劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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久しぶりにあの人が……


IF婚約者ルート技術者編 その1

 生徒会室で入学式についての打ち合わせをしていると、達也の端末に来客を告げるメールが届いた。春休みに、しかも学校に来客ということで、達也は眉を顰めてメールを開き、小さくため息を吐いた。

 

「達也様、如何なさいました?」

 

「応接室に来客だそうだ」

 

「来客、ですか?」

 

 

 深雪も不審がって眉を顰めた。その表情を見て達也は深雪に自分の端末を見せる。すると、怒りに満ちたような表情を一瞬だけ浮かべ、すぐにいつも通りのポーカーフェイスに戻ったのだった。

 

「会う必要は無いと思いますが」

 

「俺もそう思うが、ここで追い返せば家に来る可能性がある」

 

「……かしこまりました。達也様には、後程私が決定事項を伝えますので、この場は抜けて構いません」

 

「すまないな」

 

「ちょっと待ってください! 司波先輩だって生徒会役員なのですから、最後までこの場にいるべきではありませんか? ――ヒィッ!?」

 

 

 事情が分からない泉美が、彼女にしては珍しく深雪の決定に異を唱える。そんな泉美を視線だけで黙らせて、深雪は達也の為に生徒会室の扉を開いた。

 

「お願いいたします、達也様。絶対にあの女を『私たちの家』に来させないでください」

 

「分かってる。だが、ここで相手をすればウチに来ることは無いと思うから、そこまで顔を強張らせなくてもいいと思うぞ」

 

「そ、そんなに強張ってますでしょうか?」

 

 

 慌てて手鏡を取り出し、自分の顔を確認する深雪に、達也はいたずらっぽく笑いかける。

 

「俺が見れば分かる程度だ。深雪は変わらず可愛らしい顔をしているよ」

 

「もう! からかわないでください」

 

 

 達也に褒められて上機嫌になった深雪は、そのまま会長の椅子に戻り、終始笑顔で打ち合わせを進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 応接室にやってきた達也を出迎えたのは、深雪の父の後妻である司波小百合と、一高OGの二人だった。

 

「何か御用でしょうか、小百合さん。俺もそれほど暇ではないので、前置きは結構ですので」

 

「相変わらず私の事は気に入らないようね」

 

「深雪は、ですがね。それで、その二人は何故小百合さんと一緒にいるのでしょうか?」

 

「貴方の婚約者らしいわね、この二人は。ぜひわが社で雇いたいのだけども」

 

「人事などの決定権は俺にはありません。本人に直接交渉したら如何でしょうか」

 

 

 年上に対する尊敬だとか、そんなことは達也に期待していない小百合ではあるが、この態度に苛立ってしまうのは相変わらずだった。

 

「貴方に聞けと言われたからここに来たのよ。そうでもなければこんなところに来るわけないでしょ」

 

「そうでしたか。それは足労をかけましたね。ですが、お二人が小百合さんの下で働きたいと言うのであれば、俺にそれを止める権利はありませんので。それで、どうなんですか、先輩方は」

 

 

 小百合の隣で黙って今までの流れを見ていた鈴音と小春は、達也の問いかけに静かに答える。

 

「私は、達也さんの下でならとお答えしたのですが」

 

「わ、私もです。達也君の下でなら喜んで働くと答えたんだけど、この人が納得しなかったみたいで……」

 

「と言う事らしいですが、この二人を雇うのであれば開発第三課にお願いします。あそこなら、お二人が希望している『俺の下』という条件に当てはまるでしょうし」

 

「好きにしなさい! 私はこれで失礼するわ!」

 

「校門までお送りしましょうか?」

 

「結構です!」

 

 

 狙い通り小百合に癇癪を起させ応接室から追いやった達也は、視線を鈴音と小春に向ける。

 

「何故小百合さんに目をつけられたのでしょうか」

 

「大学の方でやっている研究を何かの雑誌で見たらしく、それでスカウトされました」

 

「私もです。名刺をもらって達也君の関係者だと分かったんですけど、どうも高圧的な態度が気に入らなかったものでして……」

 

「まぁ、あの人はいろいろと面倒な立場ですしね」

 

 

 相変わらず小百合は第三課の成果を達也が独り占めしてるのではないかと疑っている。それでなくても達也の発言権が大きくなってしまった事に焦りを覚えている中で、これ以上第三課に成果を上げられるとますます頭を悩ませなければならなくなってしまうから仕方のない事なのだが。

 

「それで、お二人は本当に第三課に入るつもりなのですか?」

 

「達也さんの下であるなら、私は何処でも構いません」

 

「まぁ、あそこのトップは俺ではないんですけどね」

 

「そうなんですか?」

 

 

 内情を知らない小春が首を傾げながら問うと、達也は苦笑いを浮かべながら頷く。

 

「一応あの課のトップは別の人と言うことになってますが、あの課に在籍している研究員、及びテスターの人たちは頑なに俺をトップだと認識してるんですよね」

 

「それだけ達也さんの事を認めているという事なのでしょう。ところで、その第三課という場所を見てみたいのですが、案内をお願い出来ますか?」

 

 

 鈴音の提案に、達也は少し考えるそぶりを見せてから頷く。

 

「どうせこの後行くつもりでしたから構いませんよ。その前に、ちょっと生徒会室に寄ってもいいですかね」

 

「構いませんよ。深雪さんに事情を説明するのであれば、私たちも同行した方が良いでしょうし」

 

「そうですね。達也君を借りるなら、司波さんに断りを入れておかないと後が怖いものね」

 

「鈴音さんと小春さんは、深雪のことを何だと思ってるんですか……」

 

 

 立場的には同じであるはずなのに、鈴音も小春も必要以上に深雪を警戒しているように達也には感じられた。だがこれはこの二人だけに限った事ではなく、他の婚約者も多かれ少なかれ深雪のことを警戒しているのだが、達也にはその必要性を感じられないのだった。




もう本編では出てこないだろうな……

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