人が行きたいところで構わないぞ」
「うーん……そう答えて来ると分かっていたが、そう言われると困ってしまうね」
「もうそこのカフェでいいんじゃない? 軽食もあるそうだし」
めんどくさそうに千秋が呟くと、エイミィもスバルも何だかそれでいい気がしてきて、その提案に乗ることにしたのだった。
「それじゃあ、入りましょう」
「随分とテキトーに決めたが、それでいいなら」
達也も少し呆れた様子ではあったが、三人が納得したならと素直にその店へ入ることにした。
「さって、何を食べようかな」
「僕はサンドウィッチで」
「私もそれでいいかな」
「達也さんは?」
「俺はコーヒーだけで構わない」
一食抜いた程度で力が出ない柔な鍛え方をしていない達也としては、ここで食べなくても特に問題は無い。だが、三人は不満そうな表情を浮かべたため、仕方なく軽食メニューへと視線を向けた。
「じゃあ、ホットサンドで」
「私もそれにしよ~」
注文を済ませ、先に運ばれてきた飲み物で喉を潤し、三人は沖縄でどんなことがあったのかを達也に聞いていた。
「じゃあやっぱり、ほのかと雫は水着になったんだね?」
「あれはスバルの差し金か」
「深雪ばっかに良い思いをさせるのもどうかと思うよ、僕は」
「達也さんと深雪が仲の良い兄妹だったのは知ってるけど、実際は従兄妹だったんだから、少しくらい深雪も我慢してもらいたいんだけどね~。でも、さすがに無理矢理達也さんと引きはがす勇気は私たちには無いからね」
「ただでさえ強力な魔法師だったのに、更に実力が増したって聞いてるからね。私なんかでは太刀打ちどころか対峙した時点で氷漬けになってると思うし」
千秋の冗談を笑い飛ばせるほど、エイミィもスバルも考えなしではない。ましてや二人は深雪と同じ一科生、彼女の実力は魔工科の千秋より詳しく知っているのだ。
「僕たちもまともに戦う事は出来ないだろうね」
「精々逃げ回るのがオチだね」
「お前ら、深雪をからかって遊んでるのか?」
「そんなことは無いよ。そもそも、からかったところでこちらが期待する反応は見せてくれないだろうし、下手をすれば千秋が言ったように氷漬けにされてしまう」
「深雪もそこまで好戦的ではないんだがな」
「それは達也さんだから、だと思うよ」
「妹ポジションにいるから分かるけど、盗られると思うと何でもするよ」
過去にテロリストの手先として達也を困らせようとしたことがある千秋の言葉には、かなりの重みがあった。その事情を一応聞いていたエイミィとスバルは、達也のようにポーカーフェイスを保つことが出来ず、引き攣った笑みを浮かべていたのだった。
一科も二科も魔工科も無く、達也の婚約者たちは仲が良いです